日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-64)

ポスター発表 PH(01-64)

2016年10月10日(月) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PH30] 他者への説明を予期することが学習過程に与える影響

山口真実1, 松尾剛2 (1.福岡教育大学大学院, 2.福岡教育大学)

キーワード:説明活動, 説明予期, モニタリング

問題と目的
 近年,自律的な学習者の育成は重要な教育目標の1つである。自律的な学習過程を具体的に説明する概念として自己調整学習(Schunk & Zimmer-man, 2008)があるが,実際の学習場面において,自己モニタリングとそれに伴う積極的な学習方略の選択を適切に行うことは容易ではない。効果的な協同学習の過程では,しばしば認知的分業体制がみられることが指摘されており,他者に対して自分の理解を説明する行為を通じて,説明者が自らの理解状況をモニターするという認知的な営みが促される可能性が示唆されている。また,その結果として,積極的な学習方略の選択と調整が促される可能性が考えられる。そこで本研究では,効果的な自己調整学習を促す学習方法としての説明活動に注目して検討する。
 説明活動を通じた学習のプロセスは,説明を予期しながら学習を行う説明予期の段階と,実際に説明を行う説明産出の段階に分類することができる(深谷,2011)。これらの2つの段階のうち,本研究では説明予期の段階に着目する。
 説明予期の学習効果を検討している先行研究においては,学習成績に対する直接的な効果を明確に示すような一貫した結果は得られていない。学習に関する従来の研究では,精緻化方略や体制化方略などのような深い処理を促す認知的方略の使用が学業成績を向上させることが指摘されてきた(堀野・市川,1997)。そこで,本研究では,説明を予期した学習を行うことでどのような認知的方略の使用が促進されるか,といった媒介変数を想定して,さらなる検討を行う。
方   法
実験参加者 記述統計に関する基本的な知識を有する大学生47名(男性11名,女性36名,平均年齢21歳,SD = 0.9)が参加し,後輩への説明を予期して学習を行う説明予期群と,説明を予期せずに学習を行う統制群にランダムに割り当てられた。
学習内容 「代表値」,「散布度」,「標準化」に関して,森・吉田(1990),山田・村井(2004)を参考にテキストを作成し,参加者は,それについてのレジュメを作成するという形式で学習を行った。
テスト 理解度を測定するため,南風原・平井・杉澤(2009)などを参考にテストを作成した。
資料作成における認知的方略使用尺度 学習中の認知的方略を測定するための尺度を,梅本(2012),宮野(2009)を参考に作成した(13項目,5件法)。
実験手続き 事前テスト7分,学習30分,事後テスト7分,質問紙調査3分とし,教示等も含めた全体の実施時間は約50分であった。なお,説明予期群には学習後に本実験の目的を説明し,実際には説明を行う必要はないという旨を伝えた。
結   果
 説明予期が認知的方略の使用に影響し,認知的方略の使用が事後テストの成績を予測するという媒介モデルを検討するために,パス解析を行った。分析に際して,説明予期の有無をダミー変数化し,認知的方略の測定に用いた13項目はそれぞれ独立したものとしてモデルに投入した。また,事前テストの影響についても検討を行なうため,事後テストに影響する変数として事前テストの成績も用いた。全ての変数を用いたパス解析を行い,標準偏回帰係数が有意であった部分のみを残して,再度分析を行った結果がFigure 1である。
考   察
 本研究では,深い処理を促す認知的方略であるはずの体制化方略の中でも学習成績を向上させるものと低下させるものが存在した。今後は,精緻化方略や体制化方略の中でも,具体的にどのようなものが有用であるかを詳しく検討し,より効果的な介入を探っていくことが求められる。