[PD11] 幼児は絵本から新しい交通ルールを学ぼうとするのか?
主人公(ヒト,動物)のタイプの比較
Keywords:幼児, 絵本, 学習
教育絵本は,幼児に日常生活で使える知識や教訓を教えることを目的としている。しかし,絵本の世界と現実世界の類似性が低い場合には,幼児は絵本の中で示された新しい事実を,現実世界でも汎用可能なものと認識しないようである。例えばWalker et al.(2015)は,3-5歳児が,新しい生物学的因果関係(花Aを嗅ぐとクシャミが出る)を,現実的な出来事を含む絵本より,空想的な出来事を含む絵本で提示された場合に,現実でも起こりうることだと判断しにくいことを示した。本研究では,絵本と現実世界の類似性を下げる要因として,主人公のタイプ(ヒト,擬人化動物)を取り上げ,新しい交通ルールがどちらの主人公の絵本で示された場合に,幼児がそれを実際に守るべきものと判断しやすいのかを検討した。
方 法
参加児:年中児のヒト絵本条件12名(女8,男4,M=58.50ヶ月,範囲:52-63ヶ月),動物絵本条件12名(女6,男6,M=57.75ヶ月,範囲:52-63ヶ月)。年長児のヒト絵本条件12名(女5,男7,M=68.75ヶ月,範囲:65-74ヶ月),動物絵本条件11名(女6,男5,M=69.18ヶ月,範囲64-75ヶ月)。月齢に条件による有意差はなかった。保護者(書面)及び本児(口頭)から参加の同意を得た。
絵本:12ページからなる絵本を3冊作成した。主人公(男児,女児,カエル)が異なることを除き,全ての絵本が同じストーリー(自転車で出かける→買い物→自転車に乗る→家に帰る),同じ2つの新しい交通ルールを含んでいた。1つは身の危険に直接関係しうるルール(大事な心臓を守るために,自転車に乗るならメケを胸に貼らなければならない)で,もう1つは身の危険に関係するか不明確なルール(ある標識を見たら「アモ」と言わなければならない)であった。
手順:参加児は実験者1から,1冊の絵本を読み聞かせられ,3つの記憶質問を受けた。記憶質問に誤答した場合は,該当ページを再び読み聞かせられた。課題が終わり実験者1と保育室に戻る途中で,参加児は実験者2から無関係の手伝いを依頼され,その後に転移質問を受けた。転移質問1「自転車に乗るなら,(子どもの名)さんはメケを胸に貼った方がいいかな,それとも貼らなくてもいいかな」,質問2「自転車に乗っているときにシマシマ模様のマークを見つけたら,(子どもの名)さんは,アモって言った方がいいかな,それとも言わなくてもいいかな」。質問及び選択肢の提示順はカウンターバランスした。最後に,正しい自転車ルールの説明を受けた。
結 果
記憶質問:直接的なルールに関する記憶質問でのみ,再度読み聞かせても誤答した幼児が1名おり,分析から除いた。ルール以外の記憶質問(主人公が買った3つの果物を同定する)の得点(0-3点)は,年中児(ヒト絵本:M=2.92, SD=.29,動物絵本:M=2.92, SD=.29),年長児(ヒト絵本:M=2.92, SD=.29,動物絵本:M=2.91, SD=.30)において,学年・絵本それぞれの主効果,交互作用も有意ではなかった。
転移質問:転移した場合に1点を与え得点とした(0-1点)。転移得点を従属変数として,学年(2:年中,年長)×絵本条件(2:ヒト,動物)×ルール(2:直接,不明確)の繰り返しのある分散分析を行った(表1)。学年×ルールの交互作用のみが有意であった(F(1, 43)=4.47, p<.05)。単純主効果の検定の結果,年長児では不明確なルールより直接的なルールを,現実場面に転移することが少なかった(F(1,45)=6.93, p<.05)。(本データはカテゴリカルデータであり,分散分析を行うことは不適切である。しかし繰り返し要因がある場合の交互作用を検討できるカテゴリカルデータの適切な分析法がない(中澤,2000)ため,分散分析の等分散の仮説への頑強性(Cochran, 1947)を根拠に分散分析を行った。)
考 察
