[PD81] 子どもたちの「生きる意欲」といじめ
尺度項目の収集といじめ経験との関連
Keywords:生きる意欲, いじめ経験, 死生観
問題と目的
日本における児童生徒の自殺者は,平成23年度に353人(小:13人/中:71人/高:269人),平成24年度は336人(小:8人/中:78人/高:250人)、平成25年度は320人(小:8人/中:98人/高:214人)と高い傾向が続いている。児童生徒の自殺の背景には,いじめや人間関係による希死念慮や抑うつ感の高さがあるとされる。
本研究では,児童生徒の死生観と近接する「生きる意欲」に焦点を当て,子どもたちの実態について考察することを目的とする。
方 法
調査時期 2015年1月
調査対象 X県内小学5年生1,112人,中学2年生1,699人,高校2年生2,087人
調査内容 ①生きる意欲を問う項目:長崎県教育委員会(2005)・兵庫県生と死を考える会(2006)・さいたま市教育委員会(2009)等で実施された調査項目を参考に,生きる意欲に関わる5項目を収集した。4件法。②東京都版自己肯定感(自尊感情)尺度22項目,4件法で実施した。③いじめ被害と相談経験に関する質問項目。④妥当性を調べるための付加項目:“自分の身体をカッター等で傷つけたこと(「ある」「ない」の2件法)”“死にたいと思ったこと(4件法=今回は肯定と否定の2群に分類した)”。
調査方法 X県教育委員会を通して各学校に配布し,空き時間等にクラスで実施した。その際,「回答は任意」「個人情報は守られること」「中断も可能であること」等が説明され,了解を得られた児童生徒に対し実施された。
結 果
5項目に対する回答の校種別比較
Table 1に示すように5項目とも校種間で差が見られ(χ2値はすべて有意),すべての項目に対し,中学生は4分の1~3分の1の生徒が否定的に答えたことがわかった。この中学生の特徴は,思春期的な心性を反映しているともいえるが,中学生は相対的に生と死の境界が薄く厭世的な意識を有するものが多いことが確認された。さらに,この5項目について因子分析を行った結果,1因子性が強いことが確認された。α係数を算出したところ.856と高い信頼性が得られた。以下,5項目の平均点を「生きる意欲」得点として扱う。
生きる意欲尺度の妥当性の検討
“自分の身体をカッター等で傷つけたこと”“死にたいと思ったこと”の有無で2群に分け,生きる意欲得点を比較したところ,いずれも0.1%水準で有意な差が見出された(傷つけ経験や死にたい願望のある群<ない群)。また,自己肯定感得点ともr=.538の正の相関が有意となった。生きる意欲尺度が,生きることを大事にする行動や自分を大切にとらえる感情の強さと関連することから,本項目の妥当性が検証されたと考えられる。
生きる意欲といじめとの関連(Table 2)
8種のいじめについて,その被害経験の回答結果から「現在ある(370人)」「過去にあった(2,255人)」「なかった(1,892人)」の3群に分け,それぞれの生きる意欲得点を調べたところ有意差が見られ(F=21.12, p<.001),いじめを現在受けているものが最も低く,ついで過去にいじめを受けた群と続き,いじめ被害がないものは最も高かった。またいじめ被害経験のあるもののうち,いじめを受けた時に「相談した(1,175人)」「相談しなかった(1,320人)」に分けたところ,相談できた子どもは半数に達しなかった。相談の有無で生きる意欲得点を比較したところ,いじめを相談できた子どもたちの方が生きる意欲が高いことがわかった。
生きる意欲の実態把握が,表面化しにくいいじめの早期発見につながりうること,生きる意欲を育てる教育がいじめの解決(とくに相談する力の向上)と関連することが示唆された。
日本における児童生徒の自殺者は,平成23年度に353人(小:13人/中:71人/高:269人),平成24年度は336人(小:8人/中:78人/高:250人)、平成25年度は320人(小:8人/中:98人/高:214人)と高い傾向が続いている。児童生徒の自殺の背景には,いじめや人間関係による希死念慮や抑うつ感の高さがあるとされる。
本研究では,児童生徒の死生観と近接する「生きる意欲」に焦点を当て,子どもたちの実態について考察することを目的とする。
方 法
調査時期 2015年1月
調査対象 X県内小学5年生1,112人,中学2年生1,699人,高校2年生2,087人
調査内容 ①生きる意欲を問う項目:長崎県教育委員会(2005)・兵庫県生と死を考える会(2006)・さいたま市教育委員会(2009)等で実施された調査項目を参考に,生きる意欲に関わる5項目を収集した。4件法。②東京都版自己肯定感(自尊感情)尺度22項目,4件法で実施した。③いじめ被害と相談経験に関する質問項目。④妥当性を調べるための付加項目:“自分の身体をカッター等で傷つけたこと(「ある」「ない」の2件法)”“死にたいと思ったこと(4件法=今回は肯定と否定の2群に分類した)”。
調査方法 X県教育委員会を通して各学校に配布し,空き時間等にクラスで実施した。その際,「回答は任意」「個人情報は守られること」「中断も可能であること」等が説明され,了解を得られた児童生徒に対し実施された。
結 果
5項目に対する回答の校種別比較
Table 1に示すように5項目とも校種間で差が見られ(χ2値はすべて有意),すべての項目に対し,中学生は4分の1~3分の1の生徒が否定的に答えたことがわかった。この中学生の特徴は,思春期的な心性を反映しているともいえるが,中学生は相対的に生と死の境界が薄く厭世的な意識を有するものが多いことが確認された。さらに,この5項目について因子分析を行った結果,1因子性が強いことが確認された。α係数を算出したところ.856と高い信頼性が得られた。以下,5項目の平均点を「生きる意欲」得点として扱う。
生きる意欲尺度の妥当性の検討
“自分の身体をカッター等で傷つけたこと”“死にたいと思ったこと”の有無で2群に分け,生きる意欲得点を比較したところ,いずれも0.1%水準で有意な差が見出された(傷つけ経験や死にたい願望のある群<ない群)。また,自己肯定感得点ともr=.538の正の相関が有意となった。生きる意欲尺度が,生きることを大事にする行動や自分を大切にとらえる感情の強さと関連することから,本項目の妥当性が検証されたと考えられる。
生きる意欲といじめとの関連(Table 2)
8種のいじめについて,その被害経験の回答結果から「現在ある(370人)」「過去にあった(2,255人)」「なかった(1,892人)」の3群に分け,それぞれの生きる意欲得点を調べたところ有意差が見られ(F=21.12, p<.001),いじめを現在受けているものが最も低く,ついで過去にいじめを受けた群と続き,いじめ被害がないものは最も高かった。またいじめ被害経験のあるもののうち,いじめを受けた時に「相談した(1,175人)」「相談しなかった(1,320人)」に分けたところ,相談できた子どもは半数に達しなかった。相談の有無で生きる意欲得点を比較したところ,いじめを相談できた子どもたちの方が生きる意欲が高いことがわかった。
生きる意欲の実態把握が,表面化しにくいいじめの早期発見につながりうること,生きる意欲を育てる教育がいじめの解決(とくに相談する力の向上)と関連することが示唆された。