[PG65] ASEBAとTSCC-Aによる二次障がいのある発達障がい児の実態把握
特別支援学校に通う自宅生と施設生との比較考察
キーワード:実態把握, 二次障がい, 発達障がい児
目 的
特別支援学校に通う二次障がいのある発達障がい児を対象にASEBA(気になる子どもの行動チェックリスト)とTSCC-A(子ども用トラウマ症状チェックリストのA型)の2つの質問調査を実施し,自宅通学生と施設通学生の心の内面の実態を比較考察することを目的とした。
方 法
1.対象児童生徒・調査期間・調査方法
A県B特別支援学校の9歳~18歳までの会話でのコミュニケーションが可能な自宅通学生(以下,自宅生)10名,施設通学生(以下,施設生)9名の計19名を対象とした。ここでいう施設とは,発達障がい児が生活する児童福祉施設を示す。201X年6月に各々の児童生徒の担任が,ASEBAにおける教師用シート(以下,TRF)の記入を実施し,ホームルームの時間に各々の児童生徒が,TSCC-Aの記入を実施した。
2.分析・考察の視点
2つの質問調査結果より,通学生と施設生の心の内面の特徴的な実態を取り上げ,担任の所見も鑑み,考察を加えた。
結果と考察
TRFのいずれかの項目において,全ての児童生徒が臨床域または境界域(準臨床域)の得点結果であった。また,自宅生は外向尺度よりも内向尺度の方が高い傾向が示唆された。一方で,施設生9人中8人の児童生徒が内向尺度と外向尺度の両方で臨床域の得点結果であった。このことから,施設生の多くは,生きづらさの中で「ひきこもる自分」と「攻撃する自分」の両方の要因と向き合いながら日々の生活を送っていることが推測される。Figure 1の結果から施設生の方が,自宅生よりも不安・抑うつや攻撃性など外向性の尺度が強く現れた人数が多かった。また,Figure 2の結果から不安や抑うつ,怒りをかかえている児童生徒が施設生に多かった。一方で,19人の中には過少反応や過剰反応,解離の傾向の強い児童生徒は少なかった。
TSCC-Aにおいて,怒りの尺度が高い結果が示された児童生徒4人は,TRFの攻撃性の尺度でも高い得点結果を示した。これは,Nelson-Gardell(1992)の先行研究と同じ結果であり,児童生徒の生育歴や担任の所見から鑑みると,愛着形成に大きな要因があるのではないかと推測される。
興味深い結果として,教員が記入したTRFのほとんどの項目が臨床域であったのに対して,児童生徒自身が記入したTSCC-Aでは全ての項目が正常域という真逆の結果が数人に見られた。このような結果の背景のひとつには,児童生徒自身のメタ認知の弱さや自己客観視することへの課題があるのではないかと考えられる。一方で,TRFの結果がほぼ全て正常域であったのに対して,TSCC-Aでは,臨床域や境界域の項目が多かった結果(16歳男子生徒)も見られた。この場合,要因は二つ考えられる。一つは,記入者(教員か児童生徒)が実態にそぐわない回答をしたことである。もう一つは,TRFでははっきりとわからなかった内面の実態がTSCC-Aで明らかになったことである。担任によると,複数教員で日頃の生徒の様子を何度も話し合いながらTRFを記入したことが報告された。つまり,教員の回答はかなり生徒の実態に即したものではないかと推測される。また,生徒の回答も全て実態にそぐわないとはいいきれない。結論としてTRFだけではなく,TSCC-Aの結果を得たからこそ,より生徒の内面の実態が示唆されたのではないかと考えられる。
2つの質問調査結果から,自宅生よりも施設生の方が生きづらさやトラウマをかかえている傾向が強いことが示唆された。また,教員が今まで気がつかなかった児童生徒の内面の実態がわかり,今後の指導の手がかりになると考えられる。
今後の課題
ASEBAにおけるCBCL(保護者用)やYSR(子ども用)の調査も実施し,それらの結果をTRFと比較考察しながら総合的に児童生徒の発達支援を模索していきたい。また,今回の実態を踏まえた継続的な支援を展開し,定期的にASEBAとTSCC-Aの2つの質問調査を行い,児童生徒の実態を捉え直すとともに,より効果的な支援につなげていきたい。
