The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PF(01-64)

ポスター発表 PF(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 4:00 PM - 6:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PF42] つまずき場面における教科書・参考書の利用量・質の規定因の検討

教科書観に着目して

福田麻莉 (東京大学大学院)

Keywords:学習方略, つまずき, 教科書・参考書

問題と目的
 家庭学習において,学習者は「自力で問題が解けない」というつまずきに直面する。こうした場面では,教科書や参考書といったテキストを利用しつまずきを乗り越える力が求められる。こうしたテキストの利用スキルは「21世紀型スキル」(ATC21S, 2012)の一つでもあり,学習場面を超え重要性が指摘されている。しかしながら,学習者は何か分からないことがあっても自発的に教科書を見返さないこと(市川,2000),表面的な情報のみを利用すること(Juban & Lopez,2013)が問題として指摘されてきた。これらを解決するために,利用量・質の規定因を明らかにする必要がある。
 これまでの学習方略研究では,有効性の認知(e.g., Newman, 1990)や学習観(e.g., 瀬尾, 2007)が学習方略の利用量・質に影響を及ぼすことが明らかとなっているが,教科書・参考書という道具の特性を考えると,「学習者が教科書・参考書をどのような道具であると捉えているか」,すなわち教科書観が影響すると考えられる。さらに,授業中,教師が教科書・参考書を積極的に使用するほど「教科書・参考書は家庭学習でも役立つ道具である」という教科書観が形成される可能性がある。
 以上より,本研究では,つまずき場面における教科書・参考書の利用量・質に対して,中高生の教科書観が及ぼす影響,また,授業中の教師による教科書・参考書の使用が中高生の教科書観に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。その際,中高の違いについても検討を行う。
方   法
参加者 中学生510名高校生1340名,計1850名
手続き HRを利用して,クラス単位で実施した。
質問紙内容 全て5件法で回答を求めた。(1) 数学のつまずき場面における教科書・参考書の利用量: Newman (1990),瀬尾 (2005) を参考に作成した5項目。(2) 数学のつまずき場面における教科書・参考書の利用の質: 野崎 (2003),瀬尾 (2007) および予備調査を参考に作成した自律的利用10項目,依存的利用9項目,計19項目。(3) 教科書・参考書の利用に対する有効性の認知・コスト感: 瀬尾 (2005) およびNewman (1990) を参考に作成した10項目。(4) 教科書観: 予備調査を参考に作成した授業の道具2項目,家庭学習の道具3項目,計5項目。(5) 教師による教科書・参考書の使用: 予備調査を参考に作成した16項目。(6) 学習観: 植阪他(2006)のうち結果主義,思考過程重視, 計6項目。
結果と考察
因子分析 各尺度について,それぞれ探索的因子分析(最尤法)を行った。利用の質尺度については,依存的利用が2つの因子に分かれ,「類題の解き方を見て数字を当てはめる」といった項目の因子を表面的利用,「分からなかったらすぐに見返す」といった因子を依存的利用とした。
変数間の関連の検討 モデル比較を行い,因子負荷・観測変数の切片が等価であるモデルを採用し,モデルに基づき他母集団同時分析を行った。
 中学生集団のパス図を図1に示す。中高の両集団において,授業中の教師の教科書の使用程度が教科書観に影響を及ぼすことが明らかとなった。すなわち,「先生は教科書を使用して,定義や解き方を説明している」と生徒が認識しているほど,教科書・参考書は,授業で利用するだけの道具ではなく,家庭学習中に復習をしたり,分からなくなった時に利用する道具であるという教科書観を持っていることが示された。さらに,教科書観は,有効性の認知・コスト感を介して教科書・参考書の利用の量・質に影響を及ぼしていることが明らかとなった。ただし,有効性の認知は表面的利用・依存的利用にとも関連しており,質を高めるためには更なる工夫が必要であることが示唆された。
 また,思考過程重視志向の学習観を持っているほど利用量が多く,自律的・表面的な利用方法を取っていること,結果重視志向の学習観を持っているほど,依存的な利用方法を取っていることが明らかとなった。中学生の段階から望ましい学習観・学習方略を身につけさせ,学習観の影響を緩和させることが重要であると言えるだろう。