[PE38] e-learningによる英単語学習における成績のフィードバックが動機づけに及ぼす影響
大学生の動機づけスタイルによる検討
Keywords:e-learning, 動機づけ, 英単語学習
現代の教育現場では学習者の動機づけを高めることが重要な課題となっている。しかしながら,動機づけを高める方略に関する研究は多くはない。そこで,本研究では,大学生を対象としたe-learningによる継続的な英単語学習において,動機づけを高めることを目的とし,学習成績のフィードバックを行うことの効果を検討する。また,野寺他(2011)では,e-learningによる学習の継続が困難である学習者とそうでない学習者が存在することが指摘されている。そこで,本研究では,動機づけスタイルとの関連についても検討を行う。
方 法
参加者 国立大学3校の大学生279名が参加した。
手続き e-learningはマイクロステップ法(寺澤,2016;寺澤・吉田・太田,2007)によりスケジューリングされ,オンラインでの英単語の学習が求められた。学習では,英単語に対する到達度の自己評価を4段階で評定を求めた。4日分を1サイクル(以下,サイクルをs)とし,20日分(5s)までの学習を課題とした。自己評定に関してサイクルごとにグラフ化したもの(図1)を印刷し,個人ごとにフィードバック(以下,FB)を行った。
質問紙 本研究の英単語学習に対する動機付けを測定するため,大学生用学習動機づけ尺度(岡田・中谷,2006)の教示を一部改変して用いた。この尺度は,自己決定理論(Deci & Ryan,1985)において概念化されている「外的」「取り入れ」「同一化」「内発」の4つの動機づけを測定する質問紙であり,各項目に対して,5段階で評定を求めた。測定は毎回の学習に組み込まれていた。
結果および考察
質問紙に回答した237名の参加者について,4つの下位尺度得点ごとに標準化した得点を用いて,クラスター分析を行った結果,解釈可能な2つのクラスターが見出された。全体的に下位尺度得点が低いクラスター1を「低動機づけ群」,「外的」以外の下位尺度が高いクラスター2を「高動機づけ群」と命名した。
10sまでの学習を完了した参加者70名を分析対象とした。各対象者において,サイクルが進むにつれ,成績が上昇していく結果がみられた(図1)。10sの期間の内,1~5sの期間を前半,6~10sの期間を後半とした。また,低動機群および高動機群内で,FB前に10sを完了した者を,FB経験なし群,10s完了前にFBを経験した者をFB経験あり群とした。各下位尺度に関して,FBの有無と動機づけスタイルを参加者間要因とし,サイクル(前半・後半)を参加者内要因とした3要因混合計画の分散分析を行った。その結果,「外的」において,2次の交互作用が有意であった(F(1,66)= 9.53, p <.05)。そこで,下位検定を行った結果,FBあり条件における動機づけスタイル×サイクルの単純交互作用が有意であり(F(1,66)=22.41, p <.05),FBあり・サイクル後半の条件における群の単純・単純主効果が有意であった(F(1,132)=16.41, p <.05)。つまり,FBあり・低動機条件では後半の「外的」が前半よりも有意に低かった(図2)。
以上の結果から,FBを受ける前に学習を完了させた群では,動機づけスタイルにかかわらず,動機づけの変化がみられなかった。それに対して,学習成績のFBを受けた低動機づけ群は,サイクルが進むにつれて,「外的」動機づけが弱まることが示された。本研究の結果から,大学生の英単語学習では,学習のFBは低動機づけ群に特に有効であるが,高動機づけ群では変化をもたらなさいという適性処遇交互作用の存在が明らかになった。
付記:本研究は科学研究費補助金による助成を受けた(基盤研究B,課題番号:15H03222,研究代表者:鈴木 渉)
方 法
参加者 国立大学3校の大学生279名が参加した。
手続き e-learningはマイクロステップ法(寺澤,2016;寺澤・吉田・太田,2007)によりスケジューリングされ,オンラインでの英単語の学習が求められた。学習では,英単語に対する到達度の自己評価を4段階で評定を求めた。4日分を1サイクル(以下,サイクルをs)とし,20日分(5s)までの学習を課題とした。自己評定に関してサイクルごとにグラフ化したもの(図1)を印刷し,個人ごとにフィードバック(以下,FB)を行った。
質問紙 本研究の英単語学習に対する動機付けを測定するため,大学生用学習動機づけ尺度(岡田・中谷,2006)の教示を一部改変して用いた。この尺度は,自己決定理論(Deci & Ryan,1985)において概念化されている「外的」「取り入れ」「同一化」「内発」の4つの動機づけを測定する質問紙であり,各項目に対して,5段階で評定を求めた。測定は毎回の学習に組み込まれていた。
結果および考察
質問紙に回答した237名の参加者について,4つの下位尺度得点ごとに標準化した得点を用いて,クラスター分析を行った結果,解釈可能な2つのクラスターが見出された。全体的に下位尺度得点が低いクラスター1を「低動機づけ群」,「外的」以外の下位尺度が高いクラスター2を「高動機づけ群」と命名した。
10sまでの学習を完了した参加者70名を分析対象とした。各対象者において,サイクルが進むにつれ,成績が上昇していく結果がみられた(図1)。10sの期間の内,1~5sの期間を前半,6~10sの期間を後半とした。また,低動機群および高動機群内で,FB前に10sを完了した者を,FB経験なし群,10s完了前にFBを経験した者をFB経験あり群とした。各下位尺度に関して,FBの有無と動機づけスタイルを参加者間要因とし,サイクル(前半・後半)を参加者内要因とした3要因混合計画の分散分析を行った。その結果,「外的」において,2次の交互作用が有意であった(F(1,66)= 9.53, p <.05)。そこで,下位検定を行った結果,FBあり条件における動機づけスタイル×サイクルの単純交互作用が有意であり(F(1,66)=22.41, p <.05),FBあり・サイクル後半の条件における群の単純・単純主効果が有意であった(F(1,132)=16.41, p <.05)。つまり,FBあり・低動機条件では後半の「外的」が前半よりも有意に低かった(図2)。
以上の結果から,FBを受ける前に学習を完了させた群では,動機づけスタイルにかかわらず,動機づけの変化がみられなかった。それに対して,学習成績のFBを受けた低動機づけ群は,サイクルが進むにつれて,「外的」動機づけが弱まることが示された。本研究の結果から,大学生の英単語学習では,学習のFBは低動機づけ群に特に有効であるが,高動機づけ群では変化をもたらなさいという適性処遇交互作用の存在が明らかになった。
付記:本研究は科学研究費補助金による助成を受けた(基盤研究B,課題番号:15H03222,研究代表者:鈴木 渉)