日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-64)

ポスター発表 PC(01-64)

2016年10月8日(土) 15:30 〜 17:30 展示場 (1階展示場)

[PC09] 5年生学級での葛藤状況に関わる話し合い

状況の見直しと感情的側面をふまえた対処がどのように話されるか

岩田美保1, 鶴島規晃#2 (1.千葉大学, 2.千葉大学教育学部附属小学校)

キーワード:学級, 感情, 談話

問題と目的
 学校生活においては,学級内や児童間にさまざまな葛藤が生じ得る。こうした個人や対人間の感情的経験について会話する能力は,感情的なコンピテンスの核となるものとしてその重要性が指摘されている(Saarni, 1999)。特に過去に生じた葛藤状況についての学級での話し合いでは,そうした状況を解決し,再発を阻止するために,状況の見直しや,さまざまな対処に焦点が当てられ話し合いがなされていく可能性がある。本研究では,他者理解や感情調整能力が深まる(Shaffer, 2005,等),高学年期(5年生)の児童間の学級での話し合い場面に着目し,児童たちが過去に生じた問題状況(経験)の見直しと,特に,級友の感情的側面をふまえた対処についてどのような言及ややりとりがなされるかについて検討を行った。
方   法
研究協力者:首都圏にある小学校の5年生の1クラス(5年生39名)
観察内容:本研究は,201X年1月に行われた特別活動での話し合い(40分)について研究対象とした。テーマは「自習時のルール」であった。話し合いの数日前に行われた自習時においてみられた状況(おしゃべり等)について,児童たちから,問題提起がなされ,改善にむけた話し合いが行われることになった。本研究ではこの問題提起に関わる状況を葛藤を含んだ状況と捉えた。
分析:話し合いの録音記録からプロトコルデータを作成した。今回の分析では問題提起に対する状況の見直しや,再発がなされないための感情的側面をふまえた対処がどのように話されるかに焦点をあて分析を行った。
結果と考察
1)状況の見直し
 話し合いの冒頭より,自習時に一部にみられたおしゃべりのきっかけが,求められた課題以外の級友とのやりとりを伴う作業を行おうとする中で生じたものであったこと,さらに,Table 1の通り,そうしたおしゃべりが「広がっていった(児童C)」ことや,その原因のひとつが「注意する人の声が大きい(児童D)」こと,「何人も(児童E)」が「おもいっきり(児童E)」注意を喚起し合うことによるものであったこと等が議長や教師,<何人かの声>も含んだやりとりの中で語られ,問題状況が見直されていった。これにより,その後の話し合いでは,そうした状況を阻止するためにどうするかという点に焦点があてられていった。
2)感情的側面をふまえた対処
 話し合いでやりとりされた級友の感情的側面をふまえた対処のうち,児童間の反対意見等がみられず,一定の合意が得られていたと考えられるものについて,Table 2に示した。一つは,感情面で罰を与える対処(a)であり,うるさくした人に別の場所への移動を求め,『さびしくさせる』といったものであった。一方,『やさしく言う』ことで当事者の感情を調整していこうとする対処(b)や,経験の見直しに基づく,級友たちの感情や行動(『あまりにもおもしろすぎて周りの人がどんどん加わっていく』)をふまえた対処(c)等についてもやりとりされた。これらは5年生児童たちが,話し合いの中で,具体的な級友等の日常的な行動や感情,またそれらに関わる経験をふまえながら,罰のみならず,より調整的な対処も含めた対処を効果的なものと捉え,適用していこうとする様子が窺われるものとして興味深いものといえる。今後はこうした言及を含む児童間の相互的なやりとりの詳細な分析をさらに進めていく。
【H28年度科研費(基盤研究(C),研究代表者 岩田美保)の助成を受けた。】