[PC79] 保育者志望学生への司法面接研修の効果
キーワード:司法面接, 児童虐待, いじめ
虐待やいじめをはじめ,子どもの安全・安心を脅かす事件は未だに絶えない。被害防止や予防のためには,目撃者や被害者から正確な情報を得る必要がある。しかしながら,子どもから正確な情報を得るのは容易ではない。この理由として,面接者からの誘導的な質問(叩かれたのよね?)や答えを暗示する質問(“A”が叩いたの?)が,面接者への迎合や,子どもの記憶の汚染に繋がることが指摘されている(Ceci & Bruck, 1995)。そのため,司法や福祉の分野では誘導や暗示を含まない「司法面接」の実践が推奨されている。司法面接は,オープン質問(~について教えて下さい)を中心とする子どもの自発的な発話を重視する面接法であり,幼児や児童からも正確で多くの情報を得ることができる(Lamb et al., 2007)。
事件・事故の事情聴取は,警察などの司法関係者が担当する。しかしながら,子どもの異変に気づき初めに話を聴取するのは,日常的に子どもと関わる保育・教育関係者であろう。誘導や暗示のリスクを考慮すると,保育・教育現場においても,司法面接の手法を理解し,同様の手続きを実践することが望まれる。司法面接の技法は研修により修得が可能であるが(仲,2011),保育・教育関係者への研修効果は必ずしも明確ではない。そこで本研究では,保育者志望学生に司法面接研修を実施し,研修の効果を検証する。検証にあたり,“受容・共感”の手法として保育・教育現場で広く認識されているカウンセリング面接を比較対象として取り上げる。研修受講により,司法面接とカウンセリングの効果を区別し,面接目的に応じた面接技法の選択が可能になるのか否かを検討する。
方 法
参加者 研修受講者は保育科2年生104名である。未受講者は保育科1年生102名である。
手続き (1) 司法面接研修 研修は大学の授業内で実施した。90分×3回の研修であり,第1回目は,子どもの記憶とコミュニケーションの特性,司法面接の技法の概要を講義した。第2,3回目は,4名1グループによるロールプレイを実施した。全ての受講者が司法面接の手法を用いて,面接者役,子ども役を経験した。司法面接研修に加え,受容・共感を主体とするカウンセリング研修も行った(90分×3回)。
(2) 意識調査 全研修が終了した1ヶ月後に,質問紙調査を実施した。質問紙は面接場面とそれに対する意識調査の質問から構成される。
面接場面は,大人と子どもの会話形式で構成されており,大人の発話のみが異なる。“虐待”および“いじめ“が疑われる事案について,以下4種類の面接場面を設定した。①司法面接で好ましい「オープン質問(OP)」主体の面接,②司法面接で好ましくない「クローズド質問(CL)」主体の面接,③カウンセリングで好ましい「励まし(EN)」主体の面接,④カウンセリングで好ましくない「指示(DI)」主体の面接。
各参加者に4つの面接場面を提示し,以下の8項目について(1)全くそう思わない~(7)とてもそう思うの7段階評価を求めた。①正確な情報を得ることができる,②多くの情報を得ることができる,③子どもの気持ちを理解することができる,④子どもの気持ちを受けとめることができる,⑤虐待などの事実を明らかにするのに有効,⑥子どもの悩みや問題を解決するのに有効,⑦「出来事を知る時」に実際に使おうと思う,⑧「気持ちを理解する時」に実際に使おうと思う。
結果と考察
事案ごとに各質問で,面接法(4:OP,CL,EN,DI)×受講(2:受講,未受講)の分散分析を行った。以下,研修の効果を反映する交互作用の結果のみを,事案ごとに述べる。
(1) 虐待事案 項目②が有意で,受講生はOP> EN>DIと判断した。研修受講者は,多くの情報を得るためには,カウンセリング的な手法よりも,オープン質問が効果的であると理解したと言える。ただし,OPとCLの差はなかった。司法面接研修の効果は一部にとどまると言える。
(2) いじめ事案 項目①と②が有意で,受講生はOP・EN>CL>DIと判断した。加えて,項目⑤が有意で,受講生はOP・EN>CL・DIと判断した。研修受講者は,正確で多くの情報を得るためには,クローズド質問よりもオープン質問が効果的だと理解したと言える。ただし,項目⑦では,受講生であってもEN>OP>CL>DIと判断した。このことから,研修によりオープン質問の効果は理解されるようであるが,実際に用いようとする態度には十分に結びつかないことが示唆される。
