[PF49] 母親の就労が母子関係に及ぼす影響
就労開始時期は影響するのか
Keywords:母親, 就労, 家族
問題と目的
母親の就労が子どもの発達や行動等にどのような影響を及ぼすのかは,わが国の関心事の一つである。Harvey(1999)は,母親の就労が子どもの問題行動や社会性の発達に悪い影響を及ぼすことはないとした。また,相谷・石田(2005)は,母親の就労は子どもが健全な家族観を持つのに寄与するとした。一方,菅(2009)は,学校内の逸脱行動には母親の就労状態が一定の影響を及ぼす可能性があると指摘している。
ところで,人口問題研究所(2010)によると,第一子出産後も継続就労する女性の割合は,1980年代では39%であったが,2000年代後半でも38%と変化は無い。また,母親は子どもの小学校入学を機に再就労を考えている者は少なくない。本研究では,母親の就労はもとより再就労開始の時期の差異が,子どもの家族観にどのような影響を及ぼすのかを精査した。
方 法
《被験者》 母親の就労状態を次の3つに分けた。①専業主婦,②出産後も継続就労または子どもが就学前から再就労,③子どもが小学校入学後から再就労,以上3つの群に相当する大学生各10人の計30人。
《手続き》 各被験者に対して,家族の関係性を家族システム理論に基づいて調べるために開発されたFamily System Test(以下,FASTと称する。)を実施。
各被験者には,①小学生の頃を想起させて当時の家族関係,②現在の家族関係,以上2つの場面をFASTで表現させた。その後に,表象の内省報告を求めた。
結果および考察
FASTでは,各家族成員を表す人形間の距離で,二者間の「親密さ」を表し,距離が小さいほどその度合いは強い。「親密さ」の各場面の結果がFigure 1である。また,人形の下に置くブロックで高さを調節し,各人が有する「パワー」を表す。二者間の高さの差が大きいほど,一方が他方への影響力や権威は大きい。「パワー」の各場面の結果がFigure 2である。以上を基に分析した結果,「親密さ」については,母親が働いていた小学生の頃の思い出では,母親の就労開始時期に関係なく,専業主婦の母親と比較して一様に寂しかったことが分かった。ただ,現在では母親の就労の有無に関係なく「親密さ」には差が無い。一方,「パワー」ついては,母親の就労の有無に関係なく,小学生の頃の母親は親としての威厳や影響力が子どもの対してあったことが分かる。ただ,現在においては,専業主婦の母親と子どもとの「パワー」は差が小さくなってしまい,親としての威厳や影響力が矮小化している。一方,母親の就労は,その開始時期に関係なく,大学生となった現在でも母親の威厳や影響力は維持し続けており,親としての機能が発揮されていることが分かる。実施後の被験者からの内省報告でも「働きながら家事もこなし尊敬している。感謝している。」等の発言が多々見られた。以上から,家族システム理論の見地からは,母親の就労は,青年期の母子関係にはその開始時期が何時であろうと影響はせず,また母親の就労自体が母子関係をむしろ良化させることが明らかとなった。
母親の就労が子どもの発達や行動等にどのような影響を及ぼすのかは,わが国の関心事の一つである。Harvey(1999)は,母親の就労が子どもの問題行動や社会性の発達に悪い影響を及ぼすことはないとした。また,相谷・石田(2005)は,母親の就労は子どもが健全な家族観を持つのに寄与するとした。一方,菅(2009)は,学校内の逸脱行動には母親の就労状態が一定の影響を及ぼす可能性があると指摘している。
ところで,人口問題研究所(2010)によると,第一子出産後も継続就労する女性の割合は,1980年代では39%であったが,2000年代後半でも38%と変化は無い。また,母親は子どもの小学校入学を機に再就労を考えている者は少なくない。本研究では,母親の就労はもとより再就労開始の時期の差異が,子どもの家族観にどのような影響を及ぼすのかを精査した。
方 法
《被験者》 母親の就労状態を次の3つに分けた。①専業主婦,②出産後も継続就労または子どもが就学前から再就労,③子どもが小学校入学後から再就労,以上3つの群に相当する大学生各10人の計30人。
《手続き》 各被験者に対して,家族の関係性を家族システム理論に基づいて調べるために開発されたFamily System Test(以下,FASTと称する。)を実施。
各被験者には,①小学生の頃を想起させて当時の家族関係,②現在の家族関係,以上2つの場面をFASTで表現させた。その後に,表象の内省報告を求めた。
結果および考察
FASTでは,各家族成員を表す人形間の距離で,二者間の「親密さ」を表し,距離が小さいほどその度合いは強い。「親密さ」の各場面の結果がFigure 1である。また,人形の下に置くブロックで高さを調節し,各人が有する「パワー」を表す。二者間の高さの差が大きいほど,一方が他方への影響力や権威は大きい。「パワー」の各場面の結果がFigure 2である。以上を基に分析した結果,「親密さ」については,母親が働いていた小学生の頃の思い出では,母親の就労開始時期に関係なく,専業主婦の母親と比較して一様に寂しかったことが分かった。ただ,現在では母親の就労の有無に関係なく「親密さ」には差が無い。一方,「パワー」ついては,母親の就労の有無に関係なく,小学生の頃の母親は親としての威厳や影響力が子どもの対してあったことが分かる。ただ,現在においては,専業主婦の母親と子どもとの「パワー」は差が小さくなってしまい,親としての威厳や影響力が矮小化している。一方,母親の就労は,その開始時期に関係なく,大学生となった現在でも母親の威厳や影響力は維持し続けており,親としての機能が発揮されていることが分かる。実施後の被験者からの内省報告でも「働きながら家事もこなし尊敬している。感謝している。」等の発言が多々見られた。以上から,家族システム理論の見地からは,母親の就労は,青年期の母子関係にはその開始時期が何時であろうと影響はせず,また母親の就労自体が母子関係をむしろ良化させることが明らかとなった。