[PC56] 愛着と情動制御
愛着スタイルによる個別情動に対する意識的態度の差の検討
キーワード:愛着, 情動制御, 意識的態度
問題と目的
愛着理論(Bowlby, 1969, 1973, 1980)においては,情動制御の個人差は,乳幼児期からの愛着関係に内在する情動経験の質に由来すると考えられている。坂上・菅原(2001)は,大学生を対象に意識レベルでの情動情報の処理と愛着との関連を検討している。その結果,愛着の安定性の高い人は,自他の悲しみや喜びに対する内省や覚知が高く,回避性の高い人は,悲しみや喜びに対する不快感が高い傾向があった。また両価性の高い人は,自他の怒り,喜びの覚知が低い傾向があった。以上より,各愛着特性は特定の情動に対する意識の上での異なる態度や構えと関連しており,それらが,各愛着スタイルを維持するように働いていることが示唆された。
坂上・菅原(2001)の研究では,愛着の測定に,詫摩・戸田(1988)による成人版愛着スタイル尺度を用いている。本邦では,成人版の愛着の測定尺度としては,中尾・加藤(2004)によるECR-GOが一般的に用いられるようになってきており,本研究では,愛着の測定に,中尾・加藤(2004)の尺度を用いて,坂上・菅原の研究を再検討することを目的とする。
方 法
調査協力者 大学生135名であった。このうち分析には,欠損値のない122名(男性51名,女性71名)のデータを用いた。平均年齢は18.90歳。
調査時期 2015年11月中旬に実施した。
調査方法 調査方法は,個別自記入形式の質問紙調査を集団調査形式で実施した。回答はいずれも無記名で行い,個人が特定できない形で実施した。実施時間は10分~15分であった。
質問紙調査の内容:
(1) 一般他者版成人愛着スタイル尺度(ECR-GO)
一般化された他者を想定し回答させる中尾・加藤(2004)によって開発された愛着スタイル尺度である(7件法)。
(2) 個別情動に対する意識的態度の測定:
坂上・菅沼(2001)が開発した個別情動に対する意識的態度測定尺度を用いた。全80項目(各情動(怒り,悲しみ,恐れ,喜び)につき各20項目,7件法)。以下の4つの下位尺度(各5項目)から構成されている((1)「情動に対する内省傾向」,(2)「自己の情動の覚知」,(3)「他者の情動の覚知」,(4)「情動に対する不快感」)。
結 果
被験者のECR-GOの2下位尺度得点の高低の組み合わせから,4群に分けたところ,安定型44名(36.9%)、拒絶型40名(33.6%),とらわれ型10名(8.4%),恐れ型25名(21%)であった。個別的情動に対する意識的態度について,4群間における平均値の差の検定を行った結果,「喜び」については,「自己覚知」(p<.05),「他者覚知」(p<.01),「不快感」(p<.05)で有意な差が見られた。多重比較(Tukey HSD法)の結果,「他者覚知」においては,安定型は恐れ型に比べて得点が高く,「不快感」については,恐れ型が安定型に比べて得点が高かった。「怒り」については,いずれの下位尺度においても愛着スタイルによる有意差が認められなかった。つぎに「悲しみ」については,「他者覚知」(p<.05),「不快感」(p<.10)の差が認められた。多重比較(Tukey HSD法)の結果,「他者覚知」においては,安定型は恐れ型に比べて得点が高く,「不快感」については,とらわれ型が回避型に比べて得点が高かった。「恐れ」については,「不快感」において有意傾向の差(p<.10)が認められたが,多重比較(Tukey HSD法)の結果,愛着スタイルによる差は認められなかった。
考 察
先行研究同様,安定した愛着は,「喜び」や「悲しみ」に対する知覚(他者覚知・自己覚知)の高さと関係していることが示された。また回避性の高さは、他者との関係を深めることにつながりやすい「悲しみ」や「喜び」に対する不快感の高さと関係していることが示された。
愛着理論(Bowlby, 1969, 1973, 1980)においては,情動制御の個人差は,乳幼児期からの愛着関係に内在する情動経験の質に由来すると考えられている。坂上・菅原(2001)は,大学生を対象に意識レベルでの情動情報の処理と愛着との関連を検討している。その結果,愛着の安定性の高い人は,自他の悲しみや喜びに対する内省や覚知が高く,回避性の高い人は,悲しみや喜びに対する不快感が高い傾向があった。また両価性の高い人は,自他の怒り,喜びの覚知が低い傾向があった。以上より,各愛着特性は特定の情動に対する意識の上での異なる態度や構えと関連しており,それらが,各愛着スタイルを維持するように働いていることが示唆された。
坂上・菅原(2001)の研究では,愛着の測定に,詫摩・戸田(1988)による成人版愛着スタイル尺度を用いている。本邦では,成人版の愛着の測定尺度としては,中尾・加藤(2004)によるECR-GOが一般的に用いられるようになってきており,本研究では,愛着の測定に,中尾・加藤(2004)の尺度を用いて,坂上・菅原の研究を再検討することを目的とする。
方 法
調査協力者 大学生135名であった。このうち分析には,欠損値のない122名(男性51名,女性71名)のデータを用いた。平均年齢は18.90歳。
調査時期 2015年11月中旬に実施した。
調査方法 調査方法は,個別自記入形式の質問紙調査を集団調査形式で実施した。回答はいずれも無記名で行い,個人が特定できない形で実施した。実施時間は10分~15分であった。
質問紙調査の内容:
(1) 一般他者版成人愛着スタイル尺度(ECR-GO)
一般化された他者を想定し回答させる中尾・加藤(2004)によって開発された愛着スタイル尺度である(7件法)。
(2) 個別情動に対する意識的態度の測定:
坂上・菅沼(2001)が開発した個別情動に対する意識的態度測定尺度を用いた。全80項目(各情動(怒り,悲しみ,恐れ,喜び)につき各20項目,7件法)。以下の4つの下位尺度(各5項目)から構成されている((1)「情動に対する内省傾向」,(2)「自己の情動の覚知」,(3)「他者の情動の覚知」,(4)「情動に対する不快感」)。
結 果
被験者のECR-GOの2下位尺度得点の高低の組み合わせから,4群に分けたところ,安定型44名(36.9%)、拒絶型40名(33.6%),とらわれ型10名(8.4%),恐れ型25名(21%)であった。個別的情動に対する意識的態度について,4群間における平均値の差の検定を行った結果,「喜び」については,「自己覚知」(p<.05),「他者覚知」(p<.01),「不快感」(p<.05)で有意な差が見られた。多重比較(Tukey HSD法)の結果,「他者覚知」においては,安定型は恐れ型に比べて得点が高く,「不快感」については,恐れ型が安定型に比べて得点が高かった。「怒り」については,いずれの下位尺度においても愛着スタイルによる有意差が認められなかった。つぎに「悲しみ」については,「他者覚知」(p<.05),「不快感」(p<.10)の差が認められた。多重比較(Tukey HSD法)の結果,「他者覚知」においては,安定型は恐れ型に比べて得点が高く,「不快感」については,とらわれ型が回避型に比べて得点が高かった。「恐れ」については,「不快感」において有意傾向の差(p<.10)が認められたが,多重比較(Tukey HSD法)の結果,愛着スタイルによる差は認められなかった。
考 察
先行研究同様,安定した愛着は,「喜び」や「悲しみ」に対する知覚(他者覚知・自己覚知)の高さと関係していることが示された。また回避性の高さは、他者との関係を深めることにつながりやすい「悲しみ」や「喜び」に対する不快感の高さと関係していることが示された。