日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PE(01-64)

ポスター発表 PE(01-64)

2016年10月9日(日) 13:30 〜 15:30 展示場 (1階展示場)

[PE34] マンガと小説の読解過程の比較

没入状態に焦点を当てて

玉田圭作 (帝京大学)

キーワード:マンガ, 小説, 没入

目   的
 小説をマンガ化したものはこれまで国語教育や歴史教育においてよく用いられてきた。小説やマンガ個別の読解過程の研究はこれまで進んできたものの,同じ内容の物語が小説とマンガという異なる形式で表現された場合の両者の読解過程を直接比較した研究は数少ない。両者の読解過程を比較することは,読解過程全体の解明だけでなく,既存の文章理解研究を新たな観点から見直すことにもつながるであろう。
 本研究では物語を読む行為とその内容に集中し物語世界に入り込む体験である物語世界への没入(小山内・楠見,2014)に焦点を当てる。マンガの場合,小説に比べキャラクターに注目して読み進めキャラクターに対する理解が高まることで物語に没入していくことが予想される。
方   法
実験計画:本実験は表現形式(マンガ・小説)を独立変数,所要時間・内容理解度・移入得点を従属変数とする一要因二水準参加者内計画であった。
実験参加者:本実験の参加者は16名の関東地方の大学生で,男性5名女性11名,平均年齢21.13歳(SD=1.03)であった。
実験材料:物語は有島武郎の「一房の葡萄」を用い,マンガ版は56ページ,小説版は6ページ6740文字であった。没入状態は小山内(2014)の日本語版移入尺度を使用し計測した。またキャラクター・あらすじ・詳細内容それぞれの理解度テストを実施した。
実験手続き:最初に実験の説明を参加者に行い,同意書への記入を求めた。続いて,参加者に物語を一方の条件で読み,読み終わると移入尺度と理解度テストに回答するよう指示した。その約1月後にもう一方の条件を実施したが,条件の順序はカウンターバランスを行った。実験所要時間は約30分であった。
結   果
 移入尺度は1因子構造であり,小説条件ではα=.81であった一方マンガ条件ではα=.58と低い信頼性を示したが,本研究ではそのまま分析に用いた。
 まず条件間の各変数の差を調べるために対応のあるt検定を実施したところ,マンガ条件の方が小説条件よりも読みの所要時間が短く,移入得点が高いことが明らかになった(表1)。
 続いて条件別に移入得点と各理解度テスト得点間の相関係数を算出したが,どの変数間にも有意な相関は見られなかった。
考   察
 同じ物語をマンガで読む場合の方が小説で読むよりも物語への没入は高いことが示された一方で,その没入の高さはキャラクターへの理解度の高さとは関連していないことが明らかになった。本研究ではキャラクターの特徴の言語報告によりキャラクターの理解度を尋ねたが,視覚的特徴の再認課題を用いる,キャラクターへの共感の度合いを測定することなどが今後必要であろう。
また本研究では元々文章用に作成された移入尺度を用いたが,マンガの場合その信頼性は低かったことから,マンガ独自の移入尺度を新たに作成していくことも必要だと考える。