日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PG(01-64)

ポスター発表 PG(01-64)

2016年10月10日(月) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PG50] 社会的場面における成功に基づく有能さの捉え方の研究

回顧法による中学校時代の検討

海沼亮1, 櫻井茂男2 (1.筑波大学大学院, 2.筑波大学)

キーワード:社会的達成目標, 達成目標理論, 有能さ

問題と目的
 社会的達成目標(Social achievement goals)とは,社会的場面における成功に基づく有能さの捉え方の違いによって社会的場面の動機づけに違いが生じる目標群のことである(Ryan & Shim, 2006)。先行研究では,その中の社会的熟達目標(social development goal)が個人の適応につながることを見出している。しかし,海外で得られた知見が本邦でも適用可能かどうかは疑問である。さらに先行研究では,関係性の質の低下や否定的な関係 性を回避する社会的熟達-回避目標(social development-avoid goal)の存在が示唆されているものの検討は不十分である。そこで本研究では,子どもの社会的達成目標の枠組みを明らかにするため,社会的場面における成功の捉え方の調査を行い,その内容の分析を目的とする。
方   法
 調査協力者 首都圏の国立大学1校の大学生82名(男性24名,女性57名,不明1名)。
 調査内容 「中学生において,友だち関係での『成功』とはどのようなことを思い浮かべますか?」と教示し自由記述を求めた。これは大学生を対象にした中学校時代を回顧する調査である。
 手続き 2016年4月下旬に,大学の授業の前後を使って集団で調査を実施した。
結果と考察
 心理学・教育学を専攻している大学院生3名がKJ法を援用した分類を行った。その結果,Table 1のように16の下位カテゴリに分類された。さらに下位カテゴリを「成功」の判断基準が個人内あるいは目標の到達にある『個人内/絶対的基準』と,他者を凌駕することにある『相対的基準』とに大きく分類した。『個人内/絶対的基準』には「一緒に遊ぶ人・過ごす人の存在」や「関係性維持」などが高頻度の下位カテゴリとして含まれた一方,「表面的な付き合い」や「上下関係の無さ」など関係性の失敗を避ける態度がうかがえる下位カテゴリも含まれた。『相対的基準』には「友だちの多さ」や「上位グループへの所属」などの下位カテゴリが含まれた。
 以上より,中学校時代の友人関係における成功は複数の判断基準から捉えられ,その内容も多様であることが明らかにされた。また,成功を『個人内/絶対的基準』で判断し,失敗への回避がうかがえる記述がみられたことから,理論的検討に留まっていた社会的熟達―回避目標の存在も示唆された。しかし,本研究は自由記述に基づく検討であり,今後は尺度作成を行い,社会的達成目標の構造と他の変数との関連について実証的に検討する必要がある。