[PF08] 他者からの批判的評価に対する幼児の反応と心の理論
日伊比較研究
キーワード:心の理論, 比較文化, 幼児
問 題
失敗場面や,他者から批判を受ける場面での反応には,ポジティブ情動を維持し次は上手くいくと考える熟達志向型と,ネガティブ情動を感じネガティブな自己認知を持つ無力型があり(Kamins & Dweck, 1999),このような反応の個人差は幼児期後期から現れる(Heyman et al., 1992)。近年の研究から,他者の心的状態をよく理解する者ほど,失敗後に受ける教師からの批判に敏感で自己評価を低下させやすいことが示されてきたが(Cutting & Dunn, 2002; Lecce et al., 2011; Mizokawa, 2015),少なくとも日本の子どもにおいては,教師からの批判的評価を受けた後に再挑戦の意欲が維持される可能性が示唆されている(Mizokawa, 2015)。また,自己評価の低下や再挑戦の意欲の維持は,別の他者(仲間)からの批判的評価の後には見られないことも示されている(Mizokawa, 2015)。本研究では,日伊2か国の幼児における「他者(教師・仲間)からの評価に対する反応」について,心の理論の発達の観点から比較・検討する。
方 法
日本の幼児76名(男児34名・女児42名)と伊国の幼児76名(男児41名・女児35名)を対象に,参加児が通う保育所・幼稚園において個別に「語彙課題(日本:PVT-R,伊国:PPVT)」,「心の理論課題(二次の誤信念課題,2題)」,「他者からの評価課題(課題中の他者は,教師または仲間)(Heyman et al., 1992の修正版;Mizokawa, 2015)」を実施した。「他者からの評価課題」には,教師役と参加児役の人形が登場する教師条件と,仲間役と参加児役の人形が登場する仲間条件があり,参加児はいずれか一方の条件に割り当てられた(日本:教師条件32名,平均年齢6.23歳,平均言語年齢6.87歳,仲間条件43名,平均年齢6.42歳,平均言語年齢6.50歳;伊国:教師条件39名,平均年齢6.32歳,平均言語年齢6.27歳,仲間条件37名,平均年齢6.50歳,平均言語年齢6.80歳)。参加児は,参加児役の人形が創作活動で失敗をするが評価を受けない「失敗場面」と,失敗の後に他者(教師または仲間役の人形)から批判的評価を受ける「批判場面」の人形劇を見た後,各場面での参加児役の人形の(1)ポジティブ情動(範囲:0-3点),(2)作品評価(範囲:0-1点),(3)再挑戦の意欲(範囲:0-1点)に関する質問に回答した。
結 果
日伊2か国の幼児における異なる他者(教師・仲間)からの批判的評価に対する反応について検討するため,共分散分析により各指標(ポジティブ情動,作品評価,再挑戦の意欲)の平均得点を条件間で比較した。その結果,日本の幼児では,仲間からの批判的評価よりも教師からの批判的評価の後に,ポジティブ情動が高く(F (1, 69) = 7.12, p < .05, partialη2=.09),作品評価が低い(F (1, 69) = 10.06, p < .01, partial η2=.13)ことが示された。伊国の幼児では,評価者による反応の違いは認められなかった。
事前分析の結果,批判的評価に対する反応の日伊間の差は教師条件でのみ認められた。そのため,教師からの批判的評価に着目し,心の理論との関連に関する分析を行った。参加児を二次の誤信念課題の通過・非通過によって心の理論高群(日本19名,伊国17名)と心の理論低群(日本14名,伊国22名)に分類し,各指標について,2(国:日本・伊国)×2(心の理論:高群・低群)の2要因分散分析を実施した。その結果,日本の幼児は伊国の幼児よりも教師からの批判的評価の後にポジティブな情動を感じることが示された(F (1, 68) = 18.35, p < .01, partial η2=.21)。作品評価については,日伊双方において心の理論高群の方が低群よりも,教師からの批判的評価の後の作品評価が低いことが示された(F (1, 68) = 4.43, p < .05, partial η2=.06)。さらに,再挑戦の意欲については,伊国の幼児において心の理論高群は低群よりも再挑戦の意欲が高く(F (1, 68) = 40.53, p < .01, partial η2=.37),心の理論低群において日本の幼児は伊国の幼児よりも再挑戦の意欲が高い(F (1, 68) = 17.99, p < .01, partial η2=.27)ことが示された。
考 察
本研究から,日本の幼児は伊国の幼児よりも,失敗後の教師からの批判的評価をポジティブに受け止めていること,他者の心的状態の理解が未発達な子どもであっても,教師からの批判を受けた後に再挑戦の意欲が維持されることが示された。ここから,失敗からの学び,忍耐・努力,教師の発言を相対的に重視する日本の文化的な価値観が,子育てや保育・教育を通じて子どもに伝達され,幼児期後期には,それが教師からの批判的評価に対する反応の中に現れてくるものと考えられる。
