[PH03] コーピングがアイデンティティー形成に与える影響
アドラーの共同体感覚を媒介として
Keywords:アイデンティティー, アドラー, コーピング
問 題
私たちは日々誰かと関わり合いながら生きている。対人関係において,ストレスフルな状況に直面することはよくあるが,その状況を適切に処理するだけではなく,それを通じて自己を確立するためにはどうすればよいだろうか。Adler(1931)は共同体感覚と呼ばれる概念を提唱した。それは,他者に対する興味・関心であり,社会に貢献している感覚でもある。共同体感覚とストレスを処理するコーピングは正の関係にあることが明らかとなっているが,対人関係のストレスを処理するコーピングでは,どの種類のコーピングが共同体感覚の上昇につながるか明らかにされていない。また,アイデンティティーの確立は青年期の課題であり,これには他者との交流が重要となってくるが,共同体感覚が高い場合と低い場合においてアイデンティティーに与える影響の差異について比較した研究はない。以上の先行研究を踏まえ,本研究では第一に対人関係のストレスに関わるコーピングが共同体感覚に与える影響について,そして第二にそれがアイデンティティーの発達にどのような影響を与えるかについて,共同体感覚を高い場合と低い場合のそれぞれに分けて検討する。
方 法
調査時期:2015年9月
調査対象者:大学生・大学院生計121名(M=21.18,SD=1.56)であった。
尺度:アドラーの理論を尺度化した共同体尺度(高坂,2011),ネガティブライフイベント尺度(高比良,1989),コーピング尺度(高本・相川,2012),アイデンティティー尺度(山田・岡本,2008)を用いた。結果を基に因子分析を行った。コーピング尺度とアイデンティティー尺度においては,アドラーの人間の全ての悩みは対人関係に行き着くという発言(向後,2012)に注目し,各尺度から対人関係に焦点を当てた因子を抽出し分析に用いた。
結 果
コーピングは,他人と積極的に関係を持とうとする接近行動,他人と距離を置こうとする回避行動,そして自己の解釈を深めようとする情動焦点の3つの因子へと分類された。またアイデンティティーは,自分に深く向き合う自己アイデンティティーと他人との関係性を通じて自己に向き合う社会的アイデンティティーに分類された。上記のコーピングと共同体感覚で重回帰分析を行ったところ,接近行動と情動焦点が共同体感覚に対して有意な正の係数を示した。さらにGP分析を行い,共同体感覚を高群・低群に分けた後に共分散構造分析を実施し高群・低群について多母集団同時分析を行った。その結果,高群では回避行動が自己アイデンティティーに負の有意傾向を,接近行動と回避行動が社会的アイデンティティーと正の有意関係にある事が明らかになった。一方で低群においては自己アイデンティティーに対して回避行動が正の有意傾向だった。
考 察
重回帰分析の結果では接近行動と情動焦点が共同体感覚を高めていることがわかった。共分散構造分析からは,高群において接近行動が関係性アイデンティティーを高めており,回避行動は自己アイデンティーを低めている一方で,関係性アイデンティティーを高めていることが,低群では回避行動が自己アイデンティーを高めていることが明らかとなった。共同体感覚が高い人は他人をうまく頼ることや,適切な距離を築けているため,アイデンティティーの確立を上手く促進させている。Adler(1930)は自分に対して自信を持つことが最も大切であり,他人への関心を含む社会的関心を高めることで共同体感覚を向上させられると述べた。それに基づいて述べるならば,共同体感覚が低い人は他人と関わりを持ちつつ,アイデンティティーを高めようとすることが望まれるだろう。
私たちは日々誰かと関わり合いながら生きている。対人関係において,ストレスフルな状況に直面することはよくあるが,その状況を適切に処理するだけではなく,それを通じて自己を確立するためにはどうすればよいだろうか。Adler(1931)は共同体感覚と呼ばれる概念を提唱した。それは,他者に対する興味・関心であり,社会に貢献している感覚でもある。共同体感覚とストレスを処理するコーピングは正の関係にあることが明らかとなっているが,対人関係のストレスを処理するコーピングでは,どの種類のコーピングが共同体感覚の上昇につながるか明らかにされていない。また,アイデンティティーの確立は青年期の課題であり,これには他者との交流が重要となってくるが,共同体感覚が高い場合と低い場合においてアイデンティティーに与える影響の差異について比較した研究はない。以上の先行研究を踏まえ,本研究では第一に対人関係のストレスに関わるコーピングが共同体感覚に与える影響について,そして第二にそれがアイデンティティーの発達にどのような影響を与えるかについて,共同体感覚を高い場合と低い場合のそれぞれに分けて検討する。
方 法
調査時期:2015年9月
調査対象者:大学生・大学院生計121名(M=21.18,SD=1.56)であった。
尺度:アドラーの理論を尺度化した共同体尺度(高坂,2011),ネガティブライフイベント尺度(高比良,1989),コーピング尺度(高本・相川,2012),アイデンティティー尺度(山田・岡本,2008)を用いた。結果を基に因子分析を行った。コーピング尺度とアイデンティティー尺度においては,アドラーの人間の全ての悩みは対人関係に行き着くという発言(向後,2012)に注目し,各尺度から対人関係に焦点を当てた因子を抽出し分析に用いた。
結 果
コーピングは,他人と積極的に関係を持とうとする接近行動,他人と距離を置こうとする回避行動,そして自己の解釈を深めようとする情動焦点の3つの因子へと分類された。またアイデンティティーは,自分に深く向き合う自己アイデンティティーと他人との関係性を通じて自己に向き合う社会的アイデンティティーに分類された。上記のコーピングと共同体感覚で重回帰分析を行ったところ,接近行動と情動焦点が共同体感覚に対して有意な正の係数を示した。さらにGP分析を行い,共同体感覚を高群・低群に分けた後に共分散構造分析を実施し高群・低群について多母集団同時分析を行った。その結果,高群では回避行動が自己アイデンティティーに負の有意傾向を,接近行動と回避行動が社会的アイデンティティーと正の有意関係にある事が明らかになった。一方で低群においては自己アイデンティティーに対して回避行動が正の有意傾向だった。
考 察
重回帰分析の結果では接近行動と情動焦点が共同体感覚を高めていることがわかった。共分散構造分析からは,高群において接近行動が関係性アイデンティティーを高めており,回避行動は自己アイデンティーを低めている一方で,関係性アイデンティティーを高めていることが,低群では回避行動が自己アイデンティーを高めていることが明らかとなった。共同体感覚が高い人は他人をうまく頼ることや,適切な距離を築けているため,アイデンティティーの確立を上手く促進させている。Adler(1930)は自分に対して自信を持つことが最も大切であり,他人への関心を含む社会的関心を高めることで共同体感覚を向上させられると述べた。それに基づいて述べるならば,共同体感覚が低い人は他人と関わりを持ちつつ,アイデンティティーを高めようとすることが望まれるだろう。