[PE28] 相互作用時のモニタリングの役割
活動中の発話との関連の検討
Keywords:モニタリング, 協同学習
問題と目的
これまで多くの研究によって,学習内容について議論をするなど,相互作用を行うことで高次の知識構築が促されることが示されてきた(e.g., Johnson et al., 1981)。相互作用に関する研究では,やりとりの中で自分の主張を単に述べあうのではなく,互いに批判,評価,質問しながら理解を深めることが有効であることが指摘されている(e.g., 高垣・中島, 2005)。
他者とのやりとりの中で,相手に質問する,互いの考えを比較するといった発話が生起するためには,学習者は自身の理解状態や他者の理解状態をモニターする必要があると考えられる(cf., 伊藤, 2009)。しかし,これまで,他者との相互作用における学習者のモニタリングの測定は試みられているものの(cf., 加藤・丸野, 2000),活動中の発話との関連については十分に検討されてきたとは言い難い。篠ヶ谷(2014)では,相互作用におけるモニタリングの対象には,自己の理解モニター,他者の理解モニター,自他の共通理解モニターが存在することが示されていることから,本研究では,学習内容について議論を行わせた場合に,活動中のモニタリングと発話がどのような関連を持つのかについて検討を行った。
方 法
本研究の対象は,都内の国立大学で教育方法論に関する授業を受講する大学生95名である。協同学習をテーマとした回の授業の中で,学生には「ジグソー学習」に関する文章を読んだ上で,そのメリットとデメリットについて議論するよう求めた。その際,議論の前後に質問紙を配付し,学習者の内発的動機づけ(「この内容を理解したい」など3項目),ペアを組んだ相手との関係性(「今日の相手とはなんでも自由に言い合える関係だ」など4項目),活動中のモニタリング(「自分が内容を理解できているか」「相手がちゃんとわかっているか」など11項目),活動中の発話(「どこまで分かっているか相手に聞いた」「相手に詳しい説明を求めた」など11項目)について測定を行った。回答はすべて1(まったくあてはまらない)から5(とてもよくあてはまる)の5件法で求めた。なお,参加者には質問紙の主旨を伝え,同意を得た上で質問紙に回答してもらった。また,質問紙への回答内容は授業の成績と無関係であることも伝えた。
結 果
学習内容に対する内発的動機づけ,および相手との関係性の項目得点についてα係数を算出したところ,それぞれ0.77,0.84という値が得られた。また,活動中のモニタリングに関する11項目については,想定される3つの下位尺度(自己理解,他者理解,共通理解)ごとにα係数を算出したところ,いずれにおいても0.65以上の値が得られた。また,活動中の発話に関する11項目について探索的因子分析を行ったところ,確認的質問(「どこまで分かっているか相手に聞いた」など5項目,α= .83),問題指摘(「相手の理解の仕方のどこがおかしいか指摘した」など3項目,α= .76),説明要請(「相手の発言について,その意図の説明を求めた」など3項目,α= .78)の3因子が抽出された。上記の分析をもとに,各変数について,項目平均値を下位尺度得点として算出した。
内発的動機づけと関係性得点,3つのモニタリング得点を独立変数として,各発話カテゴリの得点を従属変数とした分析結果をTable 1に示す。
考 察
本研究の結果,他者の理解状況のモニタリングが,理解を深める相互作用に必要とされる確認的な質問,問題の指摘,説明の要請といった発話と有意な関連を持つことが示された。自己調整学習の文脈において,学習者は自身の理解状態をモニターしながら学習を調整していることが指摘されているが(上淵, 2006),学習者同士が相互作用を行う場合,他者の理解状態をモニターする姿勢が重要な役割を果たすことが示されたといえる。
無論,本研究では実際の発話や学習成果については検討できていないため,今後は音声データや学習内容の理解度を測定しながら,どのような働きかけによって活動中のモニタリング対象が他者にまで及ぶのかを検討していく必要がある。
これまで多くの研究によって,学習内容について議論をするなど,相互作用を行うことで高次の知識構築が促されることが示されてきた(e.g., Johnson et al., 1981)。相互作用に関する研究では,やりとりの中で自分の主張を単に述べあうのではなく,互いに批判,評価,質問しながら理解を深めることが有効であることが指摘されている(e.g., 高垣・中島, 2005)。
他者とのやりとりの中で,相手に質問する,互いの考えを比較するといった発話が生起するためには,学習者は自身の理解状態や他者の理解状態をモニターする必要があると考えられる(cf., 伊藤, 2009)。しかし,これまで,他者との相互作用における学習者のモニタリングの測定は試みられているものの(cf., 加藤・丸野, 2000),活動中の発話との関連については十分に検討されてきたとは言い難い。篠ヶ谷(2014)では,相互作用におけるモニタリングの対象には,自己の理解モニター,他者の理解モニター,自他の共通理解モニターが存在することが示されていることから,本研究では,学習内容について議論を行わせた場合に,活動中のモニタリングと発話がどのような関連を持つのかについて検討を行った。
方 法
本研究の対象は,都内の国立大学で教育方法論に関する授業を受講する大学生95名である。協同学習をテーマとした回の授業の中で,学生には「ジグソー学習」に関する文章を読んだ上で,そのメリットとデメリットについて議論するよう求めた。その際,議論の前後に質問紙を配付し,学習者の内発的動機づけ(「この内容を理解したい」など3項目),ペアを組んだ相手との関係性(「今日の相手とはなんでも自由に言い合える関係だ」など4項目),活動中のモニタリング(「自分が内容を理解できているか」「相手がちゃんとわかっているか」など11項目),活動中の発話(「どこまで分かっているか相手に聞いた」「相手に詳しい説明を求めた」など11項目)について測定を行った。回答はすべて1(まったくあてはまらない)から5(とてもよくあてはまる)の5件法で求めた。なお,参加者には質問紙の主旨を伝え,同意を得た上で質問紙に回答してもらった。また,質問紙への回答内容は授業の成績と無関係であることも伝えた。
結 果
学習内容に対する内発的動機づけ,および相手との関係性の項目得点についてα係数を算出したところ,それぞれ0.77,0.84という値が得られた。また,活動中のモニタリングに関する11項目については,想定される3つの下位尺度(自己理解,他者理解,共通理解)ごとにα係数を算出したところ,いずれにおいても0.65以上の値が得られた。また,活動中の発話に関する11項目について探索的因子分析を行ったところ,確認的質問(「どこまで分かっているか相手に聞いた」など5項目,α= .83),問題指摘(「相手の理解の仕方のどこがおかしいか指摘した」など3項目,α= .76),説明要請(「相手の発言について,その意図の説明を求めた」など3項目,α= .78)の3因子が抽出された。上記の分析をもとに,各変数について,項目平均値を下位尺度得点として算出した。
内発的動機づけと関係性得点,3つのモニタリング得点を独立変数として,各発話カテゴリの得点を従属変数とした分析結果をTable 1に示す。
考 察
本研究の結果,他者の理解状況のモニタリングが,理解を深める相互作用に必要とされる確認的な質問,問題の指摘,説明の要請といった発話と有意な関連を持つことが示された。自己調整学習の文脈において,学習者は自身の理解状態をモニターしながら学習を調整していることが指摘されているが(上淵, 2006),学習者同士が相互作用を行う場合,他者の理解状態をモニターする姿勢が重要な役割を果たすことが示されたといえる。
無論,本研究では実際の発話や学習成果については検討できていないため,今後は音声データや学習内容の理解度を測定しながら,どのような働きかけによって活動中のモニタリング対象が他者にまで及ぶのかを検討していく必要がある。