失敗場面や,他者から批判を受ける場面での反応には,ポジティブ情動を維持し次は上手くいくと考える熟達志向型と,ネガティブ情動を感じネガティブな自己認知を持つ無力型があり(Kamins & Dweck, 1999),このような反応の個人差は幼児期後期から現れる(Heyman et al., 1992)。近年の研究から,他者の心的状態をよく理解する者ほど,失敗後に受ける教師からの批判に敏感で自己評価を低下させやすいことが示されてきたが(Cutting & Dunn, 2002; Lecce et al., 2011; Mizokawa, 2015),少なくとも日本の子どもにおいては,教師からの批判的評価を受けた後に再挑戦の意欲が維持される可能性が示唆されている(Mizokawa, 2015)。また,自己評価の低下や再挑戦の意欲の維持は,別の他者(仲間)からの批判的評価の後には見られないことも示されている(Mizokawa, 2015)。本研究では,日伊2か国の幼児における「他者(教師・仲間)からの評価に対する反応」について,心の理論の発達の観点から比較・検討する。
方 法
日本の幼児76名(男児34名・女児42名)と伊国の幼児76名(男児41名・女児35名)を対象に,参加児が通う保育所・幼稚園において個別に「語彙課題(日本:PVT-R,伊国:PPVT)」,「心の理論課題(二次の誤信念課題,2題)」,「他者からの評価課題(課題中の他者は,教師または仲間)(Heyman et al., 1992の修正版;Mizokawa, 2015)」を実施した。「他者からの評価課題」には,教師役と参加児役の人形が登場する教師条件と,仲間役と参加児役の人形が登場する仲間条件があり,参加児はいずれか一方の条件に割り当てられた(日本:教師条件32名,平均年齢6.23歳,平均言語年齢6.87歳,仲間条件43名,平均年齢6.42歳,平均言語年齢6.50歳;伊国:教師条件39名,平均年齢6.32歳,平均言語年齢6.27歳,仲間条件37名,平均年齢6.50歳,平均言語年齢6.80歳)。参加児は,参加児役の人形が創作活動で失敗をするが評価を受けない「失敗場面」と,失敗の後に他者(教師または仲間役の人形)から批判的評価を受ける「批判場面」の人形劇を見た後,各場面での参加児役の人形の(1)ポジティブ情動(範囲:0-3点),(2)作品評価(範囲:0-1点),(3)再挑戦の意欲(範囲:0-1点)に関する質問に回答した。
結 果
日伊2か国の幼児における異なる他者(教師・仲間)からの批判的評価に対する反応について検討するため,共分散分析により各指標(ポジティブ情動,作品評価,再挑戦の意欲)の平均得点を条件間で比較した。その結果,日本の幼児では,仲間からの批判的評価よりも教師からの批判的評価の後に,ポジティブ情動が高く(F (1, 69) = 7.12, p < .05, partialη2=.09),作品評価が低い(F (1, 69) = 10.06, p < .01, partial η2=.13)ことが示された。伊国の幼児では,評価者による反応の違いは認められなかった。
事前分析の結果,批判的評価に対する反応の日伊間の差は教師条件でのみ認められた。そのため,教師からの批判的評価に着目し,心の理論との関連に関する分析を行った。参加児を二次の誤信念課題の通過・非通過によって心の理論高群(日本19名,伊国17名)と心の理論低群(日本14名,伊国22名)に分類し,各指標について,2(国:日本・伊国)×2(心の理論:高群・低群)の2要因分散分析を実施した。その結果,日本の幼児は伊国の幼児よりも教師からの批判的評価の後にポジティブな情動を感じることが示された(F (1, 68) = 18.35, p < .01, partial η2=.21)。作品評価については,日伊双方において心の理論高群の方が低群よりも,教師からの批判的評価の後の作品評価が低いことが示された(F (1, 68) = 4.43, p < .05, partial η2=.06)。さらに,再挑戦の意欲については,伊国の幼児において心の理論高群は低群よりも再挑戦の意欲が高く(F (1, 68) = 40.53, p < .01, partial η2=.37),心の理論低群において日本の幼児は伊国の幼児よりも再挑戦の意欲が高い(F (1, 68) = 17.99, p < .01, partial η2=.27)ことが示された。
考 察
本研究から,日本の幼児は伊国の幼児よりも,失敗後の教師からの批判的評価をポジティブに受け止めていること,他者の心的状態の理解が未発達な子どもであっても,教師からの批判を受けた後に再挑戦の意欲が維持されることが示された。ここから,失敗からの学び,忍耐・努力,教師の発言を相対的に重視する日本の文化的な価値観が,子育てや保育・教育を通じて子どもに伝達され,幼児期後期には,それが教師からの批判的評価に対する反応の中に現れてくるものと考えられる。