[PC21] マルチレベル分析によるアクティブラーニング型授業の効果測定(1)
アサーションスキルへの影響
Keywords:アクティブラーニング, アサーションスキル, マルチレベル分析
近年,大学教育の中で,アクティブラーニング型授業の試みが増えてきている。アクティブラーニングとは,「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり,学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学修法の総称」であり(中央教育審議会,2012),このような授業で育成される能力としては,汎用的技能・態度および,それを支える能力が想定されている(溝上,2014)。
しかし,アクティブラーニング型授業の中で学生が行なった活動内容が,汎用的技能・態度の育成に及ぼす影響を実証的に検討する場合,注意すべき点がある。アクティブラーニング型授業はグループワークの形式を取ることが多く,全ての学生は特定の集団に所属して活動を行なっている。そのため,授業の効果を正しく推定するためには,所属する集団に共通する集団レベルの効果と,集団レベルの効果を除去した個人レベルの効果を分けて算出することが望ましい。そこで本稿では,4ヶ月間に渡るグループワーク活動(発言・協同活動)が,汎用的技能である「アサーションスキル」に及ぼす集団レベルおよび個人レベルの効果を,マルチレベル構造方程式モデリングを用いて検討する。また所属する集団内の環境が,個人の成長に及ぼす効果についても併せて検討する。
方 法
調査対象者 4年制大学の心理学科のアクティブラーニング型授業を履修した185名(女性66名,男性119名)。授業は,1年次秋学期の必修授業として全15回行なわれた(1回2コマ)。授業では,オリジナルの心理尺度を作成する課題を,5~8名の固定メンバーから成る30グループで実施した(2014年度14グループ,2015年度16グループ)。
質問紙 (1)グループワーク活動:Bonwell & Eison(1991),関田・安永(2005)等を参考に,グループワーク内で「発言活動」(例,「相手が話していることの要点を的確に理解してその要点に対して発言する」「正解か否かを気にせずに発言する」)や,「協同活動」(例,「グループで責任を持つ」「あらゆる適切な情報や考え方は共有する」)ができたかを測定する11項目を作成し使用した。(2)アサーションスキル:金子ら(2010)のアサーション行動尺度を使用した。
手続き (1)は第2回から第14回の授業終了時に毎回測定した。(2)は第1回授業開始前(事前)と第15回授業終了時(事後)に測定した。
結果と考察
アサーションスキルの各因子(自己主張,他者尊重,客観的自己統制,説得交渉)に対して,グループワーク活動が及ぼす効果を検討するために,Figure 1の分析モデルを使用した。2種類のグループワーク活動得点には13回分の得点の平均値を用い,級内相関係数はそれぞれ.09と.21であった。説明変数は全体平均による中心化を行った。
その結果,集団レベルのパス(a~c)はいずれも有意ではなく,グループワーク活動が活発だったグループほど,平均して事後のアサーションスキルが高いという集団レベルの効果は見られなかった。
個人レベル(f~h)では,一部に有意なパスが見られた。パス(f)については,4因子の全てで有意な正の効果が得られ,事前のスキルが高い人ほど事後のスキルも高かった。パス(g)については,自己主張と客観的自己統制に対して有意な正の効果が得られ,グループワーク中に発言できた人ほど,事後の自己主張スキルや客観的自己統制スキルが高かった。パス(h)については,自己主張スキルに対して有意な負の効果が,他者尊重スキルに対して有意傾向の正の効果が見られ,グループワーク中に協同活動ができた人ほど,事後の自己主張スキルが低く,他者尊重スキルは高かった。なお,グループ全体の発言活動あるいは協同活動レベルの高さ(集団環境)は,個人レベルのパス(f)の強さに影響していなかった(パスd,e)。
以上の結果から,グループワーク内で特定の個人活動を行わせることで,個人のアサーションスキルを効果的に育成できる可能性が示された。
しかし,アクティブラーニング型授業の中で学生が行なった活動内容が,汎用的技能・態度の育成に及ぼす影響を実証的に検討する場合,注意すべき点がある。アクティブラーニング型授業はグループワークの形式を取ることが多く,全ての学生は特定の集団に所属して活動を行なっている。そのため,授業の効果を正しく推定するためには,所属する集団に共通する集団レベルの効果と,集団レベルの効果を除去した個人レベルの効果を分けて算出することが望ましい。そこで本稿では,4ヶ月間に渡るグループワーク活動(発言・協同活動)が,汎用的技能である「アサーションスキル」に及ぼす集団レベルおよび個人レベルの効果を,マルチレベル構造方程式モデリングを用いて検討する。また所属する集団内の環境が,個人の成長に及ぼす効果についても併せて検討する。
方 法
調査対象者 4年制大学の心理学科のアクティブラーニング型授業を履修した185名(女性66名,男性119名)。授業は,1年次秋学期の必修授業として全15回行なわれた(1回2コマ)。授業では,オリジナルの心理尺度を作成する課題を,5~8名の固定メンバーから成る30グループで実施した(2014年度14グループ,2015年度16グループ)。
質問紙 (1)グループワーク活動:Bonwell & Eison(1991),関田・安永(2005)等を参考に,グループワーク内で「発言活動」(例,「相手が話していることの要点を的確に理解してその要点に対して発言する」「正解か否かを気にせずに発言する」)や,「協同活動」(例,「グループで責任を持つ」「あらゆる適切な情報や考え方は共有する」)ができたかを測定する11項目を作成し使用した。(2)アサーションスキル:金子ら(2010)のアサーション行動尺度を使用した。
手続き (1)は第2回から第14回の授業終了時に毎回測定した。(2)は第1回授業開始前(事前)と第15回授業終了時(事後)に測定した。
結果と考察
アサーションスキルの各因子(自己主張,他者尊重,客観的自己統制,説得交渉)に対して,グループワーク活動が及ぼす効果を検討するために,Figure 1の分析モデルを使用した。2種類のグループワーク活動得点には13回分の得点の平均値を用い,級内相関係数はそれぞれ.09と.21であった。説明変数は全体平均による中心化を行った。
その結果,集団レベルのパス(a~c)はいずれも有意ではなく,グループワーク活動が活発だったグループほど,平均して事後のアサーションスキルが高いという集団レベルの効果は見られなかった。
個人レベル(f~h)では,一部に有意なパスが見られた。パス(f)については,4因子の全てで有意な正の効果が得られ,事前のスキルが高い人ほど事後のスキルも高かった。パス(g)については,自己主張と客観的自己統制に対して有意な正の効果が得られ,グループワーク中に発言できた人ほど,事後の自己主張スキルや客観的自己統制スキルが高かった。パス(h)については,自己主張スキルに対して有意な負の効果が,他者尊重スキルに対して有意傾向の正の効果が見られ,グループワーク中に協同活動ができた人ほど,事後の自己主張スキルが低く,他者尊重スキルは高かった。なお,グループ全体の発言活動あるいは協同活動レベルの高さ(集団環境)は,個人レベルのパス(f)の強さに影響していなかった(パスd,e)。
以上の結果から,グループワーク内で特定の個人活動を行わせることで,個人のアサーションスキルを効果的に育成できる可能性が示された。