日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PE(01-64)

ポスター発表 PE(01-64)

2016年10月9日(日) 13:30 〜 15:30 展示場 (1階展示場)

[PE30] 「教えて考えさせる授業」の効果検証

中学生に対する理科の実験授業から

深谷達史1, 植阪友理2, 市川伸一3 (1.群馬大学大学院, 2.東京大学, 3.東京大学)

キーワード:「教えて考えさせる授業」, 発見学習, 受容学習

問題と目的
 これまで伝統的な授業論として,教師から学習すべき公式を教授される受容学習と,学習者自らが公式を見出す発見学習の2つが知られてきた(Ausubel, & Robinson, 1969)。しかし,近年それぞれの短所が指摘される(Lee & Anderson, 2013)。こうした状況の中,市川(2004)は両者を統合した授業枠組みとして「教えて考えさせる授業」(Thinking-after-Instruction; TAI)を提案した。TAIでは,教師からその授業で習得が目指される内容が解説された後(教師からの説明),学習者自身にその内容の説明を求めたりすることで理解の確認が図られる(理解確認)。理解深化では,誤解しやすい事柄や発展的な事項を協同的に学ぶことで理解を深める。最後に,自己評価では授業で分かったこと,分からないことのふり返りが求められる。
 TAIは,本邦の学校現場に徐々に広まりつつあり,学校現場での実践研究からもその効果が報告されている(Uesaka et al., 2016)。しかし,(1) どのような要因が効果を生んでいるのか,(2) 受容学習と発見学習を組み合わせた他のアプローチに比べて有効なのか,といった点については十分検討されてこなかった。そこで本研究では,(1)に対して理解確認を行わない代わりに理解深化の時間を長くとるセミTAI群を, (2)に対して基本事項について先に考えさせる活動を行った後教師からの説明を受けるTBI(Thinking-before-Instruction)群を設け,TAIの有効性を検証する。
方   法
 参加者 大学で開催された学習講座に参加した中学2年生 56名を3群に無作為に配置した。
 講座 1日目は事前テスト,2~4日目は授業,5日目は事後テストを行った。各授業の基本的な流れを図1に示した。授業内容は小学校と中学校理科の未習と想定される内容だった。例えば,「てこの規則」を扱った2日目の授業では,生徒はまず(1)複数の位置に重りを置いた場合,「支点からの距離×重さ」の和が左右で等しければ左右がつりあうこと,(2)連続体を分割して考えることで日常物もてこ実験器で表せられることを学んだ。この時,TAI群では教師から問題を示して考え方を解説した後,理解確認として生徒同士のペア説明を求めた。一方,セミTAI群ではペア説明を行わなかった。TBI群では,(1)と(2)を個別,グループで考えさせた後,教師から同様の解説を行った。次に,深化課題として,水平につりあったニンジンを支点で切ったとき,左右で重さは等しいかを考える課題を提示した。深化課題は全ての群で同様に進め,まず個別で予測と理由を考えさせた後,グループで話し合いを行った。なお,セミTAI群は他の2群より話しあいの時間を長くとった。生徒の発表と教師からの解説を行った後,TAI群とセミTAI群では,自己評価として分かったこと,分からなかったことを記入させた。
結果と考察
 事後テストでは,授業の基本事項の理解を問う基本テスト,深化課題の理解を問う深化テスト,考え方を理解していれば解決可能な転移テストを用意した。事前テストなどを共変数とした共分散分析をテストごとに実施したところ,基本テスト,深化テストで5%水準の有意な差が,転移テストで有意傾向の差が認められた(図2)。このことから,教師から土台となる知識を先に教授し,ペア説明で理解を確認することで,基本事項や発展事項の定着や理解が促進できることが示された。