[PH66] 一般大学生の自閉症スペクトラム傾向と自己概念,情動への評価との関連
キーワード:自閉症スペクトラム傾向, 情動への評価, 自己概念
問題と目的
近年,自閉症研究において,個人の自閉傾向をスペクトラム(連続体)として捉える考え方を支持する文献が増加した。一般大学生の中にも,自閉症スペクトラム障害(以下ASDとする)の学生や,ASD診断を受けていないものの,自閉症スペクトラム傾向のあることが推察される。
Prizant et al.(2006)はASD児・者への支援において社会的コミュニケーションと情動調整は二つの柱とみなしており,情動研究との関連が注目されている。情動研究において,近年「情動への評価」という概念が位置付けられるようになった(奥村,2008)。情動への評価とは,自己が経験した情動に対する肯定・否定の価値づけを伴う評価と定義される。広汎性発達障害者は定型発達者と比較して,自己の情動について言及する際否定的な発言が多いという知見(滝吉・田中,2011a)もあり,自閉症スペクトラム傾向の高い学生が,どのように自己の情動を評価し,自己の情動を言語化してソーシャルサポートを得られる可能性があるかを検討することは意義のあることと思われる。
また,ASD者の自己に関する研究も多くなされてり,そこでは,回答者の重要特性を考慮することが重要であるとされている(滝吉・田中,2011b)。重要特性における現実自己と理想自己のズレを検討する尺度に,自己概念尺度(山本・田上,2003)がある。個人の重要特性についての自己概念と自閉症スペクトラム傾向との関連を調べることは,自閉症スペクトラム傾向の高い学生の重要特性が彼らの大学生活の適応にどのような影響を与えているか明らかにすることに寄与すると考えられる。
以上のことから,本研究では,一般大学生を対象に,自閉症スペクトラム傾向の高低と情動への評価及び自己概念との関連を検討することを目的とする。
方 法
調査対象 H大学の学生119名を対象。
調査内容 自閉症スペクトラム傾向
Baron-Cohen et al.(2001)の作成した自閉症スペクトラム指数(AQ)の日本語版(若林他,2004)を使用する。50項目からなり,回答は4件法で行う。“あてはまる”,“どちらかといえばあてはまる”という回答に1点を与えて得点化する。
情動への評価 奥村(2008)の作成した情動への評価尺度を使用する。この尺度は,情動についてどのような評価を行っているのか6件法で評価するものである。本研究では「怒り」・「悲しみ」の2つの情動を取り上げることとし,各情動につき22項目,計44項目について測定する。
自己概念 山本・田上(2003)の作成した高校生用自己概念尺度24項目を使用する。この尺度は,ポジティブ・ネガティブの2領域からなっており,各項目において現実自己,理想自己に関する回答を5件法で行う。
自尊感情 桜井(2000)の自尊感情尺度(10項目,4件法)を使用する。
予想される結果
自閉症スペクトラム傾向の高低をAQ得点により分ける。平均値から±1SDで高ASD群,低ASD群に分け,それぞれの群において情動への評価,自己概念,自尊感情との関連を検討する。情動への評価に関して,ASD児が自己の情動に否定的な言及をするという知見(滝吉・田中,2011b)から,否定的評価は,高ASD群の方が低ASD群より高いことが予想される。自己概念の処理に関して,ASD児の重要特性における自己評価が自尊感情を左右することが示唆されていることから(例えば,宮地・小島,2013),重要特性のズレと自尊感情との関連度は,高ASD群の方がより強いと考えられる。
結果と考察
情動への評価及び自己概念を測定し,情動への評価について因子分析をした結果,奥村(2008)と類似した因子が抽出された。情動への評価は,「他者懸念」「必要性」「負担感」で構成されるが,否定的評価の中でも,他者の目を意識しているか,自身の中で経験されているものかによる質的な違いがあるという奥村(2008)の結果を支持するものとなった。また,自己概念では山本・田上(2003)と異なった因子構造がみられたが,各因子とも α=.60以上で一定の信頼性が得られている。性別ごとに情動への評価と自己概念の相関を見たところ,男子ではボジティブ領域のズレとネガティブ領域のズレが負相関であった。女子では,悲しみと怒りの評価が正相関であった。このことから,男子は自己概念のズレの影響を受けやすく,女子は,AQ得点の高低が情動への評価に及ぼす影響について検討していく。今後AQとの関係も含めて詳細に分析していく。
