The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PE(01-64)

ポスター発表 PE(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 1:30 PM - 3:30 PM 展示場 (1階展示場)

[PE41] 小学校の通級指導教室での演劇ワークショップにおいてファシリテーターが教師と児童の関係で配慮していることは何か?

吉田梨乃 (東京学芸大学大学院)

Keywords:演劇ワークショップ, 通級指導

問   題
 近年では,外部講師による演劇ワークショップを通級の時間に行っている事例が報告されている。これは発達障害のある児童・生徒の自立活動の指導内容に「集団への参加」(手段の雰囲気にあわせたり,その遊びのルールを理解したりすること)や「コミュニケーション」(人とやり取りする楽しさを味わい,話す意欲を育てること)などがあるためである(東京都教育委員会,2011,p122-123)。
 こうした自立活動を学ぶため,通級指導教室や特別支援学級,また特別支援学級に通う児童・生徒の多くが利用する療育センターでは,これまでソーシャルスキルトレーニングや感覚統合訓練,作業療法士による指導が幅広く行われてきた。こうした流れのなかで,集団への参加やコミュニケーションのポジティブな体験を学ぶ演劇ワークショップが注目され,さまざまな形で取り入れられるようになった。とりわけ,「開かれた学校」という制度的な変化の中で地域の社会資源と協同して演劇ワークショップを行う取り組みは今後も増加すると考えられる(吉田,2015,p208)。
 しかし,ソーシャルスキルトレーニングや感覚統合訓練と比較して,演劇ワークショップによる自立活動支援の検討はほとんど見られない。また,通級指導教室での実施には,児童だけがワークショップに参加しているのではなく,児童と担当教員が積極的にかかわりながら,そろってワークショップに参加しているという特徴的な構造がある。
 そこで本研究では,通級での演劇ワークショップにおいてファシリテーターが通級指導教室の児童とその担当教諭の関係に配慮したことは何かを,ファシリテーターへのインタビューによって明らかにしたい。
方   法
 通級指導教室での演劇ワークショップで配慮したことを明らかにするために,ファシリテーターへのインタビューを行った。
(1)対象者:世田谷区立の小学校にある通級のM学級で行われた演劇ワークショップでファシリテーターを務めた1名と劇場担当者1名の計2名であった。
(2)日時・場所:インタビューは2016年1月14日,世田谷パブリックシアター劇場内の会議室で行われた。いずれもインタビュー時間は40分程度であった。
(3)質問項目:
質問項目① 一般的な通級指導教室での演劇ワークショップの配慮について質問を行った。
質問項目② 今回の演劇ワークショップに参加した児童一人ひとりに焦点をあて,「児童とその担当教員の関係に対して配慮したことは何か」を尋ねた。
 その他,インタビューの際に演劇ワークショップを想起しやすいよう,ワークショップおよびワークショップに関する打ち合わせやふりかえりのフィールドノーツを参照した。
結   果
 質問項目①については,2名とも「あらかじめ発達障害という特性に対して特別な配慮はしない」との回答であった。これは,あらかじめ学校側から,児童の特性に配慮してやめてほしいと伝えられた内容に対し,配慮をしないことを意味する。つまり,可能な限り「発達障害のある児童」としてではなく,個別のA君,Bさんとして子どもたちとかかわり,その可能性を伸ばそうとする配慮である。
 質問項目②については,インタビュー調査から3点が得られた。第一に「ヒエラルキーへの配慮」,第二に,「教員の立場の尊重とワークショップとしての調整的配慮」,第三に,「ワークショップに参加した教員の意見への配慮」である。
考   察
 本研究では児童・生徒と教師の関係について配慮している要因を3点に整理した。学校で行う演劇ワークショップは,教員とファシリテーターという2つの異なるステイタスを持つおとなが,学校という制約のある場の中でせめぎあいながら実践している。両者のかかわり方は必ずしも安定していない。不安定な関係のなかでつくられる調和のプロセスが,ファシリテーターの複眼的な配慮を生み出しているだろう。本研究の限界は,その配慮の具体的なダイナミズムを分析することができなかった点である。今後,ファシリテーターの動的な配慮を検討するために,小学校で行う演劇ワークショップにおけるファシリテーターの配慮について時系列分析を行う必要があるだろう。