日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PF(65-90)

ポスター発表 PF(65-90)

2016年10月9日(日) 16:00 〜 18:00 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PF85] 「スクールカースト」の維持プロセスの解明

社会的支配志向性・学級と学級外への居心地に着目して

水野君平1, 太田正義2 (1.北海道大学, 2.常葉大学)

キーワード:学校適応, スクールカースト, 間接効果

問題と目的
 近年,「スクールカースト」(鈴木,2012)という現象が注目され,学級内の「友だちグループ」間の地位が学校適応に影響するということが指摘されている。具体的には,上位グループの成員は下位グループの成員に対して一方的に見下すというような所属グループの地位に基づいた振る舞いや支配的な考えを持ち,学校適応が高くなるということである。そこで本研究では支配・格差を好む一般的な心理的傾向である社会的支配志向性(Sidanius & Pratto,1999:以下,SDO)を用い,学級内における集団間地位とSDOの関係を検討することで「スクールカースト」がどのように学校適応に影響するかを明らかにすることを目的とした。その際に,「スクールカースト」は学級内での集団間における現象であるため,学級での適応と学級以外の場所での適応への影響の度合いは異なると考えられる。したがって,本研究では学級適応と学級以外の適応に与えられる影響の差異を検討した。
方   法
 調査協力者:中学1年~3年生の1179名,調査時期:2015年11月であった。調査項目は以下である。(1)デモグラフィック変数:学年・性別,(2)集団間地位:「私の友だちグループはクラスで中心的だ」,(3)集団内地位:「私は自分の友だちグループの中で中心的だ」,(4)SDO:杉浦ら(2014)を参考にした(平等主義志向性と集団支配志向性)。(5)適応感については以下である。学校の居心地の良さ:「居心地の良さ」因子(大久保,2005)。学級の居心地の良さ:「居心地の良さ」因子(大久保,2005)を学級に改変。学級外の居心地の良さ:学級への居心地から学校への居心地を予測する単回帰(β=.601)の残差得点を利用した。なお,デモグラフィック変数以外はすべて5件法で尋ねた。検証する仮説は以下である。
 仮説1:集団間地位はSDOを媒介して学級への居心地に正の効果を持つ。仮説2:集団間地位はSDOを媒介して学級外への居心地には効果を持たない。
結果と考察
 性別,学年,集団内地位を統制変数として投入し,構造方程式モデリングによる分析をおこなった。その際に,多重代入法で欠損値推定をおこない,Bootstrap法(バイアス修正法,リサンプリング数2000回)によって間接効果を推定した(Figure 1)。最終的なサンプルサイズはn=990であった。その結果,集団間地位はSDOを媒介として教室への居心地に有意な正の間接効果を持った(β= 025,95%CI [.012―.046])。一方で,集団間地位はSDOを媒介として教室への居心地に有意な間接効果を持たなかった(β= 009,95%CI [-.002―.024])。したがって,仮説1,2ともに支持された。
 このことは,高地位集団の生徒は格差に対する是認を志向し,階層関係への志向や正当化が,階層関係の存在する学級に対する環境への適応を引き上げたことを示す。その一方で,地位格差は学級内の関係性であるため,学級外への適応に対して効果を持たなかったと考えられる。この結果は先行研究(鈴木,2012)の言説を支持するものであると同時に,SDOという社会的に望ましくないと考えられる特性が学校適応を高める要因となっていることを示唆する。つまり,本研究の結果は,高い自尊心には負の側面が存在(Baumeister et al.,1996)するのと同様に,「学校適応の負の側面」の存在を示唆し、学校適応研究もこれに目を向けなければいけないことを示す【オンライン付録:https://osf.io/gzewu/】。