[PD24] 他者に伝える意識が文章読解と読解後の作文に与える影響
文章理解度と作文評定値の相関分析
キーワード:読解, 文章産出, 他者意識
問題と目的
私たちが文章を読む時は,その内容を他者に伝える意識(以下,他者意識)をもつことで,読解内容の再構成と産出に特徴的な様相が見られる(柏崎・徐・費・松見, 2015)。産出文では,説明の順番や流れや全体の構成などの,文章の構造化や,読み手の知識や読解力や興味関心などの,読み手への配慮などがなされる。本研究では,文章読解と読解後の作文における他者意識の役割をさらに探究するため,文章理解度と作文評定の相関関係を分析し,他者意識をもつ読み手が読解中にどのような心的表象を形成しているかを検討した。
方 法
<実験計画> 柏崎他(2015)と同様に,3条件を設定した。読んだ文章を大学2年生に分かるように紹介文を書く「大2」条件,同様に中学1年生に書く「中1」条件,自分で分かるように要約文を書く「自分」条件。<実験参加者> 日本語を母語とする女子大学生(2年生)104名で,無作為に3条件(大2=36名,中1=34名,自分=34名)に配置した。<材料> 『「しきり」の文化論』(柏木,2004)の一部(1456字,35文)を用いた。<手続き>集団形式で,参加者は材料一式が入った封筒を配付され,①教示文の黙読・聴解,②文章の読解,③紹介文または要約文の筆記産出,④理解度テスト(3種類:空欄補充,真偽判断,内容推論),⑤文の重要度評定,の順序で取り組んだ。<分析対象> 本稿では,上記③を実験者以外の日本語母語話者2名が42個の評定項目(山田・近藤・畠岡・篠崎・中條, 2010)に基づき5段階(1:全くそう思わない~5:非常にそう思う)で評定した値と,上記④の3種類のテスト成績とを分析した。
結果と考察
3つの条件において,作文の平均評定値と3種類の理解度テストの得点との相関分析を行った。
中1条件では,空欄補充問題と項目1,3,24,31,38(r=0.4~0.5)との間で比較的強い正の相関が見られ,同問題と項目5,36(r=-0.4)との間で比較的強い負の相関が見られた。真偽判断問題と項目31,38,39(r=0.4)の間では比較的強い正の相関が見られた。内容推論問題と項目1(r=0.4)との間では比較的強い正の相関が見られた。すなわち,文章読解時の逐語的理解度が文章産出における文章全体の自然な流れや構成への着目と関わり,真偽判断から導かれるテキストベース理解度が読み手を意識した全体構成と関わり,内容推論から導かれる状況モデル形成度が読みやすい表現への書き換えと関わることが示された。
大2条件では,空欄補充問題と項目13(r=0.4),項目42(r=0.4)との間で比較的強い正の相関が見られ,内容推論問題と項目36(r=0.4)の間で比較的強い正の相関が見られた。すなわち,読解時の逐語的理解度が説明の目的意識の保持と関わり,内容推論から導かれる状況モデル形成度が読み手を配慮した情報量と関わることが示された。しかし,他者意識を有しながらも同年齢に伝える条件では,中1条件で見られたような具体的な他者配慮との関連性は見られなかった。
一方,他者意識を持たない自分条件では,空欄補充問題と項目30,31(r=0.4,0.5)との間で,真偽判断問題と項目34(r=0.4)との間で,比較的強い正の相関が見られたが,空欄補充問題および内容推論問題では複数の項目との間で比較的強い負の相関が見られ,理解度と自身なりの表象形成との関わりが示された。
以上から,他者意識を持って文章を読解してその内容を伝達するための産出活動を経て,伝達想定他者に応じて,読解内容の再構成と産出が異なると言えよう。
私たちが文章を読む時は,その内容を他者に伝える意識(以下,他者意識)をもつことで,読解内容の再構成と産出に特徴的な様相が見られる(柏崎・徐・費・松見, 2015)。産出文では,説明の順番や流れや全体の構成などの,文章の構造化や,読み手の知識や読解力や興味関心などの,読み手への配慮などがなされる。本研究では,文章読解と読解後の作文における他者意識の役割をさらに探究するため,文章理解度と作文評定の相関関係を分析し,他者意識をもつ読み手が読解中にどのような心的表象を形成しているかを検討した。
方 法
<実験計画> 柏崎他(2015)と同様に,3条件を設定した。読んだ文章を大学2年生に分かるように紹介文を書く「大2」条件,同様に中学1年生に書く「中1」条件,自分で分かるように要約文を書く「自分」条件。<実験参加者> 日本語を母語とする女子大学生(2年生)104名で,無作為に3条件(大2=36名,中1=34名,自分=34名)に配置した。<材料> 『「しきり」の文化論』(柏木,2004)の一部(1456字,35文)を用いた。<手続き>集団形式で,参加者は材料一式が入った封筒を配付され,①教示文の黙読・聴解,②文章の読解,③紹介文または要約文の筆記産出,④理解度テスト(3種類:空欄補充,真偽判断,内容推論),⑤文の重要度評定,の順序で取り組んだ。<分析対象> 本稿では,上記③を実験者以外の日本語母語話者2名が42個の評定項目(山田・近藤・畠岡・篠崎・中條, 2010)に基づき5段階(1:全くそう思わない~5:非常にそう思う)で評定した値と,上記④の3種類のテスト成績とを分析した。
結果と考察
3つの条件において,作文の平均評定値と3種類の理解度テストの得点との相関分析を行った。
中1条件では,空欄補充問題と項目1,3,24,31,38(r=0.4~0.5)との間で比較的強い正の相関が見られ,同問題と項目5,36(r=-0.4)との間で比較的強い負の相関が見られた。真偽判断問題と項目31,38,39(r=0.4)の間では比較的強い正の相関が見られた。内容推論問題と項目1(r=0.4)との間では比較的強い正の相関が見られた。すなわち,文章読解時の逐語的理解度が文章産出における文章全体の自然な流れや構成への着目と関わり,真偽判断から導かれるテキストベース理解度が読み手を意識した全体構成と関わり,内容推論から導かれる状況モデル形成度が読みやすい表現への書き換えと関わることが示された。
大2条件では,空欄補充問題と項目13(r=0.4),項目42(r=0.4)との間で比較的強い正の相関が見られ,内容推論問題と項目36(r=0.4)の間で比較的強い正の相関が見られた。すなわち,読解時の逐語的理解度が説明の目的意識の保持と関わり,内容推論から導かれる状況モデル形成度が読み手を配慮した情報量と関わることが示された。しかし,他者意識を有しながらも同年齢に伝える条件では,中1条件で見られたような具体的な他者配慮との関連性は見られなかった。
一方,他者意識を持たない自分条件では,空欄補充問題と項目30,31(r=0.4,0.5)との間で,真偽判断問題と項目34(r=0.4)との間で,比較的強い正の相関が見られたが,空欄補充問題および内容推論問題では複数の項目との間で比較的強い負の相関が見られ,理解度と自身なりの表象形成との関わりが示された。
以上から,他者意識を持って文章を読解してその内容を伝達するための産出活動を経て,伝達想定他者に応じて,読解内容の再構成と産出が異なると言えよう。