[PF74] 児童の攻撃行動への道徳的判断に関する研究
Keywords:児童, 道徳的判断, 文脈
問題と目的
いじめや攻撃行動が生起する原因として,仕返しや正当化された攻撃があげられる。平成27年3月に改定された小学校学習指導要領の「特別の教科 道徳」においても,いじめに対する道徳教育の在り方が取り上げられ,児童生徒の攻撃行動に注目が集まっている。幼児を対象とした越中(2005)では,報復や制裁場面における攻撃は挑発に比べて許容されやすいことが示された。本研究では,こうしたいじめや攻撃行動への道徳教育からのアプローチを前提とし,挑発・報復・制裁場面における攻撃行動への児童の道徳的判断を検討することで,「善悪の判断」や「寛容」,「公正・公平・社会正義」を取り上げ,文脈を考慮した授業づくり,教材づくりに結び付けていく必要性を示すことが考えられる。
方 法
対象児童 X小学校2~6年生の児童767名。調査時期 2015年11月上旬。道徳的判断 濱口(2003)の「挑発場面に対する応答的行動の報復行動因子」をもとに作成した。具体的には,3種類の攻撃場面(挑発,報復,制裁)において,「友達を無視すること」「友達をたたいたり,けったりすること」などの攻撃行動5項目を示した項目に対し,「悪くないと思う(0点)」~「悪いと思う(5点)」の6件法で回答を求めた。
結果と考察
質問紙に回答した767名のうち,欠損のあるデータを除いた742名(2年生男子87名,女子75名;3年生男子95名,女子 87名,4年生男子90名,女子83名;5年生男子75名,女子86名;6年生男子39名,女子30名)のデータを用いた。また,2~3年生を低学年,4~6年生を高学年として分析を行った。
3つの場面で尋ねた道徳的判断の平均得点を従属変数,性別(2:男・女)×学年群(2:低・高)×場面(3:挑発・報復・制裁)を独立変数とした3要因分散分析を行った(Table 1)。その結果,性別 (F= (1,738) = 29.03,p<.001),学年(F= (1,738) = 13.75,p<.01),場面の主効果(F= (2,1476) = 42.49,p<.001),学年と場面の交互作用(F= (2,1476) = 3.81,p<.001)が有意であった。学年と場面の交互作用について単純主効果の検定を行った結果,制裁場面において,学年の主効果が見られた(低<高)。また,学年における場面の単純主効果の検定を行った結果,学年に関わらず,挑発が最も悪いと判断されたが,報復と制裁を比較すると,高学年では,制裁が報復よりもより悪いと判断されたが,低学年については報復と制裁の判断に対して差が見られなかった。また,性と場面の交互作用が有意傾向(F= (2,1476) = 0.95,p<.10)であったため,まず,場面における性別の単純主効果の検定を行った結果,全ての場面において,女子の方が攻撃行動に対して攻撃行動得点が高かった。次に性別における場面の単純主効果の検定を行った結果,性別に関わらず,挑発が最も悪いと判断されていたが,報復と制裁の比較では,男子は制裁の方が報復よりもより悪いと判断していたが,女子では,報復と制裁の間に差が見られなかった。
これらの結果は,越中(2005)と同様,挑発が報復・制裁よりも「悪い」と判断された。また,道徳教育では,一方的な攻撃行動の善悪についてだけではなく,性別や学年,「正義」や「仕返し」など,文脈も考慮した教材を用いる必要性が示唆された。
いじめや攻撃行動が生起する原因として,仕返しや正当化された攻撃があげられる。平成27年3月に改定された小学校学習指導要領の「特別の教科 道徳」においても,いじめに対する道徳教育の在り方が取り上げられ,児童生徒の攻撃行動に注目が集まっている。幼児を対象とした越中(2005)では,報復や制裁場面における攻撃は挑発に比べて許容されやすいことが示された。本研究では,こうしたいじめや攻撃行動への道徳教育からのアプローチを前提とし,挑発・報復・制裁場面における攻撃行動への児童の道徳的判断を検討することで,「善悪の判断」や「寛容」,「公正・公平・社会正義」を取り上げ,文脈を考慮した授業づくり,教材づくりに結び付けていく必要性を示すことが考えられる。
方 法
対象児童 X小学校2~6年生の児童767名。調査時期 2015年11月上旬。道徳的判断 濱口(2003)の「挑発場面に対する応答的行動の報復行動因子」をもとに作成した。具体的には,3種類の攻撃場面(挑発,報復,制裁)において,「友達を無視すること」「友達をたたいたり,けったりすること」などの攻撃行動5項目を示した項目に対し,「悪くないと思う(0点)」~「悪いと思う(5点)」の6件法で回答を求めた。
結果と考察
質問紙に回答した767名のうち,欠損のあるデータを除いた742名(2年生男子87名,女子75名;3年生男子95名,女子 87名,4年生男子90名,女子83名;5年生男子75名,女子86名;6年生男子39名,女子30名)のデータを用いた。また,2~3年生を低学年,4~6年生を高学年として分析を行った。
3つの場面で尋ねた道徳的判断の平均得点を従属変数,性別(2:男・女)×学年群(2:低・高)×場面(3:挑発・報復・制裁)を独立変数とした3要因分散分析を行った(Table 1)。その結果,性別 (F= (1,738) = 29.03,p<.001),学年(F= (1,738) = 13.75,p<.01),場面の主効果(F= (2,1476) = 42.49,p<.001),学年と場面の交互作用(F= (2,1476) = 3.81,p<.001)が有意であった。学年と場面の交互作用について単純主効果の検定を行った結果,制裁場面において,学年の主効果が見られた(低<高)。また,学年における場面の単純主効果の検定を行った結果,学年に関わらず,挑発が最も悪いと判断されたが,報復と制裁を比較すると,高学年では,制裁が報復よりもより悪いと判断されたが,低学年については報復と制裁の判断に対して差が見られなかった。また,性と場面の交互作用が有意傾向(F= (2,1476) = 0.95,p<.10)であったため,まず,場面における性別の単純主効果の検定を行った結果,全ての場面において,女子の方が攻撃行動に対して攻撃行動得点が高かった。次に性別における場面の単純主効果の検定を行った結果,性別に関わらず,挑発が最も悪いと判断されていたが,報復と制裁の比較では,男子は制裁の方が報復よりもより悪いと判断していたが,女子では,報復と制裁の間に差が見られなかった。
これらの結果は,越中(2005)と同様,挑発が報復・制裁よりも「悪い」と判断された。また,道徳教育では,一方的な攻撃行動の善悪についてだけではなく,性別や学年,「正義」や「仕返し」など,文脈も考慮した教材を用いる必要性が示唆された。