日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PD(65-89)

ポスター発表 PD(65-89)

2016年10月9日(日) 10:00 〜 12:00 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PD69] 教育観が「気になる子ども」の捉え方や対応に及ぼす影響

個人あるいは集団を基準とする教育観

栗田季佳1, 佐々木千恵#2, 菊池彩#3, 樋口真子#4 (1.三重大学, 2.伊賀市立府中小学校, 3.松阪市立幸小学校, 4.四日市市立四郷小学校)

キーワード:対人認知, 教育観, 発達障害

問題と目的
 近年,学級における「気になる」子どもに注目が集まっている。集団の平均的な姿や学校で望まれる行動と異なる特徴を示す子どもたちは,「気になる」とされ,時に発達障害と結び付けられることもある。
 他方,人に対する評価には,評価される側の要因だけでなく,評価する側の要因も関わってくる。評価する側の要因のひとつとして,評価者がもつ価値基準が挙げられる。例えば,指導者が集団を一斉に動かそうと思っているときに,ある子どもが流れに乗れない場合,うまく展開していないのはその子どもが流れに乗れないからだと発想しやすくなるだろう(鯨岡, 2009)。教師の教育観が基準を作り,子どもの捉え方を変えている可能性がある。
 そこで本研究は,教育観が子どもの捉え方や対応に及ぼす影響を,大学生を対象とした質問紙実験によって調べることを目的とする。
方   法
参加者 教育学部に所属する大学生
質問紙 参加者は,集団性を重視する教育観(以下,集団群)あるいは一人ひとりを重視する教育観(以下,ひとり群)について記述された文章を読んだ後,12の子どもの特徴の中から困難や不安を感じるものを5つ選択した。12の特徴の内,6つは集団に影響しやすい特徴(例:ルールを守らない)であり,6つは個人に影響しやすい特徴(例:忘れ物が多い)であった。
 その後,気になる行動をする子どもの事例について,「その場」と「事後」にどのように対応するのかを自由記述した。事例は,立ち歩きの多い子どもが授業中に騒いだという事例1と,普段からルールを破る児童が友人とトラブルを起こしてしまったという事例2の2種類あり,参加者はどちらかの事例に回答した。
結   果
 有効回答であった185名を対象に分析を行った。困難や不安を感じる子どもについて,教育観による選択の違いがみられたのは「皆の前で発言することが苦手で,積極性のない子ども」であった。集団群のほうが,ひとり群よりも選択する率が高かった(χ2 (1) = 4.22, p < .05)。
 事例への対応については時岡ら (2015) を参考に,子どもの視点を取り入れようとする対応(例:本人理解)を1,その他を0として大学教員1名と学部生3名でコーディングした。
 その結果,集団群の方が事例1(表1),事例2(表2)ともに「その場」での対応で子どもの視点が少ない傾向にあり(χ2 (1) = 2.12, p < .10),事例1における「事後」の対応でも子どもの視点が少ないことがわかった (χ2 (1) = 2.70, p < .10)。
考   察
 調査より,教育観は少なからず子どもの捉え方や対応に影響を及ぼしていることがわかった。特に,一人ひとりを尊重する教育観に比べ,集団の一員として自己を活かす教育観の方が,「気になる」子どもの基準(「積極性がない」)が増え,気になる行動を示す事態において,本人の視点を取り入れづらくなることが示された。
 本研究は大学生を対象とした場面想定であり,実際の教育現場を直接捉えるものでも予測するものでもない。しかしながら,教育観が子どもの捉え方を方向づける可能性を指摘するものとして位置づけられる。教師の考え方や信念が子ども達,さらには子どもたち同士の関係性に影響を及ぼしている可能性がある。

※ 本研究は,佐々木千恵さんが平成27年度三重大学教育学部に提出した卒業論文の調査を再分析したものである。