日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-64)

ポスター発表 PH(01-64)

2016年10月10日(月) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PH25] 授業において「消極的」とされる児童の授業参加スタイルの検討

課題構造との関係に着目して

鈴木隆夫1, 司城紀代美2 (1.宇都宮大学大学院, 2.宇都宮大学)

キーワード:授業参加, 課題構造

問題と目的
 学校現場では,授業中の発言が少なかったり課題へ取り組む様子が見られなかったりする児童は「消極的」であり,主体的に学習に参加していないととらえられることが多い。鯨岡(2006)は,子どもが「主体的である」というとらえ方は,その様子を見る大人側の暗黙の評価的な枠組みと深く繋がっていると述べている。本研究では,授業中の言動が少なく「消極的」ととらえられる児童の言動を詳細に分析することで,その児童なりの授業への参加スタイルを明らかにし,児童の授業参加をとらえる教師の視点を広げることを目的とする。その際,課題構造との関係に着目する。
方   法
〈手続き〉関東地方にある公立小学校の4年生のクラスにおいて,201X年9月から201X+1年1月まで,週2日程度算数を中心に参与観察を行った。記録はフィールドノーツによる。〈対象児〉女子児童A。課題解決に取り組み始めるまでに時間がかかり,授業中の発言も少ないことから,担任から「消極的」ととらえられている児童である。〈分析方法〉算数の授業中に自力または複数で課題解決に取り組む18の場面を取り上げ,対象児の言動に着目してエピソードの書き起こしを行った。各エピソードは課題構造の違いによって,(1)計算問題など解答が1つに限られる場合:10エピソード,(2)式の変形や操作など数個の解答があると考えられる場合:3エピソード,(3)身近なものから正方形や長方形を見つけてその面積を調べるなど多様な解答が考えられる場合:5エピソードに分類し,それぞれの場合のAの課題解決の過程を分析した。
結果と考察
(1) 解答が1つに限られる場合
<エピソード1>割り算の問題2題が黒板に書かれたが,Aは何も書かずノートや窓の外に視線を向けている。(中略)挙手した児童と教師がやりとりをしながら黒板で解答を完成させたが,Aはまだノートに何も書こうとしない。2問目の答え合わせに移ったところで,Aは隣の児童のノートをのぞいて解答を写し始めた。
 答えが単一の場合には,Aは自分から解答に取り掛かろうとはせず,解答が出された後でそれを書き写すという形で授業へ参加していた。Aは1つの答えにたどり着くことが授業の中で求められていることだと理解し,それに応じる形で参加をしているととらえられる。Aは自力で解答ができるようになると,自分で課題に取り組みながら近くの席の児童の解答を気にする様子もみられた。
(2) 数個の解答がある場合
 解答が1つに限られる場合と類似したスタイルでの授業参加がみられた。
(3) 多様な解答が考えられる場合
<エピソード15>面積が4平方センチメートルに なる図形を方眼用紙に描く課題。Aは,自分で正方形や長方形の図を描いた後,「どんなの作った?」と隣の児童Fに問いかけ,「私こうした。」と自分の図を見せたりもしていた。また,「あれ,それ違くない?」とFの解答に疑問を呈したりもした。
 解答が多様な場合,他者に自分の答えへの同意を求めたり,他者の答えに対して同意や疑問を示したりしながら課題解決に向かう過程がみられた。A自身が課題に多様な解答があると理解していることから,1つの解答を写すだけでなく,他者とのやりとりが増え,解答が1つや数個の場合とは異なるスタイルとなるのではないかと考えられる。
総合考察
 解答が単一の場合,Aはその正しい1つの解答にたどり着こうとするため,自分で様々な解答を考えたり,他者とやりとりをしたりする場面があまりなく,「消極的」とみられるのではないかと推察される。一方で,多様な解答が考えられる課題の場合には積極的に課題に取り組んでいるようにとらえられ,Aは課題が求めるものに即した授業参加スタイルをとっているととらえられる。Aが教室の中で「消極的」に見えたのは,単一あるいは数個の解答を求める課題構造の場面が多く,多様な解答を求める課題の場面が少なかったためではないかと考えられる。教師は課題構造との関係で,その児童の授業参加をとらえる必要があるといえる。さらに,他教科での分析,教師のとらえ方との相互作用等の検討も必要と考えられる。