[PE53] いじめ経験尺度作成の試み
3つの下位概念と定義の違いを考慮して
キーワード:いじめ, 尺度構成, 妥当性
問 題
いじめの分類は研究者によって異なる。先行研究では,言語的いじめと関係性いじめは,探索的因子分析により同一の因子として抽出されているが(e.g. 本間,2003),関係性いじめは言語的いじめとは別の構成概念として扱われていることが多い(e.g. Wolke, et al., 2000)。そこで,本研究では,身体的,言語的,関係性いじめの領域に分け,検証的因子分析を行い,因子構造を検討する。また,いじめの定義には,森田・清永(1986)や海外の研究に多い力の不均衡を含むものや,いじめ防止対策推進法のようにこの特徴を含まないものがある。この違いも考慮した上で妥当性を検討する。
方 法
調査参加者 2016年1月に大阪府下の大学生207名が調査に参加した。回答不備の者を除き177名(男性61名,女性116名)を分析対象とした。質問紙 中学生の頃の学校でのいじめ経験を測定するため,広義・優劣×被害・加害の4通りで各14項目を用いた。分析の際には,概念的に考慮して2項目を除外した。「0:まったくなかった」から「7:とてもよくあった」の7件法を用いた。項目例には,広義いじめ被害では「たたかれて苦痛を受けた」がある。劣位いじめ被害では「相手のほうが優位に立つ状況で」を広義被害の項目内容の前に付加した。広義いじめ加害では「たたいて苦痛を与えた」がある。優位いじめ加害では「自分のほうが優位に立つ状況で」を広義加害の項目内容の前に付加した。相手が優位という意味を伝えるため「相手のほうが強かったり,人気があったり,相手が他の人と一緒になったりした場合など」という説明文を入れた。加害では「相手のほうが弱かったり,人気がなかったり,あなたが他の人と一緒になったりした場合など」という説明文を入れた。妥当性を検討するため,高橋他(2009)の攻撃尺度を用いた。被攻撃は項目の語尾を変えた。中学生の頃の様々な場面での経験について尋ねた。また,現在の社会的望ましさを測定するため,谷(2008)のBIDR-Jを用いた。手続き 広義いじめ被害・加害,優劣いじめ被害・加害という順Aと優劣,広義という順Bの調査票を作成した。2種類の調査票を無作為に並べ,参加者に集団で配布した。配布時には,プライバシーに配慮して個人を特定しないことを伝えた。
結果と考察
いじめ経験の回答には床効果があるため,得点1から3を1に,4以上を2に変換した。カテゴリカル検証的因子分析を行った。母数の推定にはWLSMVを用いた。いじめの経験尺度4種類それぞれの適合度はRMSEA=.037~.095,CFI=.985~1.00,AGFI=.967~.998であった。優劣いじめ被害・加害においては,それぞれ分散が負となる変数が1つあり,今後の課題として残っている。言語的因子と関係性因子との相関は.87~.94であった。身体的因子と言語的因子との相関.76~.85よりも高く,本間(2003)の探索的因子分析の結果を支持する。経験の因子分析の観点からは,直接的,間接的いじめの分類よりも,身体・物理的,心理的の分類が適していると言える。本研究では,先行研究との関連もかねて細分化して検討するため,言語的いじめと関係性いじめを別の因子として扱うことにした。
いじめ被害と加害の尺度得点を,各因子に関わる質的変数のなかで順序の最も高い値を各領域の尺度得点とした。他の尺度は各下位尺度で平均値を求めた。いじめ経験と他の尺度との間でスピアマンの相関係数を求めた(Table 1)。全てではないが,いじめ被害と被攻撃は自己欺瞞との相関があり,いじめ加害と攻撃は印象操作と相関があった。しかし,相関は高くない。また,言語的と関係性との相関のほうが高い箇所も若干あったが,いじめ被害の得点については被攻撃の別の領域よりも同一の領域の得点との相関が高い傾向が見られた。この傾向は広義と優劣ともに見られた。いじめ加害と攻撃との関連も同様であった。そのため,同じ領域との相関が比較的に高いことから収束的妥当性を,別の領域との相関が比較的に低いことから弁別的妥当性を確認できた。いじめ経験と攻撃尺度との相関はいじめ経験で異なる定義間の相関よりも低かった。学校でのいじめ経験は様々な場面での攻撃に関わる経験と関連しつつも異なることを示唆する。