絵本の主人公のタイプによって,絵本中の新しい交通ルールを現実世界でも守るべきと幼児が考える程度に違いはなかった。主人公を擬人化された動物にすることは絵本でよく見られる表現方法であるため,幼児にとって違和感のないものなのだろう。また年長児では,自分の身の危険に直接的に関係しうる交通ルールが絵本で登場したとき,それを現実世界に安易に取り入れようとしなかった。これは年長児が,新奇で重要な情報には,より慎重な態度を示しうることを表しているのかもしれない。
方 法
参加児:年中児のヒト絵本条件12名(女8,男4,M=58.50ヶ月,範囲:52-63ヶ月),動物絵本条件12名(女6,男6,M=57.75ヶ月,範囲:52-63ヶ月)。年長児のヒト絵本条件12名(女5,男7,M=68.75ヶ月,範囲:65-74ヶ月),動物絵本条件11名(女6,男5,M=69.18ヶ月,範囲64-75ヶ月)。月齢に条件による有意差はなかった。保護者(書面)及び本児(口頭)から参加の同意を得た。
絵本:12ページからなる絵本を3冊作成した。主人公(男児,女児,カエル)が異なることを除き,全ての絵本が同じストーリー(自転車で出かける→買い物→自転車に乗る→家に帰る),同じ2つの新しい交通ルールを含んでいた。1つは身の危険に直接関係しうるルール(大事な心臓を守るために,自転車に乗るならメケを胸に貼らなければならない)で,もう1つは身の危険に関係するか不明確なルール(ある標識を見たら「アモ」と言わなければならない)であった。
手順:参加児は実験者1から,1冊の絵本を読み聞かせられ,3つの記憶質問を受けた。記憶質問に誤答した場合は,該当ページを再び読み聞かせられた。課題が終わり実験者1と保育室に戻る途中で,参加児は実験者2から無関係の手伝いを依頼され,その後に転移質問を受けた。転移質問1「自転車に乗るなら,(子どもの名)さんはメケを胸に貼った方がいいかな,それとも貼らなくてもいいかな」,質問2「自転車に乗っているときにシマシマ模様のマークを見つけたら,(子どもの名)さんは,アモって言った方がいいかな,それとも言わなくてもいいかな」。質問及び選択肢の提示順はカウンターバランスした。最後に,正しい自転車ルールの説明を受けた。
結 果
記憶質問:直接的なルールに関する記憶質問でのみ,再度読み聞かせても誤答した幼児が1名おり,分析から除いた。ルール以外の記憶質問(主人公が買った3つの果物を同定する)の得点(0-3点)は,年中児(ヒト絵本:M=2.92, SD=.29,動物絵本:M=2.92, SD=.29),年長児(ヒト絵本:M=2.92, SD=.29,動物絵本:M=2.91, SD=.30)において,学年・絵本それぞれの主効果,交互作用も有意ではなかった。
転移質問:転移した場合に1点を与え得点とした(0-1点)。転移得点を従属変数として,学年(2:年中,年長)×絵本条件(2:ヒト,動物)×ルール(2:直接,不明確)の繰り返しのある分散分析を行った(表1)。学年×ルールの交互作用のみが有意であった(F(1, 43)=4.47, p<.05)。単純主効果の検定の結果,年長児では不明確なルールより直接的なルールを,現実場面に転移することが少なかった(F(1,45)=6.93, p<.05)。(本データはカテゴリカルデータであり,分散分析を行うことは不適切である。しかし繰り返し要因がある場合の交互作用を検討できるカテゴリカルデータの適切な分析法がない(中澤,2000)ため,分散分析の等分散の仮説への頑強性(Cochran, 1947)を根拠に分散分析を行った。)
考 察
絵本の主人公のタイプによって,絵本中の新しい交通ルールを現実世界でも守るべきと幼児が考える程度に違いはなかった。主人公を擬人化された動物にすることは絵本でよく見られる表現方法であるため,幼児にとって違和感のないものなのだろう。また年長児では,自分の身の危険に直接的に関係しうる交通ルールが絵本で登場したとき,それを現実世界に安易に取り入れようとしなかった。これは年長児が,新奇で重要な情報には,より慎重な態度を示しうることを表しているのかもしれない。