日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PF(01-64)

ポスター発表 PF(01-64)

2016年10月9日(日) 16:00 〜 18:00 展示場 (1階展示場)

[PF48] 仲間集団の存在と同調傾向が社会的迷惑における罪悪感の生起に及ぼす影響

栗林克匡 (北星学園大学)

キーワード:社会的迷惑, 同調, 罪悪感

 社会的迷惑の生起に及ぼす状況要因として他者の存在に注目した研究がこれまでにいくつか行われている。高田・矢守(1998)は乗車場面における迷惑を検討し,周囲の見知らぬ乗客よりも,自分が所属する仲間集団の評価を懸念し,仲間に歩調を合わせた悪いマナーの行動に走る可能性を示した。また谷(2013)は,同じく乗車場面における迷惑について個状況と集団状況(同性友人と一緒)を想定させて,迷惑認知および迷惑行為の生起に及ぼす影響を検討したが,状況による差は有意ではなかった。ただし,個状況で迷惑認知が迷惑行為を抑制する効果が見られた一方,集団状況では迷惑認知の影響は見られず,迷惑だと分かっていてもするという態度が確認されている。これらから,他者(仲間集団)が存在していることで,個人的規範や公衆規範よりも仲間内の規範が顕在化し,迷惑行為を行ってしまう可能性があるといえよう。
ところで,迷惑行為(どの程度するか)や迷惑認知(どの程度迷惑だと思うか)に関連する重要な変数として,谷(2010)は乗車場面の迷惑における罪悪感(どの程度後ろめたさを感じるか)に注目している。しかしこの研究では単独時の乗車場面のみが対象だったので,本研究では,単独と集団の両場面を設定して罪悪感の生起の比較を行う。さらに本研究では,罪悪感の生起に及ぼす要因として,他者の存在という状況要因の他に,個人特性としての仲間への同調傾向を取り上げる。同調は,親密な友人関係の構築や社会生活の円滑化に重要な役割を果たしている(五十嵐ら,2014)。同調傾向の高い者は,仲間の価値基準を優先すると考えられることから,公共場面での見知らぬ他者への配慮が薄れてしまう可能性がある。そこで本研究では,仲間集団の存在と同調傾向が社会的迷惑における罪悪感の生起に及ぼす影響について検討する。
方   法
調査参加者:大学生105名(男性23名,女性82名)。平均年齢は20.16歳(SD=1.08)であった。
質問紙の構成:性別,年齢など基本的属性の他,以下の尺度について回答させた。①迷惑行為の頻度と罪悪感:谷(2010)の乗車場面における15の非社会的行為を参考にした。本研究では,「一人でいるとき(一人場面)」と「同性友人5人くらいのグループでいるとき(集団場面)」を設定し,両場面で想定しうる12項目を抜粋して使用した。頻度は,一人場面と集団場面の両方についてそれぞれどの程度するのか「1:全くしない~5:いつもする」の5段階で回答させた。罪悪感は,両場面でそれぞれどの程度後ろめたさを感じるのか「1:全く感じない~5:とても感じる」の5段階で回答させた。②同調行動傾向:五十嵐ら(2014)の同調行動尺度から「仲間への同調」因子9項目を用い,「1:ほとんどあてはまらない」~「4:とてもあてはまる」の4段階で回答させた。
結果と考察
 迷惑行為の頻度得点および罪悪感得点は12項目の平均値を算出した。それら得点を従属変数とし,場面(一人・集団)×同調傾向(低群・高群)×性別(男・女)の3要因分散分析を実施した。なお同調傾向要因は,同調傾向得点の平均値(17.85)で高低群に分割した。その結果,迷惑行為の頻度については主効果・交互作用ともに有意ではなかった。8条件の平均得点は1.47~1.79の範囲で,迷惑行為の頻度はかなり低いようであった。罪悪感については,すべての主効果・交互作用が有意であった。図1に場面×同調傾向×性別の交互作用を示した(F(1,101)=19.14,p<.001)。谷(2010)の研究で男性が女性よりも罪悪感が低いことが示されているが,今回の結果から,特に集団状況で同調傾向の高い男性は,他の条件と比べて罪悪感が抑えられることが新たに示された。この条件下の男性は,本研究の乗車場面では迷惑行為頻度は低いものの,罪悪感の低さから迷惑行為へつながる可能性を最も秘めているといえよう。他の迷惑場面(cf.吉田ら,1999)での検討が今後必要であろう。

※本研究の実施にあたり仲谷萌さんの協力を得ました。記して感謝いたします。