[PH28] 学習の省察が予見に及ぼす影響
循環的な自己調整学習プロセスモデルに着目して
キーワード:自己調整学習, 省察, 予見
問題と目的
近年の教育では,「自ら学ぶ力」を育成する必要性が指摘されている。このテーマについて,これまで教育心理学では自己調整学習の研究として,認知心理学の知見を取り入れた理論の提案や実証的研究が行われてきた。この自己調整学習の研究で提案された理論の一つに,循環的な自己調整学習プロセスモデル(Zimmerman, 2002)がある。このモデルでは学習プロセスの中に学習に取り組む前の段階である「予見」,実際に学習を行なっている段階である「遂行」,実際の学習を終えた後の段階である「省察」の3つの学習段階を想定している。またモデルが循環的であるためには,省察段階と予見段階が繋がることによって,一連の学習サイクルが成立することが指摘されている(Zimmerman, 2011)。しかし,これまでの研究では学習サイクルの3段階の関連は十分に検討されていない。先行研究で作成された尺度には,Pintrich, Smith, Garcia & McKeachie(1993)のMotivated Strategies for Learning Questionnaire(MSLQ)や波多野・及川・半澤(2011)の自己調整学習方略尺度などがあるが,それらは自己調整学習を3段階の学習サイクルから捉える視点が含まれていない。そこで本研究では,大学入試の模試に向けた学習場面を取り上げ,学習サイクルが成立するための重要な要素となる省察と予見の繋がりに着目し,省察が予見に及ぼす影響についての検討を行うことを目的とする。
方 法
1.調査協力者
福岡県の大学生293名(男性77名,女性215名,不明1名,平均年齢19.05歳,SD=.63)。
2.調査内容
予備調査で福岡県の大学生41名を対象に自由記述により得られた予見438個,遂行311個,省察267個のデータに対してKJ法を用いて分類し作成した予見方略尺度(29項目),遂行方略尺度(29項目),省察方略尺度(30項目)を用いた。その際の教示では,高校時に模試に向けて行なっていた学習活動を想起させ,記載されている方略について当時の使用頻度を6件法で回答を求めた。
3.調査時期および手続き
2016年1月下旬,大学の講義中に一斉配布し,回答を求めた。
結果と考察
欠損値と無効回答を除外したサンプルを対象に,探索的因子分析(最尤法,Promax回転)を行った。因子負荷量の基準を.40とし,項目の選定を行った。予見方略では一日一日の計画を立てたり留意点を意識するなどの6項目からなる「具体的な計画設定(α=.89)」,前回の学習や受験を意識した目標や計画などの6項目からなる「過去・未来との連結(α=.88)」の2因子が得られた。省察方略では学習の目標や計画,そしてそれに沿った活動がどうであったかを振り返るなどの7項目からなる「学習活動の振り返り(α=.93)」,テスト結果の比較や間違えた問題のやり直しなどの6項目からなる「学習内容の振り返り(α=.81)」の2因子が得られた。そこで構造方程式モデリングによってモデル構成を行った(図1)。分析にはAmos ver.22を用いた。分析の結果,モデルの適合度は,GFI=.824,AGFI=.789,RMSEA=.079であり,許容できる範囲であった。省察のそれぞれの方略について見てみると,省察の「学習活動の振り返り」を行うほど予見の「具体的な計画設定」や「過去・未来との連結」の方略を用いることが示された。このことから,学習活動後に目標や使用した方略が適切であったかなどの振り返りを行うことは,学習活動前の目標・計画設定の改善と過去の学習や未来の目標への意識を高めることに繋がると考えられる。また省察の「学習内容の振り返り」を行うほど予見の「過去・未来との連結」の方略を用いることが示された。このことから,テスト結果を振り返り自分の学習内容の理解度を確認することは,今の学習内容が過去・未来と繋がっていることを意識化するが,目標・計画の学習活動の改善には繋がらないと考えられる。
