日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PE(01-64)

ポスター発表 PE(01-64)

2016年10月9日(日) 13:30 〜 15:30 展示場 (1階展示場)

[PE25] 認知カウンセリングの診断・指導技術の向上

ロールプレイ型研修の提案と試行的実践

植阪友理 (東京大学)

キーワード:認知カウンセリング, ロールプレイ, 診断・指導力向上

問題と目的
 認知カウンセリングは認知心理学を生かした個別学習相談の実践である(市川,1989)。最終的には学習者の自立を目指しており,分からない問題の解法を指導するだけでなく,学習方法(学習方略)や学習に対する考え方(学習観)の改善を目指す。こうした目的を達成するために,相談・指導上の特徴がいくつか見られる。例えば,学習方法の問題も含めて,丁寧に診断する,1問解くごとに学んだことを教訓として取り出し,学習方法なども含めて意識化させ,自発的な学習方略の利用を促すなどが挙げられる。
 認知カウンセリングは,昨年度から東京都文京区立の教育センターの公式事業として認められるなど,社会的にもその価値が認められるようになってきている。その一方でこうした診断・指導技術を身につけるのは容易なことではない。指導者を育成するためにも,効果的な研修方法を開発することは急務である。そこで,ロールプレイ型研修を開発した。ここでは,相談者役の学習上のつまずきをあらかじめ設定する。指導者役は,そのつまずきを正しく捉え,それを踏まえて指導し,適切な教訓を引き出すことまでが期待される。本研修がどのような気づきをもたらすのかや,参加満足度を試行的実践から検討する。
ロールプレイ型研修のやり方
1)3人で1グループになり,指導者,相談役,観察役を決める。
2)相談役は部屋の外に出て,ファシリテーターから,どのような問題を抱えた学習者を演じるかを聞く(例,丸暗記に頼り,漢字が覚えられない/割り算が苦手。いつも5から商を立てるというように非効率な手続きに固着している/学んだ直後は解けるが,すぐ忘れてしまう(例,三角柱の体積)。やり方を丸暗記で対応。三角形すら丸暗記で対応し,意味を理解していないので,忘れてしまっている。)
3)指導役と相談役でロールプレイを行う。観察役はやりとりをみている。
4)指導者はどのようなつまずきであると診断したかを話す。相談役は,どのような学習者を演じていたかを明かし,正確に診断できていたかを判断する。
5)観察役や相談役から指導役に対して,かかわり方に関してフィードバックする。
6)(時間があれば)つまずきを診断したのち,どのように指導するのかをロールプレイで続けてやってみる。
7)ファシリテーターから,この事例において考えられる教訓帰納の例を紹介。グループごとに,指導役の教え方について議論する。(1~7を事例ごとに繰り返す)。
2回の試行的実践と参加者の反応
 認知カウンセリング研究会の26名(実践1)と教職志望の大学3年生41名(実践2)に対して実施した。いずれも基本的な技法や発想は伝えた上で上述したロールプレイを行った。実践1から認知カウンセリングをすでに経験している参加者であっても,多くの気づきが得られ,参加満足度が高いことが明らかとなった。特徴的な気づきとして,つまずきを同定する方法の難しさと注意点に言及したものが見られた(例,どこでつまずいているのかの先入観を捨てることが大切/いかに『こどものつまずきやすい部分』についてのレパートリーを持っているかが大事かということが改めて分かった)。実践2では,初めて人に教える経験をした学生も存在し,参加満足度は非常に高かった。また,つまずき診断以前の基本的なかかわり方や技法の重要性に言及したものも見られた。今後は,指導力測定課題(深谷・植阪, 2015)を用いて,本研修の効果検証をより実証的に行う。