[PF44] 地理の教材における地図と文章の注視割合
学習者は地図と文章のどちらを見て解答しているか
キーワード:地理教材, 眼球運動, 文章理解
問題と目的
地理教育の目標は,地域における特色のある事象と他の事象を有機的に関連づけて考察したり,対照的あるいは類似した地域を比較して考察したりする能力を習得することである。したがって,地理教材の読解においては,地図の活用が重要となってくる。しかし,学習者は文章と写真や図などの欄外情報を関連づけた読みを行いにくいことが示されている (深谷他,2000)。地理の教材においても同様のことが考えられるが,現在のところ地理の教材をどのように読んでいるかを実証した研究は見られない。
本研究では,高校で地理を履修していた学習者とそうでない学習者を対象に地理の教材を読ませ,地理の問題解答時の眼球運動を測定した。予測として,地理履修の学生は,地理の問題の解答時には地図をよく見ていることが考えられる。一方,地理未履修の学習者は深谷他 (2000) より,文章をよく見ていることが考えられる。
方 法
参加者 学部3年生以上の学生が実験に参加した。高校で地理を非履修の学生10名,地理を履修していた学生7名だった。
課題 架空の地域について,複数の地図と文章から構成された教材を読み,地理の問題に解答した。
刺激 地理の教科書に類似した刺激を用いた。文章は4つの事象について各1段落で構成されていた。地図は4つの事象の地図と地名の5種類であった。文章は画面の左側に縦に並べて,地図は画面の右側に縦に並べて提示された。刺激は,3地域用意された。
装置 注視点測定システムTE-9200 (テクノワークス社) を用いて,眼球運動を測定した。
手続き 個別に実験を行なった。まず,架空の地域について5分間の学習段階を設けた。その後,その地域についての地理の問題を6問解答させた。最後に内省報告を行なった。
結 果
解答中の眼球運動のデータより,各エリア (問題文,地図,文章) について注視時間の割合とSDを算出した (図1)。
注視時間の割合を従属変数として,地理履修の有無 (2: 地理非履修者,地理履修者) × 注視エリア (2: 地図,文章) の分散分析を行なった。その結果,注視エリアの主効果 (F (1, 15) = 5.74, p = .03, 偏η2 = .28),地理履修の有無と注視エリアの交互作用 (F (1, 15) = 4.86, p = .04, 偏η2 = .24)が見られた。多重比較を行なったところ,注視エリア地図において,地理非履修者より地理履修者のほうが有意に高かった (F (1, 15) = 6.66, p = .02, 偏η2 = .30)。一方,注視エリア文章において,地理非履修者より地理履修者のほうが注視時間の割合が高い傾向が見られた (F (1, 15) = 3.26, p = .09, 偏η2 = .18)。また,地理履修者において,注視エリア文章より地図のほうが有意に高かった (F (1, 6) = 40.68, p = .00, 偏η2 = .87)。地理非履修者では,注視エリアによる違いは見られなかった (F (1, 9) = 0.01, ns, 偏η2 = .00)。
考 察
結果より,地理履修者は地図をよく見て解答しており,文章を見ていないことが明らかとなった。つまり,主に地図から解答を導き出したといえる。一方,地理非履修者は地図と文章を見ている割合に違いはなく,どちらも活用しながら解答していることが明らかとなった。地図からだけでなく,文章を読み,答えを探していたと考えられる。
本研究では,解答中の眼球運動の指標に留まり,理解度との関連については,検討していない。今後は眼球運動の指標と理解度の関連を検討する必要がある。
※学習時の眼球運動の結果はICP2016で発表予定である。
地理教育の目標は,地域における特色のある事象と他の事象を有機的に関連づけて考察したり,対照的あるいは類似した地域を比較して考察したりする能力を習得することである。したがって,地理教材の読解においては,地図の活用が重要となってくる。しかし,学習者は文章と写真や図などの欄外情報を関連づけた読みを行いにくいことが示されている (深谷他,2000)。地理の教材においても同様のことが考えられるが,現在のところ地理の教材をどのように読んでいるかを実証した研究は見られない。
本研究では,高校で地理を履修していた学習者とそうでない学習者を対象に地理の教材を読ませ,地理の問題解答時の眼球運動を測定した。予測として,地理履修の学生は,地理の問題の解答時には地図をよく見ていることが考えられる。一方,地理未履修の学習者は深谷他 (2000) より,文章をよく見ていることが考えられる。
方 法
参加者 学部3年生以上の学生が実験に参加した。高校で地理を非履修の学生10名,地理を履修していた学生7名だった。
課題 架空の地域について,複数の地図と文章から構成された教材を読み,地理の問題に解答した。
刺激 地理の教科書に類似した刺激を用いた。文章は4つの事象について各1段落で構成されていた。地図は4つの事象の地図と地名の5種類であった。文章は画面の左側に縦に並べて,地図は画面の右側に縦に並べて提示された。刺激は,3地域用意された。
装置 注視点測定システムTE-9200 (テクノワークス社) を用いて,眼球運動を測定した。
手続き 個別に実験を行なった。まず,架空の地域について5分間の学習段階を設けた。その後,その地域についての地理の問題を6問解答させた。最後に内省報告を行なった。
結 果
解答中の眼球運動のデータより,各エリア (問題文,地図,文章) について注視時間の割合とSDを算出した (図1)。
注視時間の割合を従属変数として,地理履修の有無 (2: 地理非履修者,地理履修者) × 注視エリア (2: 地図,文章) の分散分析を行なった。その結果,注視エリアの主効果 (F (1, 15) = 5.74, p = .03, 偏η2 = .28),地理履修の有無と注視エリアの交互作用 (F (1, 15) = 4.86, p = .04, 偏η2 = .24)が見られた。多重比較を行なったところ,注視エリア地図において,地理非履修者より地理履修者のほうが有意に高かった (F (1, 15) = 6.66, p = .02, 偏η2 = .30)。一方,注視エリア文章において,地理非履修者より地理履修者のほうが注視時間の割合が高い傾向が見られた (F (1, 15) = 3.26, p = .09, 偏η2 = .18)。また,地理履修者において,注視エリア文章より地図のほうが有意に高かった (F (1, 6) = 40.68, p = .00, 偏η2 = .87)。地理非履修者では,注視エリアによる違いは見られなかった (F (1, 9) = 0.01, ns, 偏η2 = .00)。
考 察
結果より,地理履修者は地図をよく見て解答しており,文章を見ていないことが明らかとなった。つまり,主に地図から解答を導き出したといえる。一方,地理非履修者は地図と文章を見ている割合に違いはなく,どちらも活用しながら解答していることが明らかとなった。地図からだけでなく,文章を読み,答えを探していたと考えられる。
本研究では,解答中の眼球運動の指標に留まり,理解度との関連については,検討していない。今後は眼球運動の指標と理解度の関連を検討する必要がある。
※学習時の眼球運動の結果はICP2016で発表予定である。