The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PF(01-64)

ポスター発表 PF(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 4:00 PM - 6:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PF55] 大学生の授業における動機づけの社会的伝達モデルの検討(2)

大学授業における短期縦断調査から

柳澤香那子1, 中谷素之2 (1.名古屋大学, 2.名古屋大学)

Keywords:動機づけの社会的伝達, 期待, 内発的動機づけ

目   的
 教育場面で重要な意味をもつかかわりの一つとして,教師―学生関係があげられる(中谷,2012)。その教師―学生関係に基づき,自己決定理論(Deci & Ryan, 2002)の観点から教師の動機づけの質による影響に着目した概念が,動機づけの社会的伝達モデル(Wild & Enzle, 2002)である。
 動機づけの社会的伝達モデルとは,学習者が事前に「相手は内発的に動機づけられて教えている」と認知するか,「相手は外発的に動機づけられて教えている」と認知するかによって,実際の教え方や課題内容が同一であったとしても,内発的に教えると認知した学習者の方が,自身の興味や関心を高め,活動に対して内発的に動機づけられるとする概念である(Wild, Enzle, & Hawkins, 1992)。Wild & Enzle(2002)は,伝達が生じるメカニズムの説明として,学習者が教授者の動機づけを認知することにより,活動への期待が形成され,自身の動機づけへと結びつくとする期待の媒介モデルを提唱している。
 このように,学習者の期待を媒介して,教授者から学習者へ動機づけが伝達するとされる。だが,実際に期待を媒介要因とした検討はなされていない。よって,本研究では大学生の集団授業において,学習者の期待を媒介した教授者から学習者への動機づけの社会的伝達が生じるか縦断的に検討することを目的とする。
方   法
 調査時期・協力者 調査は5月上旬(Time1),5月下旬(Time2),7月上旬(Time3)の計3時点で行われた。愛知県内と三重県内の大学に通う学生を対象に質問紙を配布した。対象者は全員,教育心理学や発達心理学に関する授業を受講していた。全調査に参加した学生158名を分析対象とした。
 調査内容 1.学習者が認知する教師の動機づけ:先行研究における概念的な定義(鹿毛,2014;桜井・高野,1985)を参考に,項目を新たに作成した。認知された教師の内発的動機づけ,認知された教師の外発的動機づけの2つの下位尺度からなる。10項目,6件法。
2.学習者の期待:Wild & Enzle(2002)における期待の概念的な定義をもとに,安藤(2001),鹿毛(2014),Reeve, Nix, & Hamm(2003),田中・山内(2000)を参考にして,項目を新たに作成した。12項目,6件法。
3.学習者の内発的動機づけ:鹿毛(1994)において用いられた項目を,課題を心理学に変えて使用した。8項目,6件法。
結   果
 期待を媒介とした動機づけの社会的伝達モデルを検討するため,認知された教授者の内発的動機づけ(Time1)を独立変数,心理学に対する内発的動機づけ(Time2)を従属変数,学習者の期待(Time1)を媒介変数とする媒介分析を行った。結果,認知された教授者の内発的動機づけと学習者の期待,学習者の期待と心理学に対する内発的動機づけのパス係数はそれぞれ有意であった(β=.77,p<.001; β=.74,p<.001)。ブートストラップ法によって95%信頼区間を算出し,学習者の期待の間接効果が有意かどうか検証を行ったところ,信頼区間に0が含まれていないため,間接効果は0.1%水準で有意であった(信頼区間:0.398~0.765)。
 また,より期間をおいたうえでの期待の媒介効果を確かめるために,認知された教授者の内発的動機づけ(Time1)を独立変数,心理学に対する内発的動機づけ(Time3)を従属変数,学習者の期待(Time1)を媒介変数とする媒介分析を行った。結果,認知された教授者の内発的動機づけと学習者の期待,学習者の期待と心理学に対する内発的動機づけのパス係数はそれぞれ有意であった(β=.77,p<.001; β=.62,p<.001)。同じくブートストラップ法で検討したとこと,信頼区間に0が含まれていないため,間接効果は0.1%水準で有意であった(信頼区間:0.315~0.671)。
考   察
 以上より,大学生の一斉授業において,学習者は「教えることを楽しいと感じている」「教えることを面白いと感じている」といった教師の内発的動機づけを認知することで,学習内容と対人関係における期待を形成し,その期待が学習者自身の内発的動機づけへと影響するプロセスが示唆された。本知見は,教授者から学習者への動機づけの伝達過程をより詳細に示した点,教師の動機づけの機能を理解するために役立ちうる知見を提供した点で意義深いといえる。