The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

ポスター発表 PD(65-89)

ポスター発表 PD(65-89)

Sun. Oct 9, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PD82] 学童保育サポートシステムの構築に関する研究(2)

指導員研修システム化の取り組み

木村文香 (東京家政学院大学)

Keywords:学童保育, 養成システム, 事例検討

 都市部においては学童保育利用のニーズが高い。学齢期の放課後の過ごし方に関しては,2007年に文部科学省と厚生労働省が「放課後子どもプラン」を創設し,文部科学省による「放課後子ども教室」,厚生労働省による「放課後児童健全育成事業」が推進されている。しかしその一方で,規定や運営に関する詳細は自治体ごとに異なる。また,実証研究が複数の観点から始まりつつあるものの(e.g.,浦川・桂・池田,2013; 赤津・金谷,2011; 五十嵐,2012),いずれも現状を詳細に明らかにし,子どもや子育てにとって最善の方略を十分に探れているとはいえない。
 そこで本研究では,昨年の報告(木村・中村,2015)で明らかにした学童保育の指導員が感じている問題をふまえ,指導員向けの研修システムの整備を試み,その取り組みを検討した。
方   法
手続き
 公設学童保育所の児童指導員向け研修会を企画,実施し,その後の指導員にみられた成果を,各事業所への非構成的インタビューから探った。
期間
 2014年4月から2016年3月の2年間。
対象地区の特徴
 対象とした公設学童保育所が位置するのは,都心近郊のX市であった。X市は急速なスピードでの都市開発事業を進めており,2005年から2015年の10年間の人口増加率は14%を超えていた。その中でも「30~40歳代の増加率が突出している」とX市の公式ホームページにも記載されている。また,2014年の合計特殊出生率が1.5と,全国平均の1.4よりも高く,直近10年間の人口増加は,子育て世代の増加をも意味すると考えることができる。このような状況を受け,保育所の整備や保育士の確保については,行政の取り組みがすでに始まっている。X市には公立小学校が16か所,公設学童保育所が17か所あり,公設学童保育所の運営には,2011年度から指定管理者制度が導入され,5つの指定管理者によって運営されている。指定管理者は社会福祉法人とNPO法人から構成されており,月1回定例の指定管理者連絡協議会を開催していた。連絡協議会には,指定管理者のほかX市の学童保育管轄課も出席していた。
研修企画の立案・実施者
 研修の企画と立案,および実施と運営は,指定管理者連絡協議会が行った。これは,指定管理者制度が開始した2011年より続いており,本研究の実施期間においてもこの点は変更せず,企画と実施に際して筆者はアドバイザーの立場で関わった。なお,このことに伴い,筆者は指定管理者連絡協議会に毎月出席した。
研修の対象者 X市の公設学童保育所17か所の指導員全員であった。雇用形態は,常勤,非常勤,アルバイト・パートであった。指導員歴は,0か月から26年であった(平均56.85ヶ月,SD=56.09)。また,保育士,教員免許(幼稚園,小学校,中学校,高校)を所持している対象者も含まれていた。なお,当該研修会の企画,内容が,研究目的で使用されることについては指定管理者連絡協議会,指導員共に了承済みである。
結果と考察
研修の構造
 研修の目的を「指導員の意識と技術の底上げを図る」とし,2年間の研修計画を立案した。具体的なテーマの検討に際しては,時流のトピックスである「子ども子育て新制度」と「わかりづらい障害」を軸とした。
 まず研修を,各指定管理者がそれぞれ主催する「事業所研修」,市や連絡協議会が主催する「地域研修」の2つに大別した。地域研修をさらにⅰ)指定管理者連絡協議会主催のものと,ⅱ)X市主催のものに分けて検討した。事業所研修については,指導員全員の出席を義務づけ,事例検討を含む具体的な子どもへの対応を学ぶ場として設定した。地域研修のうちⅰ)は,対象者を「新人から中堅」とし,講義形式のみではなく,ディスカッションやグループワーク,事例検討を盛り込むことで,新人向けのスキルアップ研修としても機能することを意図した。ⅱ)については,対象者を主任クラスとした上で,内容を行政独自の視点によるものとして設定し,制度や保育行政が置かれている状況の説明や解説を中心とするものとした。
企画の成果 指導員,運営者双方のニーズを鑑み,研修のテーマと主催者を対象者によって分けた点は,各対象者の関心,運営者の意図に沿った恒常的なテーマ設定を容易にし,効果が高かったとされた。一方で,研修システムそのものが浸透しておらず,メインの対象者以外の指導員が参加した際,不満があがる点は今後の検討課題である。また,事業所研修を連絡協議会として企画,推奨したことから,指導員の意識の高まりと独自の研修の意義が明白になったことも成果として挙げられた。今後はさらに実態を網羅的に把握し,学童保育の利用者,指導員,運営者を間接的,直接的にサポートするシステム構築を目指す。