The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PC(01-64)

ポスター発表 PC(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 3:30 PM - 5:30 PM 展示場 (1階展示場)

[PC36] 教育実習生が失敗から学ぶプロセスの検討

ネガティブな情動の機能に注目して

松尾剛, 友添優里#, 杉村智子 (福岡教育大学)

Keywords:情動, 教育実習, 教員養成

問題と目的
 教育実習前には様々な不安を抱き,さらに実習経験後には自信をなくすことで,教職への志望意識を低下させてしまう学生の現状が問題となっている。しかし,初めて教職を経験する実習生にとって,実習への不安や実習中の失敗や挫折の経験は不可避なことであり,この不安や失敗の経験によるネガティブな感情を実習生の学びへとつなげていく援助や取り組みこそが必要である。現職教員を対象とした木村(2010)の研究では,授業中の失敗経験から生起したネガティブな感情が授業後の省察を促すことが明らかになっており,ネガティブ感情が学びにつながる可能性を示している。したがって本研究では,教育実習生が不安や失敗から学ぶ詳細なプロセスを明らかにするために,実習への不安が,実習中の失敗経験によって生起するネガティブ感情にどのように影響し,また,その感情が実習生の学びにどのように影響するかを検討する。
方   法
 教育実習を終えた大学3年生158名(男性58名,女性99名,不明1名,平均年齢20.8歳)を対象として2015年10月下旬~11月上旬にかけて質問紙調査を実施した。使用した質問項目は,①教育実習不安尺度(大野木・宮川, 1996)から「授業実践力」「児童・生徒関係」「体調」の3因子18項目,②授業中に生じるネガティブ感情尺度20項目,③教育実習における失敗からの学び尺度13項目であった。②については小・中学校の初任者の教員379名を対象とした予備調査によって収集した項目に基づいて作成し,③については3名の筆者が協議して作成した。回答はすべて「1:全くあてはまらない」から「5:非常にあてはまる」の5件法で求めた。
結果と考察
(1) 各尺度について最尤法,プロマックス回転による因子分析を行った。因子数の決定には平行分析を用いた。各因子への負荷量が.40以下の項目や,複数の因子に高い負荷量を示す項目については分析の過程で除外した。分析の結果,①教育実習不安については先行研究とほぼ同様の3因子「授業実践力への不安」(子どもたちにわかりやすい授業ができるか不安だった。教え方が未熟で授業を聞いてもらえないのではないかと不安だった。など5項目,α=.91)「児童・生徒関係への不安」(授業の途中に失敗をして子どもたちにバカにされるのではないかと不安だった。子どもたちにいじめられるのではないかと不安だった。など5項目,α=.84)「体調への不安」(体調を悪くしてしまうのではないかと不安だった。実習中,病気をしたりするのではないかと不安だった。など3項目,α=.84)が抽出された。②ネガティブ感情については「自分に向けたネガティブ感情」(実習中に失敗して,自分にうんざりすることがあった。実習中に失敗して,自分が情けなく感じることがあった。など11項目,α=.96),「児童・生徒に向けたネガティブ感情(実習中に失敗して子どもたちに対して嫌気がさすことがあった。実習中に失敗して,子どもたちに対してがっかりすることがあった。など6項目,α=.89)の2因子が抽出された。③失敗からの学びについては「授業の振り返り」(実習中の失敗について,その時どうしていればよかったのか考えた。実習中の失敗について,なぜ失敗したのかじっくり考えたことがあった。など7項目,α=.86)の1因子が抽出された。
(2) 実習不安,ネガティブ感情,失敗からの学び,の関係性を検討するため,因子得点を用いたパス解析を行った(Figure 1)。失敗にともなうネガティブ感情は,授業の振り返りという適応的な行動を引き起こしうるが,その感情が児童や生徒に向けられた場合には,その機能が発揮されない可能性が示唆された。また,子どもとの関係づくりに関する不安は,児童・生徒に向けたネガティブ感情の生起を予測しており,そのような不安を抱えている学生へのサポートの必要性を指摘できる。