The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

ポスター発表 PF(01-64)

ポスター発表 PF(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 4:00 PM - 6:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PF57] 専攻の違いによる専攻学問に対する価値の特徴

松本明日香1, 小川一美2, 斎藤和志3 (1.愛知淑徳大学大学院, 2.愛知淑徳大学, 3.愛知淑徳大学)

Keywords:専攻学問, 課題価値

 学習者が学習内容にどのような価値を求めるのか,現在学んでいる学習にどのような価値評定をしているかという,学習に対する価値づけを,課題価値という(伊田,2001)。課題価値に関する先行研究は,「課題」にあたる内容として,個別の授業に着目した研究がほとんどであった。しかし,大学教育という観点から課題価値を捉えると,特定の授業に対する価値のみではなく,“専攻学問”に対する価値が存在すると考えられるため,本研究では“専攻学問に対する価値”に着目する。専攻学問に対する価値は,特定の授業を対象とした従来の課題価値研究と同様に,利用価値,興味価値,獲得価値といった下位概念に分類が可能かどうかを確認する必要がある。また課題価値は,大学の違いや教職志望度などによって異なることが示されており(伊田,2003; 2004など),専攻学問に対する価値も,所属学部や専攻によって異なった特徴を示す可能性がある。そこで,本研究は専攻学問に対する価値の構造の確認と,専攻ごとの価値の特徴を探索的に検討することを目的とする。
方   法
 調査対象者 900名の大学生にWeb調査を実施した。属性は表1の通りであった(M=21.39歳)。
 調査内容 専攻学問に対する価値:伊田(2001)による課題価値尺度30項目(7件法)を用いたが,“専攻学問”について回答するよう教示文を変更し,使用した。
結果・考察
 専攻学問に対する価値について,9専攻すべてのデータを使用し,因子分析(最尤法,直接オブリミン)を行った結果,伊田(2001)と同様に4因子解(利用価値,興味価値,私的獲得価値,公的獲得価値)が得られた(α=.925~.970)。専攻学問に対する価値も,従来の特定の授業に対する価値と同様の下位尺度になることがわかった。この結果に基づき,下位尺度得点を算出した(表1)。
 専攻学問に対する価値の特徴を検討するため,専攻学問と性別による2要因分散分析を行った結果,全ての価値得点において専攻学問の主効果が有意であった。多重比較の結果,利用価値では,保健が最も得点が高く,教育以外の全ての学問分野よりも有意に得点が高かった。また人文科学は最も得点が低く,社会科学,工学,教育,その他よりも有意に得点が低かった。私的獲得価値では,保健が,社会科学,理学,工学よりも有意に得点が高かった(工学は傾向差)。また社会科学は芸術,人文科学よりも有意に得点が低かった(人文科学は傾向差)。公的獲得価値では,保健が最も得点が高く,人文科学,社会科学,教育,その他よりも有意に得点が高かった。なお,興味価値は多重比較の結果,専攻による有意な差はみられなかった。半澤・坂井(2005)は,学業と職業の接続に関する理想と現実のズレが,職業レディネスや目標意識,学業や授業意欲の低下と関連がある可能性を示した。専攻学問を通じた学びと,将来就く職業との接続が比較的強く,学業と職業の接続において,理想と現実のズレが少ないと考えられる“保健”の分野に所属していることで,職業的目標と関連が深い利用価値が他の学問分野に比べ高くなり,加えて,職業と関連が深い学問であると価値づけ学んでいくことで,専攻学問の学びは獲得する意義があると感じ,獲得価値も高くなった可能性がある。さらに興味価値,公的獲得価値において性別の主効果が見られ,多重比較の結果,女性の方が有意に得点が高かった。女子は男子よりも知的刺激や達成感という側面に高い価値を置くことが示されているため(森永,1994),女性の方が,学びを通じた知的刺激の獲得に関する価値である興味価値や,獲得価値の中でも,学ぶことで周りから認められるといった,他者からの評価を通じてより達成感を実感しやすいと考えられる公的獲得価値が高かったのであろう。なお,いずれの得点でも,交互作用は有意ではなかった。