[PH18] 都道府県の形をイラスト化してもその名称は覚えられない
キーワード:精緻化, 県名, 再生
目 的
私たちは,一般的に,小学校において都道府県(以下,県)の形や県名を白地図を用いて学習する。その学習方法の一例として,図1のように県の形をイラスト化して提示しているものがある(e.g., 松原, 2004)。このような学習教材は,イラストを用いた精緻化により,県名の記憶を促進しようと試みていると考えられる。確かに,文章理解においてイラスト(挿絵)が精緻化を促進すること (e.g., 島田・北島, 2008)からも,私たちが「イラストを用いれば記憶がよくなる」と考えるのも無理はないだろう。
しかし,反対に,多くの心理学研究は,県の形のイラスト化が県名の記憶の促進に有効ではないという仮説を導き出す。まず,一貫性効果(e.g., Mayer, 2001)の観点から,文章の内容と関係が少ないイラストは文章理解に有効ではない。実際に,これらの学習教材で用いられているイラストは,県の形に似せたものであっても,県名を連想させるような,関連性の高いものではない。また,中学入試などの県名の検索時には,符号化時に用いたイラストが提示されないために,符号化特定性原理 (e.g., Thomson & Tulving, 1970)からも,その効果が疑問視される。さらに,高橋(1987)は,対連合学習において,手がかり項目(県の形)に精緻化を行っても,ターゲット(県名)の記憶成績にはあまり有効ではないとしている。このように,学習教材と心理学研究では,県の形のイラスト化の効果への予測が異なる。そこで,本研究は,県の形のイラスト化が県名の記憶に及ぼす効果について検討した。
方 法
被験者 分析対象者となったのは,大学生58名(男性14名,女性44名)であり,平均年齢19.8歳(SD=1.20)であった。ここには,実験者の指示に従わなかった被験者,もしくは,本実験で正答数が16県以上の被験者は含まれない。
材料 向居(2016)と同じ手続きにより,23県の記憶材料を選出され,統制群の黒地図が作成された。また,あきやま(2014)などを参考に、記憶材料となった県のイラスト化を実施した(図1)。
手続き 向居(2016)と同じ手続きで実験を実施した。事前再生課題(黒地図)において回答できなかった県を未知項目として分析対象とした。被験者はそれぞれの条件(統制群・イラスト群)で約10分の学習課題を行った。1県ごとの学習時間は20秒であった。その後,事前再生課題と全く同じ,直後再生課題を行った。そして,長期的な学習効果を検討するために1週間後に遅延再生課題を行った。
結果と考察
イラスト化の効果を検討するために,未知項目の正再生率(表1)について,記銘方略(統制・イラスト:被験者間要因)と時間(直後・遅延:被験者内要因)の分散分析を行った。その結果,記銘方略の主効果(F(1,56)=7.67, p<.01),および,時間の主効果(F(1,56)=0.96, p<.01)に有意差が見られた。交互作用は認められなかった。つまり,再生時期にかかわらず,統制群の方が,イラスト群よりも再生成績が優れており,黒地図で学習する方が,イラストで学習するよりも効果的であることが明らかになった。
このように,県名の学習場面では,一貫性効果や符号化特定性原理,また,対連合学習における手がかり項目の符号化に関する研究などから導き出される仮説に一致した結果が得られた。
もし,本課題において県名の記憶を高めたいのならば,例えば,県の形と県名の項目間処理を促進させるような工夫 (e.g., 県名の音韻と関連するイラストの使用)が必要になるだろう(高橋, 1987; 向居, 2016も併せて参照)。
主要引用文献
向居 暁(2016). 都道府県の形を描いてもその名称は覚えられない 認知心第14回大会
謝 辞
本研究は,著者の指導により行われた藤本夏月希さんの卒業論文(2015年度・高松大学発達科学部)のデータをもとに,加筆・修正したものである。ここに記して感謝の意を表したい。
私たちは,一般的に,小学校において都道府県(以下,県)の形や県名を白地図を用いて学習する。その学習方法の一例として,図1のように県の形をイラスト化して提示しているものがある(e.g., 松原, 2004)。このような学習教材は,イラストを用いた精緻化により,県名の記憶を促進しようと試みていると考えられる。確かに,文章理解においてイラスト(挿絵)が精緻化を促進すること (e.g., 島田・北島, 2008)からも,私たちが「イラストを用いれば記憶がよくなる」と考えるのも無理はないだろう。
しかし,反対に,多くの心理学研究は,県の形のイラスト化が県名の記憶の促進に有効ではないという仮説を導き出す。まず,一貫性効果(e.g., Mayer, 2001)の観点から,文章の内容と関係が少ないイラストは文章理解に有効ではない。実際に,これらの学習教材で用いられているイラストは,県の形に似せたものであっても,県名を連想させるような,関連性の高いものではない。また,中学入試などの県名の検索時には,符号化時に用いたイラストが提示されないために,符号化特定性原理 (e.g., Thomson & Tulving, 1970)からも,その効果が疑問視される。さらに,高橋(1987)は,対連合学習において,手がかり項目(県の形)に精緻化を行っても,ターゲット(県名)の記憶成績にはあまり有効ではないとしている。このように,学習教材と心理学研究では,県の形のイラスト化の効果への予測が異なる。そこで,本研究は,県の形のイラスト化が県名の記憶に及ぼす効果について検討した。
方 法
被験者 分析対象者となったのは,大学生58名(男性14名,女性44名)であり,平均年齢19.8歳(SD=1.20)であった。ここには,実験者の指示に従わなかった被験者,もしくは,本実験で正答数が16県以上の被験者は含まれない。
材料 向居(2016)と同じ手続きにより,23県の記憶材料を選出され,統制群の黒地図が作成された。また,あきやま(2014)などを参考に、記憶材料となった県のイラスト化を実施した(図1)。
手続き 向居(2016)と同じ手続きで実験を実施した。事前再生課題(黒地図)において回答できなかった県を未知項目として分析対象とした。被験者はそれぞれの条件(統制群・イラスト群)で約10分の学習課題を行った。1県ごとの学習時間は20秒であった。その後,事前再生課題と全く同じ,直後再生課題を行った。そして,長期的な学習効果を検討するために1週間後に遅延再生課題を行った。
結果と考察
イラスト化の効果を検討するために,未知項目の正再生率(表1)について,記銘方略(統制・イラスト:被験者間要因)と時間(直後・遅延:被験者内要因)の分散分析を行った。その結果,記銘方略の主効果(F(1,56)=7.67, p<.01),および,時間の主効果(F(1,56)=0.96, p<.01)に有意差が見られた。交互作用は認められなかった。つまり,再生時期にかかわらず,統制群の方が,イラスト群よりも再生成績が優れており,黒地図で学習する方が,イラストで学習するよりも効果的であることが明らかになった。
このように,県名の学習場面では,一貫性効果や符号化特定性原理,また,対連合学習における手がかり項目の符号化に関する研究などから導き出される仮説に一致した結果が得られた。
もし,本課題において県名の記憶を高めたいのならば,例えば,県の形と県名の項目間処理を促進させるような工夫 (e.g., 県名の音韻と関連するイラストの使用)が必要になるだろう(高橋, 1987; 向居, 2016も併せて参照)。
主要引用文献
向居 暁(2016). 都道府県の形を描いてもその名称は覚えられない 認知心第14回大会
謝 辞
本研究は,著者の指導により行われた藤本夏月希さんの卒業論文(2015年度・高松大学発達科学部)のデータをもとに,加筆・修正したものである。ここに記して感謝の意を表したい。