[PG80] 中学生の睡眠習慣・眠気と学業成績
子どもの日中眠気尺度日本語版を用いて
Keywords:眠気, 学業成績, social jetlag
はじめに
生活の夜型化と睡眠時間の短縮は,大人だけでなく子どもでも認められ,国際的に強く問題視されている(Mindel 2010)。平日は学校の始業時刻に合わせて起床するため睡眠不足となりがちで,平日の睡眠不足を補うために週末の朝に寝坊をすることで,生体リズムが後ろにずれてしまう。体内時計と社会的な時計の不一致をsocial jetlag(社会的時差ボケ)と呼び(Wittmann 2006),心身の健康に影響を及ぼす可能性が高いことが近年明らかになってきた(Roenneberg 2012)。わが国の子どもたちの概日リズム変調の実態や日中機能への影響は明らかにされていない。そこで本研究では,中学生の睡眠習慣とくに概日リズム変調の実態,social jetlagと眠気,学業成績との関係を明らかにすることを目的として横断調査を実施した。
方 法
東京医科大学医学研究倫理委員会の承認を得た。東京都内公立中学校全生徒459人のうち同意の得られた386人を研究対象とした(83.2%)。基礎情報(年齢,性別,身長,体重),生活習慣に関する調査(睡眠,自宅・塾での学習時間,スマホやゲーム機,テレビなどのディスプレイ使用時間)ならびに子どもの日中眠気尺度日本語版(Pediatric daytime sleepiness scale: PDSS, Drake 2003; Komada 投稿中)で構成した調査票を配布し,自宅で記入させた。就床時刻と起床時刻の中央値を算出し,平日と休日の中央値の差分をsocial jetlag(SJL)とした。学力については,区で実施した平成27年度学力調査の各教科の得点から総合偏差値を算出した。
結 果
(1) 睡眠習慣
表1に学年ごとの睡眠習慣とPDSS得点を示した。学年があがるにつれ朝型夜型傾向を示す休日睡眠中央値は遅延し,平日睡眠時間は減少した。PDSS得点は学年があがるにつれ(χ2(2)=3.5,p=0.03),女子は男子に比べて(χ2(1)=5.0, p=0.03),高値を示した。平日と休日の睡眠中央値が2時間以上ずれている生徒は,男子27人(13.9%),女子21人(11.2%),全体で48人(12.6%)であった。
(2) Social jetlag(SJl)と眠気・学力との関係
PDSS得点と有意な相関を示した変数は,平日睡眠時間(r=-0.25,p<0.01),休日睡眠中央値(r=0.47,p<0.01),SJL(r=0.27,p<0.01)であった。またこれらを調整した上でも,SJL1時間以上の群は有意にPDSS得点が高かった(F(1,365)=5.11,p=0.02,偏η2=0.01)。
偏差値と有意な相関を示した変数は,学習時間(r=0.20,p<0.01),ディスプレイ使用時間(r=-0.31,p<0.01),SJL(r=-0.13,p=0.01)であった。学習時間,ディスプレイ使用時間を共変量とする一要因分散分析の結果,SJLが1時間以上の群では1時間未満の群に比べて有意に偏差値が低かった(F(1,364)=5.39,p=0.02,偏η2=0.02)。
考 察
平日と休日の睡眠中央値が2時間以上ずれている生徒は13%であり,10人に1人以上が概日リズム変調・疾患につながる危険性があると推定された。
性別(女子),学年が高いこと,平日の睡眠不足,夜型傾向,SJLが日中の眠気に関連した。上記変数を調整した上でも,SJLが1時間以上の生徒は1時間未満の生徒に比べて,有意に眠気が強かった。また,学習時間が短いこと,ディスプレイ使用時間が長いこと,SJLが大きいことが成績不振に関連していた。学習時間とディスプレイ使用時間を調整後も,SJL1時間以上の生徒は有意に成績が悪かった。睡眠教育を取り入れて,平日と休日の睡眠時間帯を変えないよう指導することによって,中学生の日中眠気が低減し,成績が改善する可能性がある。
生活の夜型化と睡眠時間の短縮は,大人だけでなく子どもでも認められ,国際的に強く問題視されている(Mindel 2010)。平日は学校の始業時刻に合わせて起床するため睡眠不足となりがちで,平日の睡眠不足を補うために週末の朝に寝坊をすることで,生体リズムが後ろにずれてしまう。体内時計と社会的な時計の不一致をsocial jetlag(社会的時差ボケ)と呼び(Wittmann 2006),心身の健康に影響を及ぼす可能性が高いことが近年明らかになってきた(Roenneberg 2012)。わが国の子どもたちの概日リズム変調の実態や日中機能への影響は明らかにされていない。そこで本研究では,中学生の睡眠習慣とくに概日リズム変調の実態,social jetlagと眠気,学業成績との関係を明らかにすることを目的として横断調査を実施した。
方 法
東京医科大学医学研究倫理委員会の承認を得た。東京都内公立中学校全生徒459人のうち同意の得られた386人を研究対象とした(83.2%)。基礎情報(年齢,性別,身長,体重),生活習慣に関する調査(睡眠,自宅・塾での学習時間,スマホやゲーム機,テレビなどのディスプレイ使用時間)ならびに子どもの日中眠気尺度日本語版(Pediatric daytime sleepiness scale: PDSS, Drake 2003; Komada 投稿中)で構成した調査票を配布し,自宅で記入させた。就床時刻と起床時刻の中央値を算出し,平日と休日の中央値の差分をsocial jetlag(SJL)とした。学力については,区で実施した平成27年度学力調査の各教科の得点から総合偏差値を算出した。
結 果
(1) 睡眠習慣
表1に学年ごとの睡眠習慣とPDSS得点を示した。学年があがるにつれ朝型夜型傾向を示す休日睡眠中央値は遅延し,平日睡眠時間は減少した。PDSS得点は学年があがるにつれ(χ2(2)=3.5,p=0.03),女子は男子に比べて(χ2(1)=5.0, p=0.03),高値を示した。平日と休日の睡眠中央値が2時間以上ずれている生徒は,男子27人(13.9%),女子21人(11.2%),全体で48人(12.6%)であった。
(2) Social jetlag(SJl)と眠気・学力との関係
PDSS得点と有意な相関を示した変数は,平日睡眠時間(r=-0.25,p<0.01),休日睡眠中央値(r=0.47,p<0.01),SJL(r=0.27,p<0.01)であった。またこれらを調整した上でも,SJL1時間以上の群は有意にPDSS得点が高かった(F(1,365)=5.11,p=0.02,偏η2=0.01)。
偏差値と有意な相関を示した変数は,学習時間(r=0.20,p<0.01),ディスプレイ使用時間(r=-0.31,p<0.01),SJL(r=-0.13,p=0.01)であった。学習時間,ディスプレイ使用時間を共変量とする一要因分散分析の結果,SJLが1時間以上の群では1時間未満の群に比べて有意に偏差値が低かった(F(1,364)=5.39,p=0.02,偏η2=0.02)。
考 察
平日と休日の睡眠中央値が2時間以上ずれている生徒は13%であり,10人に1人以上が概日リズム変調・疾患につながる危険性があると推定された。
性別(女子),学年が高いこと,平日の睡眠不足,夜型傾向,SJLが日中の眠気に関連した。上記変数を調整した上でも,SJLが1時間以上の生徒は1時間未満の生徒に比べて,有意に眠気が強かった。また,学習時間が短いこと,ディスプレイ使用時間が長いこと,SJLが大きいことが成績不振に関連していた。学習時間とディスプレイ使用時間を調整後も,SJL1時間以上の生徒は有意に成績が悪かった。睡眠教育を取り入れて,平日と休日の睡眠時間帯を変えないよう指導することによって,中学生の日中眠気が低減し,成績が改善する可能性がある。