[PE06] 脳血流からみた絵本の読みあい場面における身振りとミラーニューロンの活動
キーワード:絵本の読み合い, 身振り, fNIRS
問題と目的
絵本の読みあいは,こどもたちの発達初期から養育や保育の場などで頻繁に行われる。先行知見では,養育者が早期から絵本の読み聞かせを行うことで,こどもたちの語彙獲得や言語理解が促されることが明らかにされている。また,絵本の読みあいは,日常の親子のやりとりを促進させること,他者の心理状態の理解促進に関連することも報告されており,こどもの情緒発達にも有用であることが示唆される。
絵本の読み合い場面を観察すると,しばしば絵本の読み手には,その場面に沿った身振りが自然に現れる。聞き手のこどもたちは,ときにその身振りから読み手のシグナルを受け取り,読み手に行為として反応を返し,やりとりが成立する。
このような身振りを介したやりとりの神経基盤には,ミラー・ニューロン・システム(MNS)が関連することが考えられる。MNSは他者の動作を観察するだけで活動するニューロンで,とりわけ目的をもった行為を観察しているときに顕著に活動する。さらに,MNSは目的をもった行為を連想させる音を聞いただけでも活動することから,動作の視覚処理ではなく,他者の行為を脳内で再現し,その意図を理解する神経基盤であると考えられている。MNSは共感性とも関連することも知られており,絵本の読み聞かせによるやりとり成立や他者の心理状態の理解促進の神経基盤の一つとして,MNSの発達が関与するのではないかと考えた。
そこで,本研究では,読み手の身振りと聞き手のMNSの発達との関連を調べる基礎的研究として,健常成人を対象に近赤外線分光法(Near-infrared spectroscopy: NIRS)を用いて前頭前野の活動を検討した。
方 法
対象者:健常成人の男性11名と女性14名を対象とした。
実験刺激:刺激には,『ぴょーん』の絵本を使用した。この絵本は,見開き2ページで1場面が構成され,1ページに動物が登場し(例,「かえるが…」),2ページ目にその動物が飛び上がる描写(例,「ぴょーん」)がくり返し描かれている。絵本に添えられた絵がMNSの働きに与える影響も調べるため,挿絵を除いて文字だけを残した白絵本も作成した。
実験パラダイム:絵本の読み聞かせ経験1年以上の実験者が,対象者に絵本を読み聞かせた。1施行は約8秒で,刺激間間隔は15秒とした。条件は,ジェスチャー条件(Ges条件)とジェスチャー無し条件(NoGes条件)の2つを設け,Ges条件では読み開始後約4秒で動物が「ぴょーん」と飛び上がる際に,絵本を胸元から顔の高さまで挙上させるジェスチャーを交えて読み聞かせた。各対象者には,実物絵本と白絵本のGes条件3試行とNoGes条件3試行の読み聞かせを行った。なお,実験ではGes条件3試行後にNoGes条件3試行を実施する系列,またはNoGes条件3試行後にGes条件3試行を実施する系列,のいずれかをカウンターバランスをとって実施した。また,実物の絵本と白絵本の間でもカウンターバランスをとった。
脳血流計測:計測にはSpectratech社製OEG-16を使用した。ホルダは下段中央が国際10-20法のFpzにあたるよう各対象者の前額部に装着し,前頭前野16か所から脳血流を計測した。
結果と考察
絵本読み聞かせ場面における健常成人の「聞き手」の脳血流を計測した。その結果,実物の絵本に身振りを付与して読み聞かせたGes条件では,右前頭前野の腹外側領域とその周囲,および左前頭前野の腹外側領域の一部で有意な脳血流増大が認められた。一方,実物絵本のNoGes条件ならびに白絵本のGes条件とNoGes条件では,読み聞かせ中の有意な脳血流増大は認められなかった。
前頭前野腹外側領域は,従来からヒトのMNSに関連する領域として注目されてきた。とりわけ,MNSは意図が明瞭な動作を観察するときに顕著に活動亢進することが知られている。これらのことから,本研究の実物絵本における右前頭前野腹外側領域の活動も,読み手の身振りに含まれる意図に惹起された活動であると考えられる。
一方,そのような身振りにともなう前頭前野腹外側領域の活動亢進は,白絵本では認められなかった。絵本の読み聞かせにおいては言葉だけでなく,添えられた絵によって動物が飛び跳ねる文脈情報が付与されることが考えられる。聞き手は,その絵によって構成される文脈情報によって,身振りの意図を理解しようとするモチベーション向上や読み手の行為の意図が明瞭になることなどが考えられる。したがって,挿絵がない白絵本では身振りにともなう前頭前野活動の亢進はみられず,身振りの意図が明瞭な実物絵本においてのみMNSに関連する前頭前野領域が活動したものと推察された。
