The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PD(01-64)

ポスター発表 PD(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PD55] 幼稚園出席簿における家庭との関係構築・維持の役割について

談話分析の視点からの一考察

高向山1, 若尾良徳#2, 梅崎高行3, 山際勇一郎4 (1.常葉大学, 2.こども教育宝仙大学, 3.甲南女子大学, 4.首都大学東京)

Keywords:幼稚園出席簿, 談話分析, 関係構築

目   的
 幼稚園と家庭を結ぶものには“園だより”や“クラスだより”“連絡帳”などがある(福田,2008)。そのうち,大正から平成までの時代的変遷に焦点を当て,園児が毎日携行する「書き物」の形式と内容を概観した高ほか(2012)では,“出席カード”や“シール帳”“おはようぶっく”など様々な呼び名が使用されていることがわかり,どの時代の「書き物」にも共通して設けられているのは出欠席を表す項目である。
 また,多くの幼稚園が使用している“出席カード”という保育用品の原型は昭和7年に㈱フレーベル館が考案したシール形式のノートであり,当初は“出席奨励カード”という名称であったが,昭和12年に「出席カード」に改称され,以降広く普及したと考えられる(高ほか,2012)。現在,出席した日にシールを貼るとともに,月単位で幼稚園生活を振り返る内容が記載されるような形式の「書き物」がもっとも一般的である。上述のようにその呼び名が様々であるため,本発表では「出席簿」と呼ぶこととする。
 保育所の連絡帳とは異なって,幼稚園の出席簿には毎日様子が記録されていないし,保護者が書き込む欄目も用意されていない。園児が毎日携行するというだけで幼稚園と家庭を結ぶ機能は果たして認められるのだろうか。そこで,月一度教諭からのメッセージを分析し,どういう特徴があるのかを明らかにすることを研究目的とする。
方   法
 静岡県にある大規模私立幼稚園で平成4年度から平成6年度にかけて使用したBさんの出席簿を分析に用いた。年少から年長にわたる3年間分の記録として,計三十六回分のメッセージが分析の対象となる。
結   果
① 一回(ひと月)当たりのメッセージの文の数
 一回当たりの文の数は1文から,多くても4文であった。2ないし3文が多く見受けられる。
② 語尾に「ですね」「ますね」「よね」などで結ぶ割合
 教諭からのメッセージはその語尾で「ね」を多用する特徴がみられた。
考   察
 おおよそB6サイズの出席簿見開きの頁にひと月分の出席シールと振り返りのメッセージを記録するにはスペースに制限がある。しかし,長くても4文のメッセージの中には語尾を「ね」で結ぶ頻度が高い。「ね」の多用については,言語社会心理学のアコモデーション理論によれば,メッセージの送り手は受け手に関心を持ち仲間に入れてもらおうとすれば,心理的収束(psychological convergence)が行われ,言語に熟達していない相手の場合,その相手に合わせてものを言う「フォーリナー・トーク」といった言語的調節のメカニズムが働いていると説明される(橋内,2013)。教諭が日常的に幼児に対する発話の語尾に「ね」をつける傾向があるが,出席簿に記入する内容でもまるで幼児に語りかけるようなストラテジーが用いられているといえる。それにより家庭との関係構築・維持に有利に働くと考えられる。