[PF50] 専門教育によるリスクのある学習対象への態度変容(1)
診療放射線技師養成大学卒業生と一般大学生の比較
キーワード:リスク認知, 専門教育, 放射線
目 的
Fischhoff(1995)はリスクコミュニケーションの発展段階において,リスクにまつわる知識の提供がリスク認知を変化させる可能性に言及している。また,一般大学生や検診受診者のCT検査と検査による被ばくへの態度構造の検討においても,検査や被ばくへの不安が検査に対する知識で低減されることが示唆されてきた(富高ら,2013; 2015; 2016)。ただし,これらの検討における知識の有無は質問紙調査の自己評価によるものであり,知識があると回答した参加者でも,実際に知識が豊富であったとは限らない。そこで,本研究ではCT検査に関して大きく知識の差があると考えられる診療放射線技師養成大学卒業生(以下,養成大学卒業生)と総合大学の一般大学生のCT検査とその被ばくに関する質問紙への回答を比較した。これにより放射線技師を養成するための専門教育による知識がCT検査やその放射線という学習対象への態度をどのように変化させるのかを検討する。
方 法
調査参加者 京都府内の養成大学卒業生74名と大阪府内の私立大学生496名であった。
調査期間 養成大学卒業生:2016年3月に卒業式後の卒後オリエンテーションの時間を使って行われた。一般大学生:2013年5月に一般教養の心理学の講義で,講義の一環として行われた。
質問紙 予備調査を元に富高ら(2013)で作成した31の質問項目に対して,“1.そう思わない”,“2.あまりそう思わない”,“3.どちらとも言えない”,“4.ややそう思う”,“5.そう思う”の5段階での回答を求めた。富高ら(2013)によるこの質問紙の一般大学生のデータを対象とした因子分析では6因子構造(CT検査情報提供の願望:5項目,CT検査への恐怖・不安:7項目,CT検査のメリット:4項目,CT検査に対する無知:6項目,CT検査に対する肯定的態度:5項目,CT検査の簡便さ:2項目)が示された。また,養成大学卒業生の質問紙の冒頭には,「あなたがCT検査を受診する場合に」という文が追加された。
結果と考察
回答に不備がなかった養成大学卒業生58名(男性34名;女性24名,平均年齢=22.40歳;SD=1.06,平均CT検査受診回数0.36回;SD=0.91)と一般大学生461名(男性216名;女性245名,平均年齢=18.89歳;SD=1.20;無回答2名,平均CT検査受診回数0.36回;SD=1.64;無回答11名)を分析対象とした。質問紙が6因子構造であることを前提とし,養成大学卒業生と一般大学生それぞれの各因子に属する項目の平均点に関してt検定(等分散が仮定されない場合はウェルチのt検定)を用いて比較した。
CT検査に対する知識が客観的に多いと考えられる養成大学卒業生は一般大学生よりも,CT検査のメリットを感じていること,CT検査に関する知識があると考えていること,CT検査を肯定的に捉えていること,CT検査が簡便であると思っていることが示された(Table 1)。しかし,不安・恐怖には両者に差がなかった。そのため,客観的な知識量が不安・恐怖という感情には影響しない可能性が考えられる。また,情報提供の願望に関しても差がみられなかった。富高ら(2013)によると,不安・恐怖と情報提供の因子には.50と中程度の相関がありこれは妥当なものと考えられる。
ただし,養成大学卒業生と一般大学生はCT検査に対する知識量だけでなく,自己関与度や親近性なども異なっている可能性がある。今後,養成大学の学年ごとの比較などを通してさらに学習対象への知識と態度の関係を検討すべきである。
(付記)本研究はJSPS科研費26861023の助成を受けたものです。
Fischhoff(1995)はリスクコミュニケーションの発展段階において,リスクにまつわる知識の提供がリスク認知を変化させる可能性に言及している。また,一般大学生や検診受診者のCT検査と検査による被ばくへの態度構造の検討においても,検査や被ばくへの不安が検査に対する知識で低減されることが示唆されてきた(富高ら,2013; 2015; 2016)。ただし,これらの検討における知識の有無は質問紙調査の自己評価によるものであり,知識があると回答した参加者でも,実際に知識が豊富であったとは限らない。そこで,本研究ではCT検査に関して大きく知識の差があると考えられる診療放射線技師養成大学卒業生(以下,養成大学卒業生)と総合大学の一般大学生のCT検査とその被ばくに関する質問紙への回答を比較した。これにより放射線技師を養成するための専門教育による知識がCT検査やその放射線という学習対象への態度をどのように変化させるのかを検討する。
方 法
調査参加者 京都府内の養成大学卒業生74名と大阪府内の私立大学生496名であった。
調査期間 養成大学卒業生:2016年3月に卒業式後の卒後オリエンテーションの時間を使って行われた。一般大学生:2013年5月に一般教養の心理学の講義で,講義の一環として行われた。
質問紙 予備調査を元に富高ら(2013)で作成した31の質問項目に対して,“1.そう思わない”,“2.あまりそう思わない”,“3.どちらとも言えない”,“4.ややそう思う”,“5.そう思う”の5段階での回答を求めた。富高ら(2013)によるこの質問紙の一般大学生のデータを対象とした因子分析では6因子構造(CT検査情報提供の願望:5項目,CT検査への恐怖・不安:7項目,CT検査のメリット:4項目,CT検査に対する無知:6項目,CT検査に対する肯定的態度:5項目,CT検査の簡便さ:2項目)が示された。また,養成大学卒業生の質問紙の冒頭には,「あなたがCT検査を受診する場合に」という文が追加された。
結果と考察
回答に不備がなかった養成大学卒業生58名(男性34名;女性24名,平均年齢=22.40歳;SD=1.06,平均CT検査受診回数0.36回;SD=0.91)と一般大学生461名(男性216名;女性245名,平均年齢=18.89歳;SD=1.20;無回答2名,平均CT検査受診回数0.36回;SD=1.64;無回答11名)を分析対象とした。質問紙が6因子構造であることを前提とし,養成大学卒業生と一般大学生それぞれの各因子に属する項目の平均点に関してt検定(等分散が仮定されない場合はウェルチのt検定)を用いて比較した。
CT検査に対する知識が客観的に多いと考えられる養成大学卒業生は一般大学生よりも,CT検査のメリットを感じていること,CT検査に関する知識があると考えていること,CT検査を肯定的に捉えていること,CT検査が簡便であると思っていることが示された(Table 1)。しかし,不安・恐怖には両者に差がなかった。そのため,客観的な知識量が不安・恐怖という感情には影響しない可能性が考えられる。また,情報提供の願望に関しても差がみられなかった。富高ら(2013)によると,不安・恐怖と情報提供の因子には.50と中程度の相関がありこれは妥当なものと考えられる。
ただし,養成大学卒業生と一般大学生はCT検査に対する知識量だけでなく,自己関与度や親近性なども異なっている可能性がある。今後,養成大学の学年ごとの比較などを通してさらに学習対象への知識と態度の関係を検討すべきである。
(付記)本研究はJSPS科研費26861023の助成を受けたものです。