近年,自閉症研究において,個人の自閉傾向をスペクトラム(連続体)として捉える考え方を支持する文献が増加した。一般大学生の中にも,自閉症スペクトラム障害(以下ASDとする)の学生や,ASD診断を受けていないものの,自閉症スペクトラム傾向のあることが推察される。
Prizant et al.(2006)はASD児・者への支援において社会的コミュニケーションと情動調整は二つの柱とみなしており,情動研究との関連が注目されている。情動研究において,近年「情動への評価」という概念が位置付けられるようになった(奥村,2008)。情動への評価とは,自己が経験した情動に対する肯定・否定の価値づけを伴う評価と定義される。広汎性発達障害者は定型発達者と比較して,自己の情動について言及する際否定的な発言が多いという知見(滝吉・田中,2011a)もあり,自閉症スペクトラム傾向の高い学生が,どのように自己の情動を評価し,自己の情動を言語化してソーシャルサポートを得られる可能性があるかを検討することは意義のあることと思われる。
また,ASD者の自己に関する研究も多くなされてり,そこでは,回答者の重要特性を考慮することが重要であるとされている(滝吉・田中,2011b)。重要特性における現実自己と理想自己のズレを検討する尺度に,自己概念尺度(山本・田上,2003)がある。個人の重要特性についての自己概念と自閉症スペクトラム傾向との関連を調べることは,自閉症スペクトラム傾向の高い学生の重要特性が彼らの大学生活の適応にどのような影響を与えているか明らかにすることに寄与すると考えられる。
以上のことから,本研究では,一般大学生を対象に,自閉症スペクトラム傾向の高低と情動への評価及び自己概念との関連を検討することを目的とする。
方 法
調査対象 H大学の学生119名を対象。
調査内容 自閉症スペクトラム傾向
Baron-Cohen et al.(2001)の作成した自閉症スペクトラム指数(AQ)の日本語版(若林他,2004)を使用する。50項目からなり,回答は4件法で行う。“あてはまる”,“どちらかといえばあてはまる”という回答に1点を与えて得点化する。
情動への評価 奥村(2008)の作成した情動への評価尺度を使用する。この尺度は,情動についてどのような評価を行っているのか6件法で評価するものである。本研究では「怒り」・「悲しみ」の2つの情動を取り上げることとし,各情動につき22項目,計44項目について測定する。
自己概念 山本・田上(2003)の作成した高校生用自己概念尺度24項目を使用する。この尺度は,ポジティブ・ネガティブの2領域からなっており,各項目において現実自己,理想自己に関する回答を5件法で行う。
自尊感情 桜井(2000)の自尊感情尺度(10項目,4件法)を使用する。
予想される結果
自閉症スペクトラム傾向の高低をAQ得点により分ける。平均値から±1SDで高ASD群,低ASD群に分け,それぞれの群において情動への評価,自己概念,自尊感情との関連を検討する。情動への評価に関して,ASD児が自己の情動に否定的な言及をするという知見(滝吉・田中,2011b)から,否定的評価は,高ASD群の方が低ASD群より高いことが予想される。自己概念の処理に関して,ASD児の重要特性における自己評価が自尊感情を左右することが示唆されていることから(例えば,宮地・小島,2013),重要特性のズレと自尊感情との関連度は,高ASD群の方がより強いと考えられる。
結果と考察
情動への評価及び自己概念を測定し,情動への評価について因子分析をした結果,奥村(2008)と類似した因子が抽出された。情動への評価は,「他者懸念」「必要性」「負担感」で構成されるが,否定的評価の中でも,他者の目を意識しているか,自身の中で経験されているものかによる質的な違いがあるという奥村(2008)の結果を支持するものとなった。また,自己概念では山本・田上(2003)と異なった因子構造がみられたが,各因子とも α=.60以上で一定の信頼性が得られている。性別ごとに情動への評価と自己概念の相関を見たところ,男子ではボジティブ領域のズレとネガティブ領域のズレが負相関であった。女子では,悲しみと怒りの評価が正相関であった。このことから,男子は自己概念のズレの影響を受けやすく,女子は,AQ得点の高低が情動への評価に及ぼす影響について検討していく。今後AQとの関係も含めて詳細に分析していく。