【付記】JSPS科研費JP26750081の助成を受けたものです。
近年の教育では,「自ら学ぶ力」を育成する必要性が指摘されている。このテーマについて,これまで教育心理学では自己調整学習の研究として,認知心理学の知見を取り入れた理論の提案や実証的研究が行われてきた。この自己調整学習の研究で提案された理論の一つに,循環的な自己調整学習プロセスモデル(Zimmerman, 2002)がある。このモデルでは学習プロセスの中に学習に取り組む前の段階である「予見」,実際に学習を行なっている段階である「遂行」,実際の学習を終えた後の段階である「省察」の3つの学習段階を想定している。またモデルが循環的であるためには,省察段階と予見段階が繋がることによって,一連の学習サイクルが成立することが指摘されている(Zimmerman, 2011)。しかし,これまでの研究では学習サイクルの3段階の関連は十分に検討されていない。先行研究で作成された尺度には,Pintrich, Smith, Garcia & McKeachie(1993)のMotivated Strategies for Learning Questionnaire(MSLQ)や波多野・及川・半澤(2011)の自己調整学習方略尺度などがあるが,それらは自己調整学習を3段階の学習サイクルから捉える視点が含まれていない。そこで本研究では,大学入試の模試に向けた学習場面を取り上げ,学習サイクルが成立するための重要な要素となる省察と予見の繋がりに着目し,省察が予見に及ぼす影響についての検討を行うことを目的とする。
方 法
1.調査協力者
福岡県の大学生293名(男性77名,女性215名,不明1名,平均年齢19.05歳,SD=.63)。
2.調査内容
予備調査で福岡県の大学生41名を対象に自由記述により得られた予見438個,遂行311個,省察267個のデータに対してKJ法を用いて分類し作成した予見方略尺度(29項目),遂行方略尺度(29項目),省察方略尺度(30項目)を用いた。その際の教示では,高校時に模試に向けて行なっていた学習活動を想起させ,記載されている方略について当時の使用頻度を6件法で回答を求めた。
3.調査時期および手続き
2016年1月下旬,大学の講義中に一斉配布し,回答を求めた。
結果と考察
欠損値と無効回答を除外したサンプルを対象に,探索的因子分析(最尤法,Promax回転)を行った。因子負荷量の基準を.40とし,項目の選定を行った。予見方略では一日一日の計画を立てたり留意点を意識するなどの6項目からなる「具体的な計画設定(α=.89)」,前回の学習や受験を意識した目標や計画などの6項目からなる「過去・未来との連結(α=.88)」の2因子が得られた。省察方略では学習の目標や計画,そしてそれに沿った活動がどうであったかを振り返るなどの7項目からなる「学習活動の振り返り(α=.93)」,テスト結果の比較や間違えた問題のやり直しなどの6項目からなる「学習内容の振り返り(α=.81)」の2因子が得られた。そこで構造方程式モデリングによってモデル構成を行った(図1)。分析にはAmos ver.22を用いた。分析の結果,モデルの適合度は,GFI=.824,AGFI=.789,RMSEA=.079であり,許容できる範囲であった。省察のそれぞれの方略について見てみると,省察の「学習活動の振り返り」を行うほど予見の「具体的な計画設定」や「過去・未来との連結」の方略を用いることが示された。このことから,学習活動後に目標や使用した方略が適切であったかなどの振り返りを行うことは,学習活動前の目標・計画設定の改善と過去の学習や未来の目標への意識を高めることに繋がると考えられる。また省察の「学習内容の振り返り」を行うほど予見の「過去・未来との連結」の方略を用いることが示された。このことから,テスト結果を振り返り自分の学習内容の理解度を確認することは,今の学習内容が過去・未来と繋がっていることを意識化するが,目標・計画の学習活動の改善には繋がらないと考えられる。
【付記】JSPS科研費JP26750081の助成を受けたものです。