[PH42] 達成目標と検索誘導性忘却・促進
キーワード:達成目標, 検索誘導性忘却, 検索誘導性促進
問題と目的
達成目標は,習得目標(自分自身の有能さを伸ばす)と遂行目標(他者と比較して自分の有能さを示す)に大別され(Dweck, 1986),それぞれ符号化過程を導くと考えられる。特に,Murayama & Elliot(2011)では,習得目標はターゲットのみならず関連情報にまで注意を向ける関係性処理を促すことが示唆された。また,近年,達成目標が検索過程にまで影響を及ぼすことが示されている。
Ikeda et al.(2015)は達成目標と記憶検索の関係性について,特に記憶抑制(i.e., 検索誘導性忘却)の観点から検討している。検索誘導性忘却とは,ある情報を想起すると関連する情報を忘却する現象である(e.g., Anderson et al., 1994)。記憶検索時,ターゲットを想起する際,ターゲットとそれに関連した非ターゲット間で競合が生じる。ターゲットの想起ためには非ターゲットを抑制する必要があり,その結果,検索誘導性忘却が生じる(Anderson et al., 1994)。ただし,ターゲットと非ターゲットが統合されている場合,競合が生じず,検索誘導性忘却は消失する(Anderson, 2003)。習得目標が関連性処理を促すことを踏まえると(Murayama & Elliot, 2011),習得目標が与えられた場合,事例間の統合が生じ,検索誘導性忘却は解消されると考えられる。実際に,Ikeda et al.(2015)では,このような仮説と一致する結果が得られている。
さらに,事例間の統合(i.e., 関連性処理)は,検索されていない関連情報の長期的な保持にもポジティブな効果があることが示されている(検索誘導性促進;(Chen, 2009)。そのため,習得目標が与えられ場合にも,検索誘導性忘却が解消されるだけではなく,関連情報の長期的な保持にポジティブな影響を及ぼすことが予測される。そこで本研究では,この点について検討することを目的とした。
方 法
実験参加者 大学生80名が参加した。
材料 60のカテゴリー -事例ペア(e.g. 野菜 – シイタケ)を用いた。
手続き 参加者は,まず達成目標について教示を与えられ,その後記憶課題が実施された。学習段階では全てのカテゴリー -事例のペアが提示され,検索経験段階では特定のカテゴリーに属する一部の事例を想起させた。最後にテスト段階では,直後テストで半分の事例,1日後の遅延テストでは残りの半分の事例について語幹再生テストを実施した。なお,検索経験を行ったカテゴリーで実際に検索経験を行った事例は Rp+,検索経験を行っていない事例は Rp-,検索経験を行っていないカテゴリーに含まれる事例はNrpとした。
結果と考察
まず,直後テストの結果に関して,本実験の結果とIkeda et al.(2015)の結果をメタ分析により統合した。メタ分析には忘却量(Nrp と Rp-の再生率の差分)を用い,正の値は検索誘導性忘却が生じていたことを示す。その結果,習得目標群では忘却量は0と有意な差はなかったが(M = -.003, 95% CI [-.04, .03], p = .85),遂行目標群では0よりも有意に大きかった(M = .05, 95% CI [.01, .08], p < .01)。次に,遅延テストに関して(図1),Rp-とNrpの再生率の差を検討するために,計画比較を行った。その結果,習得目標群ではRp-とNrpの間に有意な差が見られ(t (35)= 2.81, p = .01, d = 0.49, 95% CI [0.13, 0.85]),Rp-の方がNrpよりも再生率が低かった。一方で,遂行目標群では有意な差は見られなかった(t (41) = 0.00, p = 1.00, d = 0.00, 95% CI [-0.36, 0.36])。
本研究から,習得目標群において検索誘導性促進が生じず,むしろ検索されていない関連情報(i.e., Rp-項目)の忘却が生じることが示された。この結果は,仮説とは異なるものであり,検索誘導性忘却・促進に関する研究においても,遅延後に忘却が生じるという現象は確認されていない。そのため,このような遅延忘却は習得目標特有の影響である可能性がある。しかし,この点について本研究では明確な証拠を提示することができず,今後さらなる検討が必要であろう。
達成目標は,習得目標(自分自身の有能さを伸ばす)と遂行目標(他者と比較して自分の有能さを示す)に大別され(Dweck, 1986),それぞれ符号化過程を導くと考えられる。特に,Murayama & Elliot(2011)では,習得目標はターゲットのみならず関連情報にまで注意を向ける関係性処理を促すことが示唆された。また,近年,達成目標が検索過程にまで影響を及ぼすことが示されている。
Ikeda et al.(2015)は達成目標と記憶検索の関係性について,特に記憶抑制(i.e., 検索誘導性忘却)の観点から検討している。検索誘導性忘却とは,ある情報を想起すると関連する情報を忘却する現象である(e.g., Anderson et al., 1994)。記憶検索時,ターゲットを想起する際,ターゲットとそれに関連した非ターゲット間で競合が生じる。ターゲットの想起ためには非ターゲットを抑制する必要があり,その結果,検索誘導性忘却が生じる(Anderson et al., 1994)。ただし,ターゲットと非ターゲットが統合されている場合,競合が生じず,検索誘導性忘却は消失する(Anderson, 2003)。習得目標が関連性処理を促すことを踏まえると(Murayama & Elliot, 2011),習得目標が与えられた場合,事例間の統合が生じ,検索誘導性忘却は解消されると考えられる。実際に,Ikeda et al.(2015)では,このような仮説と一致する結果が得られている。
さらに,事例間の統合(i.e., 関連性処理)は,検索されていない関連情報の長期的な保持にもポジティブな効果があることが示されている(検索誘導性促進;(Chen, 2009)。そのため,習得目標が与えられ場合にも,検索誘導性忘却が解消されるだけではなく,関連情報の長期的な保持にポジティブな影響を及ぼすことが予測される。そこで本研究では,この点について検討することを目的とした。
方 法
実験参加者 大学生80名が参加した。
材料 60のカテゴリー -事例ペア(e.g. 野菜 – シイタケ)を用いた。
手続き 参加者は,まず達成目標について教示を与えられ,その後記憶課題が実施された。学習段階では全てのカテゴリー -事例のペアが提示され,検索経験段階では特定のカテゴリーに属する一部の事例を想起させた。最後にテスト段階では,直後テストで半分の事例,1日後の遅延テストでは残りの半分の事例について語幹再生テストを実施した。なお,検索経験を行ったカテゴリーで実際に検索経験を行った事例は Rp+,検索経験を行っていない事例は Rp-,検索経験を行っていないカテゴリーに含まれる事例はNrpとした。
結果と考察
まず,直後テストの結果に関して,本実験の結果とIkeda et al.(2015)の結果をメタ分析により統合した。メタ分析には忘却量(Nrp と Rp-の再生率の差分)を用い,正の値は検索誘導性忘却が生じていたことを示す。その結果,習得目標群では忘却量は0と有意な差はなかったが(M = -.003, 95% CI [-.04, .03], p = .85),遂行目標群では0よりも有意に大きかった(M = .05, 95% CI [.01, .08], p < .01)。次に,遅延テストに関して(図1),Rp-とNrpの再生率の差を検討するために,計画比較を行った。その結果,習得目標群ではRp-とNrpの間に有意な差が見られ(t (35)= 2.81, p = .01, d = 0.49, 95% CI [0.13, 0.85]),Rp-の方がNrpよりも再生率が低かった。一方で,遂行目標群では有意な差は見られなかった(t (41) = 0.00, p = 1.00, d = 0.00, 95% CI [-0.36, 0.36])。
本研究から,習得目標群において検索誘導性促進が生じず,むしろ検索されていない関連情報(i.e., Rp-項目)の忘却が生じることが示された。この結果は,仮説とは異なるものであり,検索誘導性忘却・促進に関する研究においても,遅延後に忘却が生じるという現象は確認されていない。そのため,このような遅延忘却は習得目標特有の影響である可能性がある。しかし,この点について本研究では明確な証拠を提示することができず,今後さらなる検討が必要であろう。