The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PC(01-64)

ポスター発表 PC(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 3:30 PM - 5:30 PM 展示場 (1階展示場)

[PC23] マルチレベル分析によるアクティブラーニング型授業の効果測定 (3)

大学環境に対する適応感への影響

佐藤友美1, 高比良美詠子2, 杉本英晴3 (1.中部大学, 2.中部大学, 3.中部大学)

Keywords:アクティブラーニング, 大学環境への適応感, マルチレベル分析

 大学教育において,アクティブラーニング型授業が積極的に取り入れられてきている。このような授業では,汎用的技能・態度や,それを支える能力が育成されると想定されている(溝上, 2014)。本稿では,アクティブラーニング型授業の中でもグループワークに焦点を当てる。グループワークのような協同学習は競争学習や個別学習に比べ,心理的適応や大学への態度などの改善において優れていることが知られている (Johnsonら, 1998)。しかし,グループワークが適応感に及ぼす効果についての実証的な検討は少ない。
 そこで本研究では,グループワークが大学環境への適応感に与える影響を検討する。グループワークにおいては,グループでの発言の多さやグループのまとまりを大切にする言動など,グループ活動によってその効果が異なると考えられる。そこでグループワーク中の活動(発言活動とグループ維持・形成活動)が,大学生の適応感に及ぼす集団レベルおよび個人レベルの効果を,マルチレベル構造方程式モデリングを用いて検討する。
方   法
 調査対象者 大学1年生185名(女性66名,男性119名)で,5~8名の固定メンバーから成る30グループを対象とした。
 質問紙 (1) グループワーク中の活動:Bowell & Eison (1991), 関田・安永 (2005) 他を参考に作成した「発言活動」と「協同活動」を測る11項目の尺度を使用した。(2) 大学への適応感:大久保・青柳 (2003) の大学環境への適応感尺度29項目から,「居心地の良さの感覚」「被信頼感・受容感」「課題・目的の存在」「拒絶感のなさ」の4因子を使用した。
 手続き (1) は第2回から第14回の授業終了時に毎回測定した。(2) は第1回授業開始前と第15回授業終了後に測定した。
結果と考察
 大学環境への適応感の4因子のそれぞれに対して,グループワーク中の活動が及ぼす効果を検討するために,Figure 1.の分析モデルを使用した。グループワーク中の活動は,全13回の平均値を使用し,各説明変数については全体平均による中心化を行なった。発言行動と協同活動の級内相関係数はそれぞれ.09,.20であった。
 その結果,集団レベルのパス (a~c) については,「居心地の良さの感覚」と「拒絶感のなさ」においていずれも有意ではなかった。パス (b) については,「課題・目的の存在」で有意傾向の正の効果がみられた。つまり,より発言行動ができていたグループほど「課題・目的の存在」を強く認識する傾向が見られた。パス (c) においては「被信頼感・受容感」と「課題・目的の存在」で有意傾向の負の効果が見られた。つまり,より協同活動ができていたグループほど「被信頼感・受容感」と「課題・目的の存在」が低くなる傾向が見られた。
 個人レベル (f~h) では,パス (f) については,4因子の全てで有意な正の効果が得られ,授業開始時の適応感が高い人ほど全授業終了時の適応感も高かった。パス (d) (e) については,「居心地の良さの感覚」と「拒絶感のなさ」ではいずれも有意ではなかった。パス (d) については,「被信頼感・受容感」と「課題・目的の存在」において,それぞれ有意および有意傾向の負の効果が見られた。つまり,グループ全体の発言活動ができているほど,個人レベルのパス (f) の効果が弱くなった。パス (e) においては,「被信頼感・受容感」でのみ有意な正の効果が見られた。つまり,グループ全体の協同活動が多いほど,個人レベルのパス (f) の効果が強くなることが示された。
 以上の結果から,グループワークにおいては,グループ全体の協同活動を活性化させることが,個人レベルの大学での被信頼感・受容感を高める可能性が示唆された。一方,グループ全体の発言活動を活性化させることは,個人レベルの適応感を低める可能性が示された。