特別支援学校に通う二次障がいのある発達障がい児を対象にASEBA(気になる子どもの行動チェックリスト)とTSCC-A(子ども用トラウマ症状チェックリストのA型)の2つの質問調査を実施し,自宅通学生と施設通学生の心の内面の実態を比較考察することを目的とした。
方 法
1.対象児童生徒・調査期間・調査方法
A県B特別支援学校の9歳~18歳までの会話でのコミュニケーションが可能な自宅通学生(以下,自宅生)10名,施設通学生(以下,施設生)9名の計19名を対象とした。ここでいう施設とは,発達障がい児が生活する児童福祉施設を示す。201X年6月に各々の児童生徒の担任が,ASEBAにおける教師用シート(以下,TRF)の記入を実施し,ホームルームの時間に各々の児童生徒が,TSCC-Aの記入を実施した。
2.分析・考察の視点
2つの質問調査結果より,通学生と施設生の心の内面の特徴的な実態を取り上げ,担任の所見も鑑み,考察を加えた。
結果と考察
TRFのいずれかの項目において,全ての児童生徒が臨床域または境界域(準臨床域)の得点結果であった。また,自宅生は外向尺度よりも内向尺度の方が高い傾向が示唆された。一方で,施設生9人中8人の児童生徒が内向尺度と外向尺度の両方で臨床域の得点結果であった。このことから,施設生の多くは,生きづらさの中で「ひきこもる自分」と「攻撃する自分」の両方の要因と向き合いながら日々の生活を送っていることが推測される。Figure 1の結果から施設生の方が,自宅生よりも不安・抑うつや攻撃性など外向性の尺度が強く現れた人数が多かった。また,Figure 2の結果から不安や抑うつ,怒りをかかえている児童生徒が施設生に多かった。一方で,19人の中には過少反応や過剰反応,解離の傾向の強い児童生徒は少なかった。
TSCC-Aにおいて,怒りの尺度が高い結果が示された児童生徒4人は,TRFの攻撃性の尺度でも高い得点結果を示した。これは,Nelson-Gardell(1992)の先行研究と同じ結果であり,児童生徒の生育歴や担任の所見から鑑みると,愛着形成に大きな要因があるのではないかと推測される。
興味深い結果として,教員が記入したTRFのほとんどの項目が臨床域であったのに対して,児童生徒自身が記入したTSCC-Aでは全ての項目が正常域という真逆の結果が数人に見られた。このような結果の背景のひとつには,児童生徒自身のメタ認知の弱さや自己客観視することへの課題があるのではないかと考えられる。一方で,TRFの結果がほぼ全て正常域であったのに対して,TSCC-Aでは,臨床域や境界域の項目が多かった結果(16歳男子生徒)も見られた。この場合,要因は二つ考えられる。一つは,記入者(教員か児童生徒)が実態にそぐわない回答をしたことである。もう一つは,TRFでははっきりとわからなかった内面の実態がTSCC-Aで明らかになったことである。担任によると,複数教員で日頃の生徒の様子を何度も話し合いながらTRFを記入したことが報告された。つまり,教員の回答はかなり生徒の実態に即したものではないかと推測される。また,生徒の回答も全て実態にそぐわないとはいいきれない。結論としてTRFだけではなく,TSCC-Aの結果を得たからこそ,より生徒の内面の実態が示唆されたのではないかと考えられる。
2つの質問調査結果から,自宅生よりも施設生の方が生きづらさやトラウマをかかえている傾向が強いことが示唆された。また,教員が今まで気がつかなかった児童生徒の内面の実態がわかり,今後の指導の手がかりになると考えられる。
今後の課題
ASEBAにおけるCBCL(保護者用)やYSR(子ども用)の調査も実施し,それらの結果をTRFと比較考察しながら総合的に児童生徒の発達支援を模索していきたい。また,今回の実態を踏まえた継続的な支援を展開し,定期的にASEBAとTSCC-Aの2つの質問調査を行い,児童生徒の実態を捉え直すとともに,より効果的な支援につなげていきたい。