絵本の読みあいは,こどもたちの発達初期から養育や保育の場などで頻繁に行われる。先行知見では,養育者が早期から絵本の読み聞かせを行うことで,こどもたちの語彙獲得や言語理解が促されることが明らかにされている。また,絵本の読みあいは,日常の親子のやりとりを促進させること,他者の心理状態の理解促進に関連することも報告されており,こどもの情緒発達にも有用であることが示唆される。
絵本の読み合い場面を観察すると,しばしば絵本の読み手には,その場面に沿った身振りが自然に現れる。聞き手のこどもたちは,ときにその身振りから読み手のシグナルを受け取り,読み手に行為として反応を返し,やりとりが成立する。
このような身振りを介したやりとりの神経基盤には,ミラー・ニューロン・システム(MNS)が関連することが考えられる。MNSは他者の動作を観察するだけで活動するニューロンで,とりわけ目的をもった行為を観察しているときに顕著に活動する。さらに,MNSは目的をもった行為を連想させる音を聞いただけでも活動することから,動作の視覚処理ではなく,他者の行為を脳内で再現し,その意図を理解する神経基盤であると考えられている。MNSは共感性とも関連することも知られており,絵本の読み聞かせによるやりとり成立や他者の心理状態の理解促進の神経基盤の一つとして,MNSの発達が関与するのではないかと考えた。
そこで,本研究では,読み手の身振りと聞き手のMNSの発達との関連を調べる基礎的研究として,健常成人を対象に近赤外線分光法(Near-infrared spectroscopy: NIRS)を用いて前頭前野の活動を検討した。
方 法
対象者:健常成人の男性11名と女性14名を対象とした。
実験刺激:刺激には,『ぴょーん』の絵本を使用した。この絵本は,見開き2ページで1場面が構成され,1ページに動物が登場し(例,「かえるが…」),2ページ目にその動物が飛び上がる描写(例,「ぴょーん」)がくり返し描かれている。絵本に添えられた絵がMNSの働きに与える影響も調べるため,挿絵を除いて文字だけを残した白絵本も作成した。
実験パラダイム:絵本の読み聞かせ経験1年以上の実験者が,対象者に絵本を読み聞かせた。1施行は約8秒で,刺激間間隔は15秒とした。条件は,ジェスチャー条件(Ges条件)とジェスチャー無し条件(NoGes条件)の2つを設け,Ges条件では読み開始後約4秒で動物が「ぴょーん」と飛び上がる際に,絵本を胸元から顔の高さまで挙上させるジェスチャーを交えて読み聞かせた。各対象者には,実物絵本と白絵本のGes条件3試行とNoGes条件3試行の読み聞かせを行った。なお,実験ではGes条件3試行後にNoGes条件3試行を実施する系列,またはNoGes条件3試行後にGes条件3試行を実施する系列,のいずれかをカウンターバランスをとって実施した。また,実物の絵本と白絵本の間でもカウンターバランスをとった。
脳血流計測:計測にはSpectratech社製OEG-16を使用した。ホルダは下段中央が国際10-20法のFpzにあたるよう各対象者の前額部に装着し,前頭前野16か所から脳血流を計測した。
結果と考察
絵本読み聞かせ場面における健常成人の「聞き手」の脳血流を計測した。その結果,実物の絵本に身振りを付与して読み聞かせたGes条件では,右前頭前野の腹外側領域とその周囲,および左前頭前野の腹外側領域の一部で有意な脳血流増大が認められた。一方,実物絵本のNoGes条件ならびに白絵本のGes条件とNoGes条件では,読み聞かせ中の有意な脳血流増大は認められなかった。
前頭前野腹外側領域は,従来からヒトのMNSに関連する領域として注目されてきた。とりわけ,MNSは意図が明瞭な動作を観察するときに顕著に活動亢進することが知られている。これらのことから,本研究の実物絵本における右前頭前野腹外側領域の活動も,読み手の身振りに含まれる意図に惹起された活動であると考えられる。
一方,そのような身振りにともなう前頭前野腹外側領域の活動亢進は,白絵本では認められなかった。絵本の読み聞かせにおいては言葉だけでなく,添えられた絵によって動物が飛び跳ねる文脈情報が付与されることが考えられる。聞き手は,その絵によって構成される文脈情報によって,身振りの意図を理解しようとするモチベーション向上や読み手の行為の意図が明瞭になることなどが考えられる。したがって,挿絵がない白絵本では身振りにともなう前頭前野活動の亢進はみられず,身振りの意図が明瞭な実物絵本においてのみMNSに関連する前頭前野領域が活動したものと推察された。