[PF33] 協同学習におけるグループ間差の検討(1)
「傾聴」を予測する要因に関する検討
キーワード:協同学習, グループ間差, 協同作業認識
協同学習においては,個人での学習活動と異なり,他のメンバーとの意見の交流を通して,学習を進めていく。そのため,協同学習においては,他のメンバーの意見をしっかりと聞くこと,すなわち,「傾聴」を行うことが学習の質を高めるための1つの重要な要件である。この「傾聴」を予測する要因として,思い浮かべられるのが,個人の社会的スキル(菊池, 1988など)である。一方で,協同学習場面においては,グループにおける雰囲気もその場の学習行動に影響を与えることが考えられる。このようなグループの協同学習における雰囲気に関係すると考えられるものの1つが,協同学習をどのようなものだと考えるかという協同作業に対する認識(長濱・安永・関田・甲原, 2009)である。すなわち,グループのメンバーが共通してポジティブな協同作業に対する認識を有しているかによって,個人の社会的スキルがより発揮されるかにグループ間差が生じるであろう。なお,ここでのポジティブな協同作業に対する認識としては,協同が有用であるという「協同効用」といったものが考えられる。
以上のことから,本研究では,大学初年次教育実践として行われている協同学習場面を取り上げ,そこでの「傾聴」が,個人の社会的スキルとグループにおける協同作業に対する認識にどのように予測されるか,階層線形モデルを用い検討する。
方 法
対象 協同学習を取り入れた授業を行っている授業の受講生として,2015年度に地方国立大学の初年次教育科目を受講した1年生782名。
調査実施方法および実施時期 一斉配布・持ち帰り回答形式の質問紙調査を行った。質問紙は,初回授業(4月中旬)で配布をした。
質問紙 質問紙には研究への同意やグループ番号などを尋ねるフェースシートに続き,以下の尺度が含められた。
「社会的スキル尺度」:菊池(1988)による「KiSS-18 (Kikuchi’s Scale of Social Skills: 18 items)」を用いた。1因子18項目。
「協同作業に対する認識」:長濱ら(2009)で作成されている尺度から「協同効用」9項目を用いた。
「協同学習中の行動に関する尺度」:中西・長濱・下村・守山・奥田・梅本(2015)で作成されている尺度から「傾聴」3項目を用いた。なお,この他にもいくつかの尺度が含まれていた。
結果と考察
「傾聴」を従属変数,KiSS18を個人レベル変数,協同効用の集団平均値を集団レベル変数とした階層線型モデルによる分析を行った。分析にはHAD15(清水, 2016)を用いた。
その結果,Table 1の通り,KiSS18ならびに協同効用の集団平均値の有意な固定効果が見られたとともに,KiSS18の有意な変量効果が見られた。また,KiSS18と協同効用の集団平均値の交互作用が有意傾向となった。単純効果分析の結果(Table 2)からは,KiSS18で測定された社会的スキルが傾聴を予測するがその多少による影響が集団の協同効用が高い場合は緩和される,すなわち,協同効用が高い集団では社会的スキルの低さによる傾聴の低下が緩和されると考えられる。
引用文献
菊池章夫 (1988). 思いやりを科学する 川島書店, 170-174.
長濱文与・安永 悟・関田一彦・甲原定房 (2009). 協同作業認識尺度の開発 教育心理学研究, 57, 24-37.
中西良文・長濱文与・下村智子・守山紗弥加・奥田久春・梅本貴豊 (2015). 協同学習における動機づけ・学習観・学習行動の関係 日本協同教育学会第12回大会発表論文集, 90-91.
清水裕士 (2016). フリーの統計分析ソフトHAD:機能の紹介と統計学習・教育,研究実践における利用方法の提案 メディア・情報・コミュニケーション研究, 1, 59-73.
以上のことから,本研究では,大学初年次教育実践として行われている協同学習場面を取り上げ,そこでの「傾聴」が,個人の社会的スキルとグループにおける協同作業に対する認識にどのように予測されるか,階層線形モデルを用い検討する。
方 法
対象 協同学習を取り入れた授業を行っている授業の受講生として,2015年度に地方国立大学の初年次教育科目を受講した1年生782名。
調査実施方法および実施時期 一斉配布・持ち帰り回答形式の質問紙調査を行った。質問紙は,初回授業(4月中旬)で配布をした。
質問紙 質問紙には研究への同意やグループ番号などを尋ねるフェースシートに続き,以下の尺度が含められた。
「社会的スキル尺度」:菊池(1988)による「KiSS-18 (Kikuchi’s Scale of Social Skills: 18 items)」を用いた。1因子18項目。
「協同作業に対する認識」:長濱ら(2009)で作成されている尺度から「協同効用」9項目を用いた。
「協同学習中の行動に関する尺度」:中西・長濱・下村・守山・奥田・梅本(2015)で作成されている尺度から「傾聴」3項目を用いた。なお,この他にもいくつかの尺度が含まれていた。
結果と考察
「傾聴」を従属変数,KiSS18を個人レベル変数,協同効用の集団平均値を集団レベル変数とした階層線型モデルによる分析を行った。分析にはHAD15(清水, 2016)を用いた。
その結果,Table 1の通り,KiSS18ならびに協同効用の集団平均値の有意な固定効果が見られたとともに,KiSS18の有意な変量効果が見られた。また,KiSS18と協同効用の集団平均値の交互作用が有意傾向となった。単純効果分析の結果(Table 2)からは,KiSS18で測定された社会的スキルが傾聴を予測するがその多少による影響が集団の協同効用が高い場合は緩和される,すなわち,協同効用が高い集団では社会的スキルの低さによる傾聴の低下が緩和されると考えられる。
引用文献
菊池章夫 (1988). 思いやりを科学する 川島書店, 170-174.
長濱文与・安永 悟・関田一彦・甲原定房 (2009). 協同作業認識尺度の開発 教育心理学研究, 57, 24-37.
中西良文・長濱文与・下村智子・守山紗弥加・奥田久春・梅本貴豊 (2015). 協同学習における動機づけ・学習観・学習行動の関係 日本協同教育学会第12回大会発表論文集, 90-91.
清水裕士 (2016). フリーの統計分析ソフトHAD:機能の紹介と統計学習・教育,研究実践における利用方法の提案 メディア・情報・コミュニケーション研究, 1, 59-73.