いじめの分類は研究者によって異なる。先行研究では,言語的いじめと関係性いじめは,探索的因子分析により同一の因子として抽出されているが(e.g. 本間,2003),関係性いじめは言語的いじめとは別の構成概念として扱われていることが多い(e.g. Wolke, et al., 2000)。そこで,本研究では,身体的,言語的,関係性いじめの領域に分け,検証的因子分析を行い,因子構造を検討する。また,いじめの定義には,森田・清永(1986)や海外の研究に多い力の不均衡を含むものや,いじめ防止対策推進法のようにこの特徴を含まないものがある。この違いも考慮した上で妥当性を検討する。
方 法
調査参加者 2016年1月に大阪府下の大学生207名が調査に参加した。回答不備の者を除き177名(男性61名,女性116名)を分析対象とした。質問紙 中学生の頃の学校でのいじめ経験を測定するため,広義・優劣×被害・加害の4通りで各14項目を用いた。分析の際には,概念的に考慮して2項目を除外した。「0:まったくなかった」から「7:とてもよくあった」の7件法を用いた。項目例には,広義いじめ被害では「たたかれて苦痛を受けた」がある。劣位いじめ被害では「相手のほうが優位に立つ状況で」を広義被害の項目内容の前に付加した。広義いじめ加害では「たたいて苦痛を与えた」がある。優位いじめ加害では「自分のほうが優位に立つ状況で」を広義加害の項目内容の前に付加した。相手が優位という意味を伝えるため「相手のほうが強かったり,人気があったり,相手が他の人と一緒になったりした場合など」という説明文を入れた。加害では「相手のほうが弱かったり,人気がなかったり,あなたが他の人と一緒になったりした場合など」という説明文を入れた。妥当性を検討するため,高橋他(2009)の攻撃尺度を用いた。被攻撃は項目の語尾を変えた。中学生の頃の様々な場面での経験について尋ねた。また,現在の社会的望ましさを測定するため,谷(2008)のBIDR-Jを用いた。手続き 広義いじめ被害・加害,優劣いじめ被害・加害という順Aと優劣,広義という順Bの調査票を作成した。2種類の調査票を無作為に並べ,参加者に集団で配布した。配布時には,プライバシーに配慮して個人を特定しないことを伝えた。
結果と考察
いじめ経験の回答には床効果があるため,得点1から3を1に,4以上を2に変換した。カテゴリカル検証的因子分析を行った。母数の推定にはWLSMVを用いた。いじめの経験尺度4種類それぞれの適合度はRMSEA=.037~.095,CFI=.985~1.00,AGFI=.967~.998であった。優劣いじめ被害・加害においては,それぞれ分散が負となる変数が1つあり,今後の課題として残っている。言語的因子と関係性因子との相関は.87~.94であった。身体的因子と言語的因子との相関.76~.85よりも高く,本間(2003)の探索的因子分析の結果を支持する。経験の因子分析の観点からは,直接的,間接的いじめの分類よりも,身体・物理的,心理的の分類が適していると言える。本研究では,先行研究との関連もかねて細分化して検討するため,言語的いじめと関係性いじめを別の因子として扱うことにした。
いじめ被害と加害の尺度得点を,各因子に関わる質的変数のなかで順序の最も高い値を各領域の尺度得点とした。他の尺度は各下位尺度で平均値を求めた。いじめ経験と他の尺度との間でスピアマンの相関係数を求めた(Table 1)。全てではないが,いじめ被害と被攻撃は自己欺瞞との相関があり,いじめ加害と攻撃は印象操作と相関があった。しかし,相関は高くない。また,言語的と関係性との相関のほうが高い箇所も若干あったが,いじめ被害の得点については被攻撃の別の領域よりも同一の領域の得点との相関が高い傾向が見られた。この傾向は広義と優劣ともに見られた。いじめ加害と攻撃との関連も同様であった。そのため,同じ領域との相関が比較的に高いことから収束的妥当性を,別の領域との相関が比較的に低いことから弁別的妥当性を確認できた。いじめ経験と攻撃尺度との相関はいじめ経験で異なる定義間の相関よりも低かった。学校でのいじめ経験は様々な場面での攻撃に関わる経験と関連しつつも異なることを示唆する。