日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PE(65-88)

ポスター発表 PE(65-88)

2016年10月9日(日) 13:30 〜 15:30 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PE71] 心の健康プログラムSEL-Short(その1)

中学生における理解度・定着度と抑うつ傾向との関連

吉永真理1, 重根美香2, 小泉令三3 (1.昭和薬科大学, 2.一般社団法人 子ども安全まちづくりパートナーズ, 3.福岡教育大学)

キーワード:心の健康, SEL, 中学生

はじめに
 思春期の子どもたちは,家族よりも友人を重視するようになり,対人関係に敏感になったり,親や大人に対しては自立と依存の葛藤を感じる不安定な時期を過ごす(植村・桜井,2003)。「故意に自分の健康を害する症候群」(悩みに葛藤する中で危険な行動や自らを傷つける自傷行為等をあえてしてしまう)のリスクが高まることも指摘されている(松本,2009)。講演等啓発的な対策はかえって「自分とは関係ない」話として遠ざけてしまう可能性があり,むしろ健康教育の領域からのアプローチが有効である可能性が指摘されている。
 教室で教師自身が実践できる心理教育プログラムは,総称としてSEL(Social and Emotional Learning:社会性と情動の学習)と呼ばれている。SEL-8S(小泉,2011)はSELの中の特定プログラムで,8つの社会的能力育成を目標とし,中学校の3学年で段階的に学習する。我々はその短縮版SEL-Shortを開発した。これは,中学生が悩んでいる時,一番助けを求めやすいのは「友人」である(石毛他,2005)ことに着目したプログラムである。「いらいらコントロール」(Step 1)「ソーシャル・サポートを知る」(Step 2)「友達に手を差し伸べる」(Step 3)の3ステップからなる。本研究では抑うつ傾向の有無でプログラムの効果が異なるかに焦点をあてて調査研究を行なった。
研究の方法
 首都圏の公立中学校の2年生に「ソーシャル・サポートを知る」,3年生に「友達に手を差し伸べる」のプログラムを授業時間内に実施した(学校の正式プログラム)。実施直後に理解度(5項目各10点満点)を尋ね(T1-2& T1-3),2年生は2か月後(T2-2),3年生は3か月後(T2-3)の定着度(8項目3件法:できるようになった/あまり変わらない/どちらともいえない)を調べた(入学試験日程のため調整しながら設定した)。抑うつ傾向はWHO-5を用いてT2に測定し,13点未満を抑うつ傾向ありとした。回答者数は2年生はT1:170,T2:177,欠損値を除いた有効回答数は151,3年生はT1:236,T2:215,有効回答数は209だった。
結   果
1.実施直後の理解度
 性差について2年生では「ソーシャル・サポートの意味」「身近な相談窓口」「相談のポイント」のような知識については男子の方が理解度が高く,大切さ,気づきについては女子の方が高くなったが有意差は見られなかった。3年生では、知識も大切さや気づきについても女子が高く,5項目のうち4項目で有意に高い結果となった(*p<0.05, **p<0.01)。
2.理解の定着度と抑うつ傾向の関連性
 抑うつ傾向の有無で2群に分け,T2で測定した理解の定着度を比較したところ,抑うつ傾向なし群で「できるようになった」という回答が高い項目でも,抑うつ傾向があると「あまり変わらない」という回答が多くなっていた。

 本研究はJST-RISTEX実装支援プログラム(成果統合型)「国際基準の安全な学校・地域づくりに向けた協同活動支援」による。