[PD10] 大学生の養護性を支える規定因と性差の検討
Keywords:養護性, 大学生, 性差
問題と目的
近年,少子化,核家族化,地域社会の衰退などから若い世代が子どもに接する機会が減少している。子どものことを知らないまま親になる者たちが増加していることも,児童虐待や子育てをめぐる事件の頻発の背景にあることが指摘されている(安積,2008; 川瀬,2010; 中村・田原,2012)。しかし同時に親準備性や養護性は実際に子どもを持っていない若い世代でも持ちうるものである(岡本・古賀,2004など)。そしてこのような性質が実際に親になったときの子どもへの敏感さや子どもに対する応答性に大きな意味を持つと言われる(無藤・久保・遠藤,1995)。それでは,青年期後期であり,いずれは親になる世代である大学生の養護性を支える要因とは何であろうか。本研究では大学生の養護性の実態について,先行研究で指摘されている性差を検討するとともに,男女で養護性を支える規定因が何であるのか,性別役割分業観や自我同一性,子ども観や子どもとの接触経験などの想定される要因から探ることとする。
方 法
調査対象 愛媛県内の大学に通う大学生および大学院生173名(男子53名・女子120名)
手続き 授業後の集合調査・個別の留置調査
質問紙の構成 フェイスシートの他,養護性尺度(森下,2006),多次元自我同一性尺度(谷,2001),平等主義的性役割態度尺度(鈴木,1994),「母性愛」信奉傾向尺度(江上,2007),対児感情尺度(花沢,1992),父親の育児関与や子どもとの接触経験
結果と考察
①養護性の性差 養護性尺度の4つの下位因子得点それぞれで対応なしのt検定を行った。結果,養護性の下位因子である「共感性」のみ女子の方が高く(t(171)=2.85, p<.01),その他の「技能」「準備性」「非受容性」では有意な差は見られなかった。他の3因子の内容が子どもを育てるうえでの自信であったり子どもを育てることへの心構えであったりするのに対し,「共感性」は子どもへの単純な関心という面が強いので差が生じたのではないかと思われる。
②養護性の規定因 養護性尺度各4因子を従属変数,多次元自我同一性尺度得点,「母性愛」信奉傾向尺度得点,平等主義的性役割態度尺度得点,対児感情尺度「回避」「接近」各因子得点,子どもとの接触経験,父親の育児関与を独立変数とした重回帰分析(強制投入法)を男女別に行った。「共感性」「準備性」の結果をTable 1~Table 4に示す。
これらの結果より養護性を支える要因として男女共で挙げられるのは「子どもとの接触経験」と「対児感情」であることがわかった。これは花沢ら(1986)とも通じるものである。一方,男女で異なるのは「『母性愛』信奉傾向」や「平等主義的性役割態度」などの性別役割分業観,そして「多次元的自我同一性」である。男子では単純に子どもとの接触経験や子どもへの感情が重要であるが,女子では自己が確立していることが子育てへの予期的な自信へもつながっている可能性がある。
近年,少子化,核家族化,地域社会の衰退などから若い世代が子どもに接する機会が減少している。子どものことを知らないまま親になる者たちが増加していることも,児童虐待や子育てをめぐる事件の頻発の背景にあることが指摘されている(安積,2008; 川瀬,2010; 中村・田原,2012)。しかし同時に親準備性や養護性は実際に子どもを持っていない若い世代でも持ちうるものである(岡本・古賀,2004など)。そしてこのような性質が実際に親になったときの子どもへの敏感さや子どもに対する応答性に大きな意味を持つと言われる(無藤・久保・遠藤,1995)。それでは,青年期後期であり,いずれは親になる世代である大学生の養護性を支える要因とは何であろうか。本研究では大学生の養護性の実態について,先行研究で指摘されている性差を検討するとともに,男女で養護性を支える規定因が何であるのか,性別役割分業観や自我同一性,子ども観や子どもとの接触経験などの想定される要因から探ることとする。
方 法
調査対象 愛媛県内の大学に通う大学生および大学院生173名(男子53名・女子120名)
手続き 授業後の集合調査・個別の留置調査
質問紙の構成 フェイスシートの他,養護性尺度(森下,2006),多次元自我同一性尺度(谷,2001),平等主義的性役割態度尺度(鈴木,1994),「母性愛」信奉傾向尺度(江上,2007),対児感情尺度(花沢,1992),父親の育児関与や子どもとの接触経験
結果と考察
①養護性の性差 養護性尺度の4つの下位因子得点それぞれで対応なしのt検定を行った。結果,養護性の下位因子である「共感性」のみ女子の方が高く(t(171)=2.85, p<.01),その他の「技能」「準備性」「非受容性」では有意な差は見られなかった。他の3因子の内容が子どもを育てるうえでの自信であったり子どもを育てることへの心構えであったりするのに対し,「共感性」は子どもへの単純な関心という面が強いので差が生じたのではないかと思われる。
②養護性の規定因 養護性尺度各4因子を従属変数,多次元自我同一性尺度得点,「母性愛」信奉傾向尺度得点,平等主義的性役割態度尺度得点,対児感情尺度「回避」「接近」各因子得点,子どもとの接触経験,父親の育児関与を独立変数とした重回帰分析(強制投入法)を男女別に行った。「共感性」「準備性」の結果をTable 1~Table 4に示す。
これらの結果より養護性を支える要因として男女共で挙げられるのは「子どもとの接触経験」と「対児感情」であることがわかった。これは花沢ら(1986)とも通じるものである。一方,男女で異なるのは「『母性愛』信奉傾向」や「平等主義的性役割態度」などの性別役割分業観,そして「多次元的自我同一性」である。男子では単純に子どもとの接触経験や子どもへの感情が重要であるが,女子では自己が確立していることが子育てへの予期的な自信へもつながっている可能性がある。