以上,保育者志望学生に対する司法面接研修は,オープン質問の効果を理解する上で有効であったと言える。ただし,受容・共感を目的とする面接と司法面接の違いが明確に理解されるわけではなかった。保育・教育関係者のより適切な理解を促進する研修プログラムの開発が望まれる。
事件・事故の事情聴取は,警察などの司法関係者が担当する。しかしながら,子どもの異変に気づき初めに話を聴取するのは,日常的に子どもと関わる保育・教育関係者であろう。誘導や暗示のリスクを考慮すると,保育・教育現場においても,司法面接の手法を理解し,同様の手続きを実践することが望まれる。司法面接の技法は研修により修得が可能であるが(仲,2011),保育・教育関係者への研修効果は必ずしも明確ではない。そこで本研究では,保育者志望学生に司法面接研修を実施し,研修の効果を検証する。検証にあたり,“受容・共感”の手法として保育・教育現場で広く認識されているカウンセリング面接を比較対象として取り上げる。研修受講により,司法面接とカウンセリングの効果を区別し,面接目的に応じた面接技法の選択が可能になるのか否かを検討する。
方 法
参加者 研修受講者は保育科2年生104名である。未受講者は保育科1年生102名である。
手続き (1) 司法面接研修 研修は大学の授業内で実施した。90分×3回の研修であり,第1回目は,子どもの記憶とコミュニケーションの特性,司法面接の技法の概要を講義した。第2,3回目は,4名1グループによるロールプレイを実施した。全ての受講者が司法面接の手法を用いて,面接者役,子ども役を経験した。司法面接研修に加え,受容・共感を主体とするカウンセリング研修も行った(90分×3回)。
(2) 意識調査 全研修が終了した1ヶ月後に,質問紙調査を実施した。質問紙は面接場面とそれに対する意識調査の質問から構成される。
面接場面は,大人と子どもの会話形式で構成されており,大人の発話のみが異なる。“虐待”および“いじめ“が疑われる事案について,以下4種類の面接場面を設定した。①司法面接で好ましい「オープン質問(OP)」主体の面接,②司法面接で好ましくない「クローズド質問(CL)」主体の面接,③カウンセリングで好ましい「励まし(EN)」主体の面接,④カウンセリングで好ましくない「指示(DI)」主体の面接。
各参加者に4つの面接場面を提示し,以下の8項目について(1)全くそう思わない~(7)とてもそう思うの7段階評価を求めた。①正確な情報を得ることができる,②多くの情報を得ることができる,③子どもの気持ちを理解することができる,④子どもの気持ちを受けとめることができる,⑤虐待などの事実を明らかにするのに有効,⑥子どもの悩みや問題を解決するのに有効,⑦「出来事を知る時」に実際に使おうと思う,⑧「気持ちを理解する時」に実際に使おうと思う。
結果と考察
事案ごとに各質問で,面接法(4:OP,CL,EN,DI)×受講(2:受講,未受講)の分散分析を行った。以下,研修の効果を反映する交互作用の結果のみを,事案ごとに述べる。
(1) 虐待事案 項目②が有意で,受講生はOP> EN>DIと判断した。研修受講者は,多くの情報を得るためには,カウンセリング的な手法よりも,オープン質問が効果的であると理解したと言える。ただし,OPとCLの差はなかった。司法面接研修の効果は一部にとどまると言える。
(2) いじめ事案 項目①と②が有意で,受講生はOP・EN>CL>DIと判断した。加えて,項目⑤が有意で,受講生はOP・EN>CL・DIと判断した。研修受講者は,正確で多くの情報を得るためには,クローズド質問よりもオープン質問が効果的だと理解したと言える。ただし,項目⑦では,受講生であってもEN>OP>CL>DIと判断した。このことから,研修によりオープン質問の効果は理解されるようであるが,実際に用いようとする態度には十分に結びつかないことが示唆される。
以上,保育者志望学生に対する司法面接研修は,オープン質問の効果を理解する上で有効であったと言える。ただし,受容・共感を目的とする面接と司法面接の違いが明確に理解されるわけではなかった。保育・教育関係者のより適切な理解を促進する研修プログラムの開発が望まれる。