日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PC(65-84)

ポスター発表 PC(65-84)

2016年10月8日(土) 15:30 〜 17:30 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PC69] 中学校におけるライフサイクル思考を取り入れた環境教育の実践と評価

小学校時の環境教育実践群との比較

荒木史代1, 笠井利浩#2 (1.福井工業大学, 2.福井工業大学)

キーワード:環境教育, 実践・評価, 批判的思考

 ライフサイクル思考(以下 LCT)とは,持続可能な社会の構築を目指し,「生産・流通・消費・廃棄」のサイクルから環境問題を捉えようとする考え方である(国立教育政策研究所,2007)。筆者らは,小学校(笠井・荒木,2015),中学校(荒木・笠井,2015)においてLCTを取り入れた環境教育を実践してきた。本研究では,中学2年生を対象に実施したLCTを取り入れた環境教育の実践について,小学校から環境教育の実践を体験した生徒と,中学校で初めて体験した生徒とを比較検討することで,環境教育プログラムの実践上の効果と課題について考察することを目的とする。
実   践
対象;A中学校2年生5クラス。A中学校は3つの小学校の児童が進学し,筆者らはそのうちのB小学校でこれまで5年間環境教育実践を行ってきた。本実践の対象の中学校2年生のうち,B小学校出身生徒は,小学校5年時に筆者らの実践したLCTを取り入れた環境教育を体験している。
目的;本実践の環境教育の目的は,緑のカーテンを育てることを通して,生徒の①エコ活動の環境への負荷量の理解(ライフサイクル思考の育成)と,②環境問題について自ら考え行動する態度の育成であった。実践内容は,表1に示すとおりである。
評   価
 本実践の効果を検証するために,授業実践の前後、フォローアップ時に質問紙調査を実施した。
方法
対象者;A中学校2年生116名(内 B小学校出身生徒48名,B小学校出身以外の生徒68名)
実施時期;実践前-2015年5月中旬,実践後-12月中旬,フォローアップ-2016年2月下旬
手続き;以下の項目の質問紙調査を実施した。
(1) 中学生用批判的思考力尺度(前田ら,2010)
(2) 学校生活スキル尺度・進路選択スキル(飯田・石隈,2002)
結果
(1) 中学生用批判的思考力尺度
 先行研究(平山・楠見,2011;前田ら,2010)と同様に,「論理的思考(図1)」「探求心(図2)」「客観性(図3)」「証拠の重視(図4)」の因子別に平均得点を算出し,調査時期(3)×出身学校(2)の2要因の分散分析を実施した。「探求心(図2)」のみで時期の有意な主効果が得られた(F(2,228) =3.40,p<.05)。多重比較の結果,実践前と比べて実践後の得点が低い傾向が得られた(Bonferroni<.10)。
(2) 学校生活スキル尺度・進路選択スキル(図5)
 全12項目を合計し,平均得点を算出し,調査時期(3)×出身学校(2)の2要因の分散分析を実施した結果,出身学校で有意な主効果が得られた(F(1,114) =3.08,p<.10)。多重比較の結果,B小学校出身生徒の得点が高かった(Bonferroni<.10)。
考   察
 批判的思考力尺度「探求心」では時期の主効果が得られたものの,期待される効果ではなかった。また,進路決定スキルにおいては,B小学校出身生徒の得点が高いという結果が得られた。小学校から継続的に実践を行っている生徒に効果が見られず,効果的な小・中学校の継続的な環境教育の実践プログラムの検討が今後の課題である。