[PH37] Work avoidance目標尺度の作成と妥当性の検討
Keywords:Work avoidance, 達成目標理論
問題と目的
近年の動機づけ研究において中心となっている理論の1つに,達成目標理論がある。この理論は,達成状況において人が持っている目標に着目して理論化したもので,有能さを追求する方法や,有能さのあり方に関係するものとして目標を捉えている(村山,2003)。達成目標理論では,有能さの基準(個人内基準・相対基準)と接近・回避への注目の組み合わせによって,学習者の目標を熟達接近,熟達回避,遂行接近,遂行回避の4類型で捉えている。
この4つの達成目標の他に,「出来るだけ少ない努力を志向する」,「興味や自己価値の源が学校の課題とは別の場所に置かれる」,「有能さの向上,有能さを示すことに動機づけられない」といったWork avoidance目標(Nicholls, 1989;King et al., 2014;Berger et al., 2015;Lackner et al., 2015,以下WA)も概念化されており,熟達目標,深い処理方略,学業成績,パーソナリティ(開放性,調和性,誠実性)などと負の相関が,年齢,学校不安,浅い処理方略,固定的知能観などと正の相関が報告されている(Yamauchi et al., 1998; Dekker et al., 2013; Steinmayr et al., 2011; King et al., 2014)。
しかし,達成目標研究と比べてWA目標に関する研究は進んでおらず,定義の変遷が尺度に反映されていないという大きな問題がある(Berger et al., 2015; Lackner et al., 2015)。また,遂行目標との関係が研究間で一貫していないこと(Steinmayr et al., 2011では正,King et al., 2014では負)や,熟達回避目標との関連性がほとんど明らかにされていない問題がある。特に「困難な課題の回避」を示す項目は遂行回避目標に含まれる行動を測定していると考えられ,尺度のα係数の低さ(小方,2004)や遂行目標との関係が一貫していない原因となっていると考えられる。
そこで本研究では,WA目標の測定尺度を再構成し,妥当性を検討することを目的とする。
方 法
東京都の大学生266名(男性86名,女性179名,性別不明1名)を対象に質問紙調査を行った。質問紙の構成は以下の通りである。
1)達成目標 Elliot&Murayama(2008)による尺度を参考に,熟達接近,熟達回避,遂行接近,遂行回避の4目標について各4項目から成る尺度を作成し,5件法で尋ねた。
2)WA目標 先行研究で用いられた尺度を参考に,「授業に努力を費やしたくない」,「出来るだけ少ない努力で単位を取りたい」などの12項目からなる尺度を作成し,5件法で尋ねた。
3)学習方略 深い処理・浅い処理の各5項目について,尾形(2013)による尺度を参考に5件法で尋ねた。
4)誠実性 7項目5件法で構成されるBig Five短縮版尺度(並川ら,2012)を使用した。
結 果
WA目標尺度についてα係数を算出すると,α=.896と高い値が得られた。WA目標と他の指標間の相関係数は,熟達接近(-.534),熟達回避(-.310),遂行接近(-.179),遂行回避(-.214),深い処理(-.343),浅い処理(.137),誠実性(-.435),年齢(.172)となり,浅い処理方略のみ5%水準,他の指標は全て1%水準で有意であった。また,WA目標の得点平均を男女間で比較したところ,男性の得点が有意に高い結果が得られた(t(263)=4.074, p <.001)。
WA目標について,1因子構造を想定して確認的因子分析を行った結果,χ2=154.233;df=53;p <.001;GFI=.900;CFI=.924;RMSEA=.085;SRMR=.0554といった適合度指標の値が得られた。
考 察
相関係数およびt検定の結果は先行研究で確認されている結果と一致しており,α係数の値も満足のいく数値が得られたことから,作成したWA目標の測定尺度は一定の妥当性が得られたと考えられる。しかし,確認的因子分析で得られた適合度指標の値は充分な数値とは言えず,尺度の改良が必要であると言えよう。
近年の動機づけ研究において中心となっている理論の1つに,達成目標理論がある。この理論は,達成状況において人が持っている目標に着目して理論化したもので,有能さを追求する方法や,有能さのあり方に関係するものとして目標を捉えている(村山,2003)。達成目標理論では,有能さの基準(個人内基準・相対基準)と接近・回避への注目の組み合わせによって,学習者の目標を熟達接近,熟達回避,遂行接近,遂行回避の4類型で捉えている。
この4つの達成目標の他に,「出来るだけ少ない努力を志向する」,「興味や自己価値の源が学校の課題とは別の場所に置かれる」,「有能さの向上,有能さを示すことに動機づけられない」といったWork avoidance目標(Nicholls, 1989;King et al., 2014;Berger et al., 2015;Lackner et al., 2015,以下WA)も概念化されており,熟達目標,深い処理方略,学業成績,パーソナリティ(開放性,調和性,誠実性)などと負の相関が,年齢,学校不安,浅い処理方略,固定的知能観などと正の相関が報告されている(Yamauchi et al., 1998; Dekker et al., 2013; Steinmayr et al., 2011; King et al., 2014)。
しかし,達成目標研究と比べてWA目標に関する研究は進んでおらず,定義の変遷が尺度に反映されていないという大きな問題がある(Berger et al., 2015; Lackner et al., 2015)。また,遂行目標との関係が研究間で一貫していないこと(Steinmayr et al., 2011では正,King et al., 2014では負)や,熟達回避目標との関連性がほとんど明らかにされていない問題がある。特に「困難な課題の回避」を示す項目は遂行回避目標に含まれる行動を測定していると考えられ,尺度のα係数の低さ(小方,2004)や遂行目標との関係が一貫していない原因となっていると考えられる。
そこで本研究では,WA目標の測定尺度を再構成し,妥当性を検討することを目的とする。
方 法
東京都の大学生266名(男性86名,女性179名,性別不明1名)を対象に質問紙調査を行った。質問紙の構成は以下の通りである。
1)達成目標 Elliot&Murayama(2008)による尺度を参考に,熟達接近,熟達回避,遂行接近,遂行回避の4目標について各4項目から成る尺度を作成し,5件法で尋ねた。
2)WA目標 先行研究で用いられた尺度を参考に,「授業に努力を費やしたくない」,「出来るだけ少ない努力で単位を取りたい」などの12項目からなる尺度を作成し,5件法で尋ねた。
3)学習方略 深い処理・浅い処理の各5項目について,尾形(2013)による尺度を参考に5件法で尋ねた。
4)誠実性 7項目5件法で構成されるBig Five短縮版尺度(並川ら,2012)を使用した。
結 果
WA目標尺度についてα係数を算出すると,α=.896と高い値が得られた。WA目標と他の指標間の相関係数は,熟達接近(-.534),熟達回避(-.310),遂行接近(-.179),遂行回避(-.214),深い処理(-.343),浅い処理(.137),誠実性(-.435),年齢(.172)となり,浅い処理方略のみ5%水準,他の指標は全て1%水準で有意であった。また,WA目標の得点平均を男女間で比較したところ,男性の得点が有意に高い結果が得られた(t(263)=4.074, p <.001)。
WA目標について,1因子構造を想定して確認的因子分析を行った結果,χ2=154.233;df=53;p <.001;GFI=.900;CFI=.924;RMSEA=.085;SRMR=.0554といった適合度指標の値が得られた。
考 察
相関係数およびt検定の結果は先行研究で確認されている結果と一致しており,α係数の値も満足のいく数値が得られたことから,作成したWA目標の測定尺度は一定の妥当性が得られたと考えられる。しかし,確認的因子分析で得られた適合度指標の値は充分な数値とは言えず,尺度の改良が必要であると言えよう。