日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PG(65-89)

ポスター発表 PG(65-89)

2016年10月10日(月) 10:00 〜 12:00 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PG83] 仮想的有能感と不登校傾向の関係

名取幸平1, 佐柳信男2 (1.山梨英和大学, 2.山梨英和大学)

キーワード:仮想的有能感, 不登校傾向, 中学生

問題と目的
 日本の学校における不登校者数は増え続けており,2014年度の全国における総数は小学生で約26,000人(全体の0.39%),中学生で約97,000人(2.76%)であった(文部科学省,2015)。不登校の原因については諸説あるが,本研究では不登校傾向と仮想的有能感の関連を検討する。
 不登校と自尊感情の低さの関連は以前から指摘されている(有賀,2013)。速水・小平(2006)は自尊感情の軸に他者軽視の軸を加えることで典型的な仮想的有能感を持つ個人を抽出できるとしている。自尊感情が低く,他者軽視が高い場合が典型的な仮想的有能感を持つ仮想型であり,この他,全能型(自尊:高,軽視:高),自尊型(自尊:高,軽視:低),萎縮型(自尊:低,軽視:低)との有能感の4類型ができる。
 不登校においては,自己像を防衛するために学校から退却するタイプが見られるとされる(鈴木,2002)。自己の直接的なポジティブ経験に関係なく,他者の能力を批判的に評価,軽視する傾向に付随して仮想的な有能感を保持する仮想型は(速水他,2004),競争場面の多い学校においては,その感覚を保持しにくいためにこのような退却型の不登校に陥りやすいと考えられる。そこで本研究では,以下の仮説を検証する。①不登校傾向と自尊感情は負の関連を示す:②不登校傾向と他者軽視は正の関連を示す:③自尊感情と他者軽視の交互作用が有意となり,自尊感情が低く,他者軽視の高い仮想型において不登校傾向が最も高くなる。
方   法
 調査対象:A県B市立中学校1校に通う全学年の生徒を対象に質問紙調査を行い,欠損がなかった361名(男性176名,女性185名)の回答を分析に用いた。
 項目内容:フェイスシートにて学年・組・性別について尋ねた後,次の3つの尺度について評定を求めた。いずれも4件法で回答を求めた。①自尊感情尺度:Rosenberg自尊感情尺度の日本語版(Mimura & Griffiths,2007)(10項目);②他者軽視尺度:速水他(2004)の仮想的有能感尺度version 2(11項目);③不登校傾向尺度:五十嵐・萩原(2004)の不登校傾向尺度(13項目)。不登校傾向尺度は,「精神/身体症状を伴う不登校傾向」(4項目),「遊び/非行に関連する不登校傾向」(4項目),「別室登校を希望する不登校傾向」(3項目),「在宅を希望する不登校傾向」(2項目)の下位尺度からなる。
 質問紙は,ホームルーム等で担任によって調査対象者に配られ,その場で回答してもらい回収された。実施の際,調査は匿名であり,回答は任意であることが説明された。
結果と考察
 因子分析とクロンバックα係数の算出をおこない,その結果を考慮して自尊感情尺度の1項目と在宅を希望する不登校傾向を以降の分析から除外した。α値:自尊感情尺度.83,他者軽視尺度.88,精神/身体症状を伴う=.69,遊び/非行に関連する=.72,別室登校を希望する=.87,在宅を希望する=.20。
 分析対象者を,自尊感情と他者軽視の中央値で区切って4類型化し,不登校傾向を従属変数として2要因の分散分析を行ったところ(Table 1),自尊感情の主効果,他者軽視の主効果は,全下位尺度得点において仮説①②で予想された方向に有意であったことから,両仮説は支持された。また,自尊感情が低く,他者軽視が高い場合(=仮想型)に,最も得点が高くなることが明らかとなった。ただ,交互作用が有意だったのは「別室登校を希望する不登校傾向」のみだったことから,仮説③は部分的な支持にとどまった。仮想型の者は,学校には行く気持ちがあるが,教室場面を避けたい傾向が特に強く,その妥協点として別室登校を希望すると推測される。
結論および今後の課題
 本研究では,仮想的有能感と不登校傾向の関連を見出したことから,自己像防衛のための不登校について一定の実証的な裏付けをすることができた。しかし,不登校傾向の下位尺度において交互作用が認められなかったものもあり,仮想的有能感の特有の影響というよりは,自尊感情と他者軽視が個別に影響するといった部分もあるように見受けられる。本研究は1つの中学校でのサンプルに限定されているため,今後も仮想的有能感と不登校傾向の関連について資料を集めて検討を続けるべきだろう。