[PD60] ポジティブ思考・ネガティブ思考の類型
日本人青年の自己肯定感の低さを考える
キーワード:自己肯定感, ポジティブ思考, 青年
研究の目的
Schmitt&Allik(2005)の世界53ケ国を対象とした研究では,日本人の自尊感情が最も低いことが指摘され,近年の国際比較でも日本人青年の自己肯定感の低さが問題視されている(ex.内閣府の平成26年版 子ども・若者白書)。その一方でIATを利用した潜在的自尊感情測定での結果では,異なる結果も報告されているが(Yamaguchi, Greenwald, Banaji, Murakami, Chen, Shiomura, Kobayashi, Cai, & Krendl,2007),質問紙調査では,自己肯定感の低いことが一般的な傾向と言える。この問題の背景にある問題の一つとして,日本人青年の質問項目に対する応答傾向による問題があるのではないかと考える(田中,2005,2006,2011)。本調査では,ポジティブ思考,ネガティブ思考についてそれぞれ2つの類型を設け,調査協力者の回答傾向を分析することした。
方 法
調査協力者:東京都内のA大学の学生,及び埼玉県内のB大学,茨城県内のC看護学校,群馬県内のD看護学校の学生の合計297名(男性86名,女性211名)。年齢:18~29歳(平均年齢 男性20.1歳,女性 19.5歳)。調査時期 2015年12月下旬から2016年1月下旬 調査票の構成:自己肯定感尺度ver.2(田中,2005)の8項目(SA),ポジティブ思考・ネガティブ思考の類型項目(ポジティブ思考(P):「物事を前向きに考える方だ。」理由:「自分に自信があり,自然に前向きに思えるから(p)」「自分に自信がないので,前向きに考えようと努力しているから(n)」)(ネガティブ思考(N):「物事を否定的に考える方だ。」理由:「自己嫌悪感が強く,物事を悪い方へ考えがちだから(n)」「物事を慎重に考えたり,自己成長を望んでいたりするから(p)」),現在の自分自身に対する満足度(0%,30%,50%,80%,100%)。
結 果
自己肯定感尺度ver.2(SA)は,主成分分析の結果第1主成分に.747~.609の範囲でまとまり,信頼性はα=.805であった。SAの平均得点は,男性21.9点(SD:4.3),女性21.5点(SD:4.5)で,t検定の結果,両群に有意差は確認されなかった。そこで,本研究では両群をまとめて分析した。現在の自分自身に対する満足度は,0%(37名),30%(123名),50%(90名),80%(47名),100%(0名)という分布となった。SA得点との関係を明らかにするために一元配置の分散分析を行った結果,各群の平均得点の間に有意差が確認された(Table 1)。Tukeyによる残差分析の結果,0%<30%<50%<80%の順にSA得点が高かった。
ポジティブ思考・ネガティブ思考の類型の4群とSA得点との関係では,一元配置の分散分析の結果,各群の平均値に有意差が確認された(Table 2)。残差分析の結果(Tukey),Nn<Np<Pn<Ppの順に,SA得点が高かった。
考 察
100%自分自身に対する満足する者は0名であった。4類型別のSA得点は,各群の平均得点間に有意差が確認された。この問題は,同じポジティブ思考でもPp群とPn群の質的な違いや,ネガティブ群にもNp群のような群の存在について検討する必要がある一方で,日本人青年の自肯定感の低さではなく,質問紙に対する応答傾向や文化的側面による問題としても検討する必要性を示唆するものである。
文 献
Schmitt, D.P. & Allik, J. (2005). Simultaneous administration of the Rosenberg Self-Esteem Scale in 53 Nations: Exploring the universal and culture specific features of global self-esteem. Journal of Personality and Social Psychology, 89, 623–642.
田中道弘(2005).自己肯定感尺度の作成と項目の検討 人間科学論究,13,13-27.
田中道弘(2006).Rosenbergの自尊心の再検討 埼玉学園大学人間学部篇,6,135-139.
田中道弘(2008).自尊感情における社会性,自尊感情形成に際しての基準― 自己肯定感尺度の新たな可能性 下斗米淳(編) 自己心理学6 社会心理学へのアプローチ,金子書房 pp.27-45.
田中道弘(2011).自分が変わることに対する肯定的な捉え方の背景にあるものは何か?--自己肯定感,向上心,時間的展望,特性的自己効力感の視点から マイクロカウンセリング研究 ,6,12-23.
Yamaguchi, S., Greenwald, A. G., Banaji, M. R., Murakami, F., Chen, D., Shiomura, K., Kobayashi, C., Cai, H., & Krendl, A. (2007). Apparent universality of positive implicit self-esteem. Psychological Science, 18, 498–500.
Schmitt&Allik(2005)の世界53ケ国を対象とした研究では,日本人の自尊感情が最も低いことが指摘され,近年の国際比較でも日本人青年の自己肯定感の低さが問題視されている(ex.内閣府の平成26年版 子ども・若者白書)。その一方でIATを利用した潜在的自尊感情測定での結果では,異なる結果も報告されているが(Yamaguchi, Greenwald, Banaji, Murakami, Chen, Shiomura, Kobayashi, Cai, & Krendl,2007),質問紙調査では,自己肯定感の低いことが一般的な傾向と言える。この問題の背景にある問題の一つとして,日本人青年の質問項目に対する応答傾向による問題があるのではないかと考える(田中,2005,2006,2011)。本調査では,ポジティブ思考,ネガティブ思考についてそれぞれ2つの類型を設け,調査協力者の回答傾向を分析することした。
方 法
調査協力者:東京都内のA大学の学生,及び埼玉県内のB大学,茨城県内のC看護学校,群馬県内のD看護学校の学生の合計297名(男性86名,女性211名)。年齢:18~29歳(平均年齢 男性20.1歳,女性 19.5歳)。調査時期 2015年12月下旬から2016年1月下旬 調査票の構成:自己肯定感尺度ver.2(田中,2005)の8項目(SA),ポジティブ思考・ネガティブ思考の類型項目(ポジティブ思考(P):「物事を前向きに考える方だ。」理由:「自分に自信があり,自然に前向きに思えるから(p)」「自分に自信がないので,前向きに考えようと努力しているから(n)」)(ネガティブ思考(N):「物事を否定的に考える方だ。」理由:「自己嫌悪感が強く,物事を悪い方へ考えがちだから(n)」「物事を慎重に考えたり,自己成長を望んでいたりするから(p)」),現在の自分自身に対する満足度(0%,30%,50%,80%,100%)。
結 果
自己肯定感尺度ver.2(SA)は,主成分分析の結果第1主成分に.747~.609の範囲でまとまり,信頼性はα=.805であった。SAの平均得点は,男性21.9点(SD:4.3),女性21.5点(SD:4.5)で,t検定の結果,両群に有意差は確認されなかった。そこで,本研究では両群をまとめて分析した。現在の自分自身に対する満足度は,0%(37名),30%(123名),50%(90名),80%(47名),100%(0名)という分布となった。SA得点との関係を明らかにするために一元配置の分散分析を行った結果,各群の平均得点の間に有意差が確認された(Table 1)。Tukeyによる残差分析の結果,0%<30%<50%<80%の順にSA得点が高かった。
ポジティブ思考・ネガティブ思考の類型の4群とSA得点との関係では,一元配置の分散分析の結果,各群の平均値に有意差が確認された(Table 2)。残差分析の結果(Tukey),Nn<Np<Pn<Ppの順に,SA得点が高かった。
考 察
100%自分自身に対する満足する者は0名であった。4類型別のSA得点は,各群の平均得点間に有意差が確認された。この問題は,同じポジティブ思考でもPp群とPn群の質的な違いや,ネガティブ群にもNp群のような群の存在について検討する必要がある一方で,日本人青年の自肯定感の低さではなく,質問紙に対する応答傾向や文化的側面による問題としても検討する必要性を示唆するものである。
文 献
Schmitt, D.P. & Allik, J. (2005). Simultaneous administration of the Rosenberg Self-Esteem Scale in 53 Nations: Exploring the universal and culture specific features of global self-esteem. Journal of Personality and Social Psychology, 89, 623–642.
田中道弘(2005).自己肯定感尺度の作成と項目の検討 人間科学論究,13,13-27.
田中道弘(2006).Rosenbergの自尊心の再検討 埼玉学園大学人間学部篇,6,135-139.
田中道弘(2008).自尊感情における社会性,自尊感情形成に際しての基準― 自己肯定感尺度の新たな可能性 下斗米淳(編) 自己心理学6 社会心理学へのアプローチ,金子書房 pp.27-45.
田中道弘(2011).自分が変わることに対する肯定的な捉え方の背景にあるものは何か?--自己肯定感,向上心,時間的展望,特性的自己効力感の視点から マイクロカウンセリング研究 ,6,12-23.
Yamaguchi, S., Greenwald, A. G., Banaji, M. R., Murakami, F., Chen, D., Shiomura, K., Kobayashi, C., Cai, H., & Krendl, A. (2007). Apparent universality of positive implicit self-esteem. Psychological Science, 18, 498–500.