[PD76] 小学校におけるソーシャルスキル教育を中心とした心理教育の縦断実践研究(7)
時間差を考慮した三水準モデルの検証
Keywords:ソーシャルスキル教育, 学校適応の三水準モデル, 共分散構造分析
問題と目的
筆者らは,児童の自己肯定感および学校適応感の育成を目的とし,平成26年度,27年度と,公立小学校1校において,ソーシャルスキル教育を中心技法とする〝こころの教育〟を継続的に実践している。また,理論的背景として,学校適応アセスメントの三水準モデル(大対・大竹・松見,2007)を採用している。このモデルは水準1から水準3までの3段階の階層構造を成している。個人の行動が,より高水準の機能に影響を及ぼすには,時間がかかる可能性を考慮し,本研究では,水準1と水準2,3の間に時間差がある場合のモデルを検証した。また,比較のため,時間差のないデータも検証した。なお,増南・藤枝・相川(2015)は,ソーシャルスキル教育によって行動的機能の向上がみられた群(向上群)と向上がみられなかった群を比較し,向上群では,学業的機能,社会的機能,学校適応感に関する多くの尺度で変化がみられたことを示している。本研究で用いるデータは,向上群のデータについて,三水準モデルを検証した。
方 法
対象校と児童:関東の公立小学校1校,全学年2クラス編成で合計12クラス。調査対象者は質問の内容を理解し回答することができる3年生以上の子どもであり,ソーシャルスキル教育によって,行動的機能に関する尺度の値に向上が認められた149名であった。
調査時期:調査は平成26年5月及び平成27年3月に,クラス毎に行われた。個人情報保護および記入漏れなどの回答不備の確認のために,担任が子どもひとり一人から回収した。
尺度:児童用コンピテンス尺度(学習,運動,社会,自己価値),ソーシャルスキル教育尺度(感謝,聞く話す,あいさつ),ソーシャルサポート尺度,学校適応感尺度,ソーシャルスキル尺度(攻撃性,向社会性,引っ込み思案),自己肯定感を調べるための項目を実施した(すべて4件法)。各尺度の下位項目と三水準モデルの対応関係はFigure1のとおりである。
結果と考察
モデルの検証にあたっては,(1)水準1~3いずれも5月期のデータの場合,(2)水準1~3のいずれも3月期のデータの場合,(3)水準1が5月期,水準2,3が3月期の場合の3つのパターンについて,共分散構造分析を実施した。このうち,(3)が時間差を考慮した検証である。Table1にそれぞれのパターンに対する適合度指標を示した。Table1「修正前」の(1)(2)(3)はいずれもχ2値とRMSEAが大きく,GFIとCFIが小さいため,三水準モデルに適合しないという結果であった。そこで,下位尺度とモデルの各水準の機能との対応関係を見直した。見直しにあたっては,修正指数等を基に,「引っ込み思案」の下位項目を行動的機能ではなく,社会的機能に対応づけた。また,増南ら(2015)において,平成26年5月から平成27年3月で有意な変化がみられなかった下位項目「運動」と学校適応感尺度は,行動的機能の向上の影響が認められなかった可能性があるため,修正版においては除外した。見直しを行った結果をTable1「修正後」に示した。適合度指標より,「修正後」の(3)のパターンは,モデルへの当てはまりの良い結果となった。
筆者らは,児童の自己肯定感および学校適応感の育成を目的とし,平成26年度,27年度と,公立小学校1校において,ソーシャルスキル教育を中心技法とする〝こころの教育〟を継続的に実践している。また,理論的背景として,学校適応アセスメントの三水準モデル(大対・大竹・松見,2007)を採用している。このモデルは水準1から水準3までの3段階の階層構造を成している。個人の行動が,より高水準の機能に影響を及ぼすには,時間がかかる可能性を考慮し,本研究では,水準1と水準2,3の間に時間差がある場合のモデルを検証した。また,比較のため,時間差のないデータも検証した。なお,増南・藤枝・相川(2015)は,ソーシャルスキル教育によって行動的機能の向上がみられた群(向上群)と向上がみられなかった群を比較し,向上群では,学業的機能,社会的機能,学校適応感に関する多くの尺度で変化がみられたことを示している。本研究で用いるデータは,向上群のデータについて,三水準モデルを検証した。
方 法
対象校と児童:関東の公立小学校1校,全学年2クラス編成で合計12クラス。調査対象者は質問の内容を理解し回答することができる3年生以上の子どもであり,ソーシャルスキル教育によって,行動的機能に関する尺度の値に向上が認められた149名であった。
調査時期:調査は平成26年5月及び平成27年3月に,クラス毎に行われた。個人情報保護および記入漏れなどの回答不備の確認のために,担任が子どもひとり一人から回収した。
尺度:児童用コンピテンス尺度(学習,運動,社会,自己価値),ソーシャルスキル教育尺度(感謝,聞く話す,あいさつ),ソーシャルサポート尺度,学校適応感尺度,ソーシャルスキル尺度(攻撃性,向社会性,引っ込み思案),自己肯定感を調べるための項目を実施した(すべて4件法)。各尺度の下位項目と三水準モデルの対応関係はFigure1のとおりである。
結果と考察
モデルの検証にあたっては,(1)水準1~3いずれも5月期のデータの場合,(2)水準1~3のいずれも3月期のデータの場合,(3)水準1が5月期,水準2,3が3月期の場合の3つのパターンについて,共分散構造分析を実施した。このうち,(3)が時間差を考慮した検証である。Table1にそれぞれのパターンに対する適合度指標を示した。Table1「修正前」の(1)(2)(3)はいずれもχ2値とRMSEAが大きく,GFIとCFIが小さいため,三水準モデルに適合しないという結果であった。そこで,下位尺度とモデルの各水準の機能との対応関係を見直した。見直しにあたっては,修正指数等を基に,「引っ込み思案」の下位項目を行動的機能ではなく,社会的機能に対応づけた。また,増南ら(2015)において,平成26年5月から平成27年3月で有意な変化がみられなかった下位項目「運動」と学校適応感尺度は,行動的機能の向上の影響が認められなかった可能性があるため,修正版においては除外した。見直しを行った結果をTable1「修正後」に示した。適合度指標より,「修正後」の(3)のパターンは,モデルへの当てはまりの良い結果となった。