[PD19] 中学校の理数系教科書における問いの機能に関する検討(1)
数学に関する知識の関連づけのプロセスに着目して
キーワード:理解, 中学生, 教科書
問題と目的
教科書の問いは,読み手である学習者の,教科内容に関する理解を促すために設定されている。特に,中学校数学科においては,学習者が教科書に沿って問いを解くことが,授業の中心となる(長崎・西村・二宮,2015)。そこで本研究では,中学校数学科において,教科書の問いが,学習者の理解を促すという機能を果たしているのかを明らかにするため,それらの問いが,学習者の理解の認知プロセスに沿った構成になっているのかを検討する。なお,本研究では,「理解すること」を「知識を関連づけること」と定義し,理解の認知プロセスを,知識の関連づけのプロセスとして示す。
方 法
調査対象 東京都の公立中学校において占有率の高い3社の,中学校課程3年間分の数学の教科書(平成22年度(学習指導要領の改訂に伴う学習内容の移行措置期間中)発行)9冊を用い,本編(発展的内容は除く)中の問いを分析対象とした。
手続き 本研究では,まず,教科書において,本編中の問い(読み手に解答を求めているもの)の中から,新たな学習内容の理解に関係のあるものをすべて取り出した。そして,それらの問いの目的を,理解の認知プロセスと対応させることで,問いを4つのカテゴリーに分類した(Table 1)。そして,学年ごとに各カテゴリーの問いの数を3社分合計した。さらに,3学年分を合計したものを,数学科全体の各カテゴリーの問いの数とした。また,各単元を数学の4分野(代数,幾何,解析,確率)に分類し,その分野ごとについても,同様に,各カテゴリーの問いの数を3社分合計した。
結果と考察
4つのカテゴリーの問いの数が同じ比率であるかを,一様性の検定(サンプルサイズが大きい場合はカイ二乗検定)によって検討し,下位検定はHolm法による多重比較を行った。
まず,数学科全体については(Table 2),4つのカテゴリー間に有意な差があり(χ2(3) =1951,p<.001),下位検定の結果,すべてのカテゴリー間の差が有意であった(すべてp<.001)。次に,各学年についても(Table 2),4つのカテゴリー間に有意な差があり (1年:χ2(3) =858.0, p<.001,2年:χ2(3) =520.7, p<.001,3年:χ2(3) =587.4, p<.001),下位検定の結果,いずれの学年においても,すべてのカテゴリー間の差が有意であった(すべてp<.001)。また,各分野についても(Table 3),4つのカテゴリー間に有意な差があり(代数:χ2(3) =1164, p <.001,幾何:χ2(3) =432.2, p<.001,解析:p =.000,確率:p =.000),下位検定の結果,代数,幾何,解析においては,すべてのカテゴリー間の差が有意であったが(すべてp <.001),確率においては,2と3の間以外のすべてのカテゴリー間の差が有意であった (0<1:p <.01,0>2:p <.05,他:p <.001)。
以上より,中学校数学科の教科書においては,新たな知識の獲得を促す問いが最も多く,次いで既有知識の活性化を促す問いが多いものの,知識の関連づけを促す問いは少ないことが示された。
教科書の問いは,読み手である学習者の,教科内容に関する理解を促すために設定されている。特に,中学校数学科においては,学習者が教科書に沿って問いを解くことが,授業の中心となる(長崎・西村・二宮,2015)。そこで本研究では,中学校数学科において,教科書の問いが,学習者の理解を促すという機能を果たしているのかを明らかにするため,それらの問いが,学習者の理解の認知プロセスに沿った構成になっているのかを検討する。なお,本研究では,「理解すること」を「知識を関連づけること」と定義し,理解の認知プロセスを,知識の関連づけのプロセスとして示す。
方 法
調査対象 東京都の公立中学校において占有率の高い3社の,中学校課程3年間分の数学の教科書(平成22年度(学習指導要領の改訂に伴う学習内容の移行措置期間中)発行)9冊を用い,本編(発展的内容は除く)中の問いを分析対象とした。
手続き 本研究では,まず,教科書において,本編中の問い(読み手に解答を求めているもの)の中から,新たな学習内容の理解に関係のあるものをすべて取り出した。そして,それらの問いの目的を,理解の認知プロセスと対応させることで,問いを4つのカテゴリーに分類した(Table 1)。そして,学年ごとに各カテゴリーの問いの数を3社分合計した。さらに,3学年分を合計したものを,数学科全体の各カテゴリーの問いの数とした。また,各単元を数学の4分野(代数,幾何,解析,確率)に分類し,その分野ごとについても,同様に,各カテゴリーの問いの数を3社分合計した。
結果と考察
4つのカテゴリーの問いの数が同じ比率であるかを,一様性の検定(サンプルサイズが大きい場合はカイ二乗検定)によって検討し,下位検定はHolm法による多重比較を行った。
まず,数学科全体については(Table 2),4つのカテゴリー間に有意な差があり(χ2(3) =1951,p<.001),下位検定の結果,すべてのカテゴリー間の差が有意であった(すべてp<.001)。次に,各学年についても(Table 2),4つのカテゴリー間に有意な差があり (1年:χ2(3) =858.0, p<.001,2年:χ2(3) =520.7, p<.001,3年:χ2(3) =587.4, p<.001),下位検定の結果,いずれの学年においても,すべてのカテゴリー間の差が有意であった(すべてp<.001)。また,各分野についても(Table 3),4つのカテゴリー間に有意な差があり(代数:χ2(3) =1164, p <.001,幾何:χ2(3) =432.2, p<.001,解析:p =.000,確率:p =.000),下位検定の結果,代数,幾何,解析においては,すべてのカテゴリー間の差が有意であったが(すべてp <.001),確率においては,2と3の間以外のすべてのカテゴリー間の差が有意であった (0<1:p <.01,0>2:p <.05,他:p <.001)。
以上より,中学校数学科の教科書においては,新たな知識の獲得を促す問いが最も多く,次いで既有知識の活性化を促す問いが多いものの,知識の関連づけを促す問いは少ないことが示された。