[PE36] 達成目標と符号化
キーワード:達成目標, 関連性処理, 項目特定性処理
問題と目的
動機づけが学習過程に大きな影響を及ぼすことは広く受け入れられている。例えば,異なる達成目標は異なる学習方略を導く (e.g., Nolen, 1988)。ただし,多くの研究において,自己報告指標が用いられてきたため,特定の目標を有している際に適用されていた方略に関しては直接的には検討されてこなかった。そこで本研究は,記憶の符号化過程に注目し,この問題について検討した。
達成目標は習得目標 (e.g., 自分自身の能力の向上) と遂行目標 (e.g., 他者よりも優れた能力を示す) に大別され (Dweck, 1986),それぞれ異なる符号化過程を導くと考えられる (Ikeda et al., 2015; Murayama & Elliot, 2011)。具体的には,習得目標はターゲットに加え関連情報にも注意を向ける関連性処理が促され,遂行目標はターゲットのみに注意を向ける項目特定性処理が促されることが想定される。しかし,このような関係性について直接的な証拠を提示した研究はこれまでに報告されていない。さらに,統制条件が設定されていないため,達成目標が特定の方略の利用を促進したのか,あるいは抑制したのかも不明確である。
そこで,本研究では達成目標が符号化方略に与える影響について以下の行動指標 (e.g., Burns, 2006) を用いて検討した。まず,関連性処理に関してはARCを用いた。ARCは再生プロトコルのクラスター化の程度を示すもので,体制化 (関連性処理) が行われていればARCの値は大きくなる。次に,項目特定性処理に関しては再認成績 (d’) を用いた。符号化時にターゲット固有の情報を符号化 (項目特定性処理) していれば,再認時にターゲットと非ターゲットを弁別可能となる。
実験1-2
方法
実験参加者 実験1aには112名,実験1bには87名,実験2には100名が参加した。
材料 実験1aでは36単語を用いた。単語は6カテゴリーのいずれかに属するものであり,各カテゴリーには6単語が含まれていた。実験1b, 2では72単語を用いた。各カテゴリーには12語含まれており,半数がターゲットで,残りは再認テスト時のディストラクターであった。
手続き まず,参加者には達成目標の教示が行われた。習得目標条件では課題を通じて自分自身の能力を向上させるよう教示され,遂行目標群では他者よりも優れた記憶能力を示すよう教示された。統制条件では目標の教示は行われなかった。続く記憶課題では,学習段階において36単語が提示された。その後,実験1aでは再生テストが,実験1bでは再認テストが実施された。実験2では再生,再認テストの両者が実施された。
結果
統制条件と各目標条件との間のCohen’s d を算出し,メタ分析を用い実験1, 2の結果を統合した (Table 1)。負の値は統制条件の方がARC,d’得点が高かったことを示す。メタ分析の結果,統制条件と習得目標条件の比較に関しては,d’ のみCohen’s d は0よりも有意に小さかった。一方で,統制条件と遂行目標条件の比較では,ARCのみCohen’s d は0よりも有意に小さかった。
考 察
本研究は,達成目標と符号化過程に関してより直接的に検討することが目的であった。実験の結果,習得目標条件では項目特定性処理の利用が,遂行目標条件では関連性処理の利用が抑制されることが示された。そのため,達成目標は特定の方略の利用を促進するというよりは,特定の方略の利用を抑制すると考えられる。先行研究を踏まえると,この結果,習得目標が与えられた場合には関連性処理が優位になり,遂行目標が与えられた場合には項目特定処理が優位になるのであろう。
また,関連性処理と項目特定性処理の両者を行っていた方が,記憶にはポジティブな効果がある (e.g., Hunt & McDaniel, 1993)。この点を踏まえると,目標を与えることによる記憶へのポジティブな効果は期待できないのかもしれない。この点に関しては,複雑な課題や自発的に有している達成目標を含めて検討を行っていく必要があるだろう。
動機づけが学習過程に大きな影響を及ぼすことは広く受け入れられている。例えば,異なる達成目標は異なる学習方略を導く (e.g., Nolen, 1988)。ただし,多くの研究において,自己報告指標が用いられてきたため,特定の目標を有している際に適用されていた方略に関しては直接的には検討されてこなかった。そこで本研究は,記憶の符号化過程に注目し,この問題について検討した。
達成目標は習得目標 (e.g., 自分自身の能力の向上) と遂行目標 (e.g., 他者よりも優れた能力を示す) に大別され (Dweck, 1986),それぞれ異なる符号化過程を導くと考えられる (Ikeda et al., 2015; Murayama & Elliot, 2011)。具体的には,習得目標はターゲットに加え関連情報にも注意を向ける関連性処理が促され,遂行目標はターゲットのみに注意を向ける項目特定性処理が促されることが想定される。しかし,このような関係性について直接的な証拠を提示した研究はこれまでに報告されていない。さらに,統制条件が設定されていないため,達成目標が特定の方略の利用を促進したのか,あるいは抑制したのかも不明確である。
そこで,本研究では達成目標が符号化方略に与える影響について以下の行動指標 (e.g., Burns, 2006) を用いて検討した。まず,関連性処理に関してはARCを用いた。ARCは再生プロトコルのクラスター化の程度を示すもので,体制化 (関連性処理) が行われていればARCの値は大きくなる。次に,項目特定性処理に関しては再認成績 (d’) を用いた。符号化時にターゲット固有の情報を符号化 (項目特定性処理) していれば,再認時にターゲットと非ターゲットを弁別可能となる。
実験1-2
方法
実験参加者 実験1aには112名,実験1bには87名,実験2には100名が参加した。
材料 実験1aでは36単語を用いた。単語は6カテゴリーのいずれかに属するものであり,各カテゴリーには6単語が含まれていた。実験1b, 2では72単語を用いた。各カテゴリーには12語含まれており,半数がターゲットで,残りは再認テスト時のディストラクターであった。
手続き まず,参加者には達成目標の教示が行われた。習得目標条件では課題を通じて自分自身の能力を向上させるよう教示され,遂行目標群では他者よりも優れた記憶能力を示すよう教示された。統制条件では目標の教示は行われなかった。続く記憶課題では,学習段階において36単語が提示された。その後,実験1aでは再生テストが,実験1bでは再認テストが実施された。実験2では再生,再認テストの両者が実施された。
結果
統制条件と各目標条件との間のCohen’s d を算出し,メタ分析を用い実験1, 2の結果を統合した (Table 1)。負の値は統制条件の方がARC,d’得点が高かったことを示す。メタ分析の結果,統制条件と習得目標条件の比較に関しては,d’ のみCohen’s d は0よりも有意に小さかった。一方で,統制条件と遂行目標条件の比較では,ARCのみCohen’s d は0よりも有意に小さかった。
考 察
本研究は,達成目標と符号化過程に関してより直接的に検討することが目的であった。実験の結果,習得目標条件では項目特定性処理の利用が,遂行目標条件では関連性処理の利用が抑制されることが示された。そのため,達成目標は特定の方略の利用を促進するというよりは,特定の方略の利用を抑制すると考えられる。先行研究を踏まえると,この結果,習得目標が与えられた場合には関連性処理が優位になり,遂行目標が与えられた場合には項目特定処理が優位になるのであろう。
また,関連性処理と項目特定性処理の両者を行っていた方が,記憶にはポジティブな効果がある (e.g., Hunt & McDaniel, 1993)。この点を踏まえると,目標を与えることによる記憶へのポジティブな効果は期待できないのかもしれない。この点に関しては,複雑な課題や自発的に有している達成目標を含めて検討を行っていく必